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“マザービーフ”が愛される平松グループ| 平松大将「自社での餌づくりは今後の畜産の大きな強みに」

  • #和牛

この記事の登場人物

平松 大将
平松畜産
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鹿児島シリーズ最後は、鹿屋市の平松畜産さんを訪れました。 上別府美由紀さんのインタビューでも登場した代表・平松正弘社長が一代で築き、「土から育てる和牛」をモットーにおよそ1万4000頭を飼養、土づくりから餌の生産、繁殖・哺育、肥育、精肉販売・外食産業まで一貫して行うグループ企業だ。

東京で感じてきた 消費者の変化に敏感でありたい

広大な敷地の平松畜産で出迎えてくださったのは、長男・平松大将(たいし)部長。 3年前、新型コロナの影響で東京に出店していた直営の焼肉店をやめ、鹿児島の現場へと帰ってきた。現在は主に子牛の買い付けなどを担当している。 東京でいち早く変わる消費者の傾向を敏感に感じてきた経験は、鹿児島の地で新しい風を吹かせることも多いようだ。

大将 消費者の傾向は東京と鹿児島ではまったく違っています。東京はもう完全に赤身文化。5等級は要らないですね。 …やはり味の趣向も東京から先に変わっていくんですか?

大将 東京が早いですね。その前は関西にいたんですが、東京と大阪でも1年くらい違いがありました。東京がまず変わって、その後1年ほどして大阪が変わって、鹿児島はそこからさらに遅れてくる感じです。

…そんなに違いがあるんですね。

大将 消費者の目線である飲食業界から生産現場に戻ってきているので、僕の場合は普通とは逆パターンなのですが、飲食店の経営をしていたことから、どういう商品をどう売っていけばいいのかという面はとても勉強になりましたし、アンテナが広がったかなという感覚はあります。

大将 今も消費者の時流に遅れないよう、なるだけ外に出ていろんな生産者や購買者に会うようにしています。

…生産者さんとも会われるんですね。

大将 そうですね。九州も行きますし、北海道や那須の牧場も見に行きます。大規模農家同士はお互いに仲が良く、情報交換をしているんです。相乗効果でみんなが良くなればいいと思いますし、特に新しいシステムの部分では、ヒントをもらうことも多いです。

土づくりから循環型で行う 自社の餌作りが安定した品質を支える

牧場の周り、あたり一面のトウモロコシ畑は、すべて平松畜産さんの敷地
▲クラース社のコンバインハーベスター そしてこちらが上空から撮影された写真

トウモロコシを刈り取った後は、また違う草を植えるという。

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…もう牧場に入る前から、敷地の広さに驚いています。きっとこの周辺一体に広がっていたトウモロコシ畑はすべて、平松畜産さんの敷地ですよね…?

大将 そうです、そうです(笑)

…自社の餌作りについても聞かせていただけますか?

大将 今、餌が全然入ってきませんよね。しかも高い。僕たちは一貫で土から餌から全部自分たちで作っていて、牛の糞が出たらそれを堆肥にして土に返し、そこで餌を作って、それを牛が食べて…といった循環型で行っています。

大将 牛って、年間を通して同じ質のものを食べるのが理想なんですよね。 自社でブレンドして餌を作っていると、たとえ輸入ものでシーズンによって質の悪いものが入ってきたとしてもブレることなく吸収率の高い餌を作り続けることができます。これが一番の強みかなと思います。

▲ロールベールサイレージを作る大型の機械が2台稼働している

大将 通常であれば枝肉はだいたい5トン食べて500キロと言われているんですが、うちの餌の場合は吸収率がよく、それよりも発育がいいんです。餌の吸収率の違いで生産性も大きく変わってきます。

▲TMRセンターはほんのり甘い香りに包まれる。「餌は寝かせて熟成させることで質が変わるんです」

大将 肉は未経産も旨いですが、経産牛も旨いんです。長く生きていると自然に熟成されていきます。サシが入っていても脂に重さがない。うちは餌も寝かして熟成させているので、そこが美味しさの秘訣かなと思います。

▲敷地内には子牛用・肥育用・販売用と色分けされた1個450kgのサイレージが積み上がる。餌は県内の農家さんにも販売される。

大規模経営だからこそ 守り続ける “地元還元”の心

お父様の正弘社長が規模拡大を始めたのは13年ほど前。生産だけを行なっていたところから、自社での餌作りを始め、その後10年ほどで一気に拡大。3000頭ほどから1万4000頭まで頭数を増やしたという。

…決断力と思い切りの良さ、気合いがすごいですね。

大将 きっと今がタイミングだと思って、勢いでやったんだと思います。前の農場を知っていて久々に来られた方は皆さん驚かれます。今この場所だけで、生産から子牛、肥育、経産肥育まですべて揃っていて7500頭います。あと別の土地に肥育だけ、経産肥育だけの牛がいます。

…離島にも牧場がありますよね。

大将 徳之島には600頭弱ほどいます。島の牛はまた全然違いますね。餌や育て方が同じでも、海が近かったり水が違ったりで島特有の牛ができ上がります。

▲大規模農場では珍しく子牛は3ヶ月齢まで親付けにして育てられる。「自然に」がモットー

…大将さんが社長から引き継いでいる思いはどんなことですか?

大将 会社の規模も大きいですし、従業員や地域のために何ができるかということを考えていきたいという思いはあります。 どうしてもにおいが出ますし、地域には迷惑をかけている部分もありますからね。だから年末には周りの方々の家を回ってお肉を配ったり、畑の管理にも力を入れたりしています。

…平松グループでは女性の方も多く働かれていますか?

大将 子牛の哺育はみんな女性ですね。女の子がよしよしするとよく育ってくれるんです。母性本能で、細かい違いにも気がつけるんでしょうね。今は機械化されて力仕事もないですから、男性女性というのは関係ないですね。

大学生の方がインターンとか、体験実習のような形で県外からも参加されていますが、農業をやりたいという気持ちがあれば、技術は要らないと思います。農家ごとにやり方も違うし、そこで覚えればいい。牛は正解がないですからね。

…大将さんが今後叶えたい未来は、ありますか?

大将 若い世代から鹿児島の牛の価値をもっと上げていきたいという思いはあります。 せっかくやるんだったら一番になりたいという気持ちもありますしね。 ただ、今僕は27歳なんですが、鹿児島で僕の同世代ってほとんどいないんです。 だいたい若くて30代半ば。そこはやっぱり寂しいですね。

直営のレストランについても伺った。

地元の方に商品を食べてもらえる 場所を作っておきたい

牧場近くと鹿児島市内にある直営店では、精肉や惣菜の販売と焼肉店が併設されている。

大将 地元の方々やスタッフたちに自分たちの商品を直接届けられる場所を作っておきたくて、地元にお店を出しています。だから店舗数は多く要らないなと思っています。

最高の味が手頃な価格で楽しめる店内には、家族連れのお客さんも多い。家族が食事を楽しむ日常の風景。そこにこれほど安心して味わえる和牛があることは大きな文化だ。

大将 鹿屋では生産者が焼肉店を経営しているところも多いんです。そうしたお店では自社