デーリィ・ジャパン編集長が注目する、気鋭の若手酪農家・石田陽一さんの目線とは?【後編】 | どっこいしょニッポン

デーリィ・ジャパン編集長が注目する、気鋭の若手酪農家・石田陽一さんの目線とは?
【後編】

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酪農専門誌「デーリィ・ジャパン」の編集長・前田朋宏さんと神奈川県伊勢原市で石田牧場を営みながらジェラート屋「めぐり」を経営、いま各界から注目される若手酪農家・石田陽一さんが対談!

【後編】では、「めぐり」のジェラートをいただきながら、あれこれ雑談を。そして石田さんの視線の先にある“未来”を聞かせていただきました。

石田牧場に併設された「めぐり」さんの店舗には、四季折々の優しい色合いのジェラートが並びます。石田さんが選んだのは、塩漬けされた桜の葉を使い、桜もちのような風味が楽しめる「さくらラテ」。前田さんは定番の人気商品「石田ミルク」を。

―――超多忙なお二人!「石田流・前田流」時間の使い方とは?

前田 石田くんさ、本当に忙しいと思うけど、どこで時間を作っているの?

石田 朝早く起きる!(笑)

前田 でも、早く起きても牛舎の作業の時間は変わらないじゃない?

石田 まぁそうですよね。朝搾乳と夕方搾乳は決まっているので、お昼の時間をいかに長くするか、なんです。うちは結構朝が早いんです。9時には終わっていたいので、4時始まり。夕方も16時過ぎくらいからなので、9時から16時までの時間をどう使うか、ですね。

前田 基本日帰り出張だもんね?

石田 そうなんです。朝は7時半には搾乳は終わるので、あとは機械の洗浄だとかなんですが、搾乳だけとりあえず終わらせて、夕方にヘルパーをお願いしておいて空港行って宮崎に行って日帰りというのも全然やります。十勝も普通に日帰りしちゃう(笑)。これも神奈川で酪農をやっている良いところだなと思っていて。羽田空港まで1時間だし、新宿までも1時間なので、酪農家以外でもビジネスマンが受けるセミナーとかにも月2回くらい出ています。いろんな人と会える良さはありますね。

前田 僕は絶対泊まるけどね(笑)

石田 やっぱり仕事は休めないじゃないですか。休もうと思えば休んじゃえばいいんですが、僕は自分の目で牛を見ておかないと気が休まらなくて。

▲前田「あ、キャッシュレス導入してるんだね」

前田 僕の場合は逆に、取材に行って農家さんや関係者と夜一緒に飯を食べに行ってコミュニケーション取る時間を大切にしているかな。あとは会社が9時から17時までだとして、その時間をダラッと仕事するんじゃなくて、パパッとやって、2時間くらいは何も考えない時間を作るようにしてる。そうしないと、企画とか何も出て来なくなるんだよね。

石田 僕も朝スタートする前に、1時間空白の時間を作ります。4時からなので、基本的に3時に起きて、手帳を見ながら10年後をイメージしながら、考える時間を作ります。そうしないと、作業に追われてしまって企画やアイデアが出てこないんですよね。それって経営者としては致命的だと思うから。

前田 僕も始業は朝9時だけど、8時過ぎには会社に行って、その1時間が一番の仕事の時間かな。電話も鳴らないので4時間分くらい仕事できるからね。それで1日終わり、みたいな感じ(笑)。あとは出かけてみたり。うちは大きい出版社みたいに編集とライターと校正者が別とかではなく全部一緒だから。そうやって時間を作らないと無理かな。

―――人生に影響を受けた「本」はありますか?

石田 僕は松下幸之助さんの『道をひらく』ですね。今のように考えるようになったのは、神奈川に帰ってきた24、25歳くらいの頃、経営者セミナーで松下幸之助さんの価値観に触れたことが大きかったんです。今もご存命の方だと稲盛和夫さんとか、偉大な経営者の方の考え方には大きな影響を受けました。中国古典とか仏教系の本もよく読みます。

前田 すごいね。僕は全然読まないんだよね。

石田 へぇ! 意外!

前田 本は作ることで一杯いっぱい(笑)。でも、自分に影響を与えた「言葉」で言うと、昔他の会社で同業の記者をやっていた方が、退職する時に『記者はバカであれ』という言葉を残してくれて。これが僕の仕事をする上での座右の銘になっているかな。バカだから話を聞けるし、全部知ったようになると話は聞けなくなるんだよね。だから自分も何でも知ったようにはならないようにしようと思っています。

石田くんももう中堅どころでしょ? 本当ならあれこれ人に聞くのが恥ずかしい世代になってくるものだけど、石田くんは、“聞ける人”だよね。そういう人はなかなかいないですよ。わからないということを聞けるというのは、最大の成長の源だなと思います。

▲前田「うん、相変わらず、うまい!」

―――人生の「音楽」1枚を挙げるなら?

石田 Mr.Childrenの『終わりなき旅』は、僕の“座右の曲”(笑)です。高校生の頃に出たんですが、今でもよく聴きますね。作業も結構音楽を聴きながらしています。

前田 僕は何だろう…。(スマホのプレイリストを探しながら)あ、長渕剛の『STAY DREAM』ですね。「♪くよくよ~~ぉするなよ~」って。お母さんが病気になって「死にたい、死にたい」って悩んでいた時に3分くらいで作った歌らしくて。それを聞いて歌詞を見ながら曲を聴いたら、泣いちゃった。だから落ち込んだ時とかに聴くといいんですよ。ヤケ酒するよりは歌う方がいいでしょ。

石田 僕もトラクターの中で歌いますよ! ロータリー作業とかしていると眠くなるじゃないですか。だから熱唱してます(笑)

―――1日の中で、「一番好きな時間」は?

前田 僕はね、「靴を磨いている時間」が好きなんです。平気でいつも1時間半くらい磨いています。いろいろ考え事とかがあると無になって磨きます。指でつやを出してさらにストッキングを使って、仕上げにウィスキーをのばす。右に靴用のウィスキーを置いて、左に自分が飲む用のビールを置いて(笑)。オタクなんですよ。

▲いつか子どもにあげたいという二十歳の時に買った革のブーツは、2年に1回、水で丸洗いされているそうです。

石田 すごい! そんなに時間はかけないですが、僕もスーツで出かける時は靴を磨いて履きますね。僕が好きな時間は、「朝、新聞を読んでいる時間」です。今日だと2時半に起きたんですが、人の2.5倍頑張りたいタイプなので、“この時間はまだ誰も起きてないな、よっしゃ”みたいな気持ちになるんです(笑)

“石田陽一”がこの先に見据える未来とは?

前田 石田くんはいろんな会にも出て、酪農以外の人とも繋がってるよね? その繋がりには何を求めているの?

石田 たとえば飲食業をされている経営者の方と話していても、本質的には同じだなと思うんです。売り上げの作り方はどの業態でも同じで、「単価×客数」。客数をさらに分解すると頻度(リピート)ですよね。これは酪農に当てはめると、指定団体制度の中で一元集荷多元販売(※)されています。用途別の乳価(単価)は決まっているから、僕らがコントロールできるのは乳量しかない。でもうちの場合は頭数は拡大できないから、リピート率を上げるしかない。酪農で言う回転数というのは、「繁殖」なんですよね。

※一元集荷多元販売
酪農の場合、各牧場は農協(指定団体)に生乳の販売を委託し、農協(指定団体)は会員牧場の生乳を一元的に集乳し、複数の乳業メーカー、用途に対して多元的に販売している。生乳は年1回、指定団体と乳業メーカーの間で用途(飲用牛乳等向け、チーズ向けなど)別に乳価を決められている。このため、酪農家は生乳の販売の一切を農協(指定団体)に委託することで、一定の乳質を維持できていれば、生産された生乳の全量を出荷することができる。

前田 更新率だよね。

石田 そうです。そういう価値観になっていくと、改善しないといけない部分が見えてきます。あと、酪農は全量買取なので、作ったら全部売れるんですよね。在庫のリスクがないんです。これって、他の商売をしている人からするとあり得ない仕組みですよね。たとえば今日1000キロ搾りました、全部買ってくれます、明日ちょっと多くて1200キロになっちゃいました、それでも全部買ってくれます。

この制度があるおかげで、僕らは生産に集中できるんだなと思えるし、在庫リスクがない経営なんて、他の業界からすると神ですよね。「乳価が安いから上げろ」という声もありますが、このありがたさは、酪農の世界だけを見ていたらわからなかっただろうなと思います。

▲丁寧に掃除された牛舎の中に臭いはない。コーヒー工場で焙煎時にとれるコーヒーチャフ(甘皮)を敷料として使っているという。

前田 異業種とのつながりは、酪農を俯瞰するために必要なんだね。野菜の場合は豊作貧乏もあるから、そういう意味でも地元の農家さんにとっては「めぐり」があることは良いわけだ。

石田 そうですね。台風などで傷がついちゃったり、小さすぎたり形が悪いイチゴとか、うちが買って加工して商品にすることで農家さんのメリットになればと思っています。

前田 そして、その“成長”の先には何が見えているの?

石田 牧場って、基本的には牛乳を出荷するのが毎日の経営ですが、もっと遠くにあるべき酪農の働き方としては、“人を喜ばせる仕事”だと思っています。僕らは出荷して終わりじゃなくて、次に必ず誰かの口に入るわけだから。牧場の中にいると、それがだんだん見えなくなっちゃうんです。でもどの業種でも、成果を挙げられている方には、自分の損得でなく、誰かを喜ばせたい、喜んでもらいたいというモチベーションが共通してあります。だから僕も都心部でやっているからこそ、「石田牧場さんがいて良かったな」と思ってもらいたいという気持ちでいます。

「めぐり」もそうで、お客さんに喜んでもらえて、協力してくださっている農家さんにも喜んでもらえて、ここで働いてくれているスタッフの子たちにもやりがいを感じてもらえたら嬉しいし、彼らにもそういう人生になっていってほしいと思っています。

前田 これから先どんな人と繋がりたいってある? 今、異業種ならどんな人と繋がってるの?

石田 飲食業、保険の営業さんとか社労士さん、士業の方、Webのデザイナー…結構いろんな方と繋がらせていただきました。

前田 作家とか美術・芸術関係はない? おもしろいと思うんだけどな。ここの小田原厚木道路を車で走ってると、石田牧場がバーンと見えてくるじゃない。そうすると写真家さんとか、フラッと訪れる人とかいそうだけどね。

石田 それはまだいらっしゃらないですね。でもこれからぜひお会いしたいです!

▲倉庫の前を通りかかり、「良い農家さんって、整理整頓ができているんですよね」と前田さん。本当だ。すっきりと整頓され、美しい!

▲帰り道、後ろを振り返ると民家の間に佇む石田牧場の姿。石田さんの夢はすべてここに詰まっているんだと思うと、この伊勢原の土地ごとまるっと、とても愛おしい気持ちになりました。

石田牧場のジェラート屋 めぐり

https://meguri-gelato.com/

  • 営業時間:10:00〜18:00 冬季(11月~2月)は11:00〜17:00
  • TEL:0463-93-4870
  • 定休日:火曜日(祝日の場合翌日が定休日) 冬季(11月~2月)は月曜日・火曜日(祝日の場合翌日が定休日)
  • アクセス:〒259-1127 神奈川県伊勢原市上谷777

この記事を書いた人俵本 美奈

全国6エリアの高校図書館から
発信するエンタメフリーマガジン「ch FILES」を編集。
日々、高校生にまみれています。
https://note.com/chfiles/n/n4ddaabc5d47e

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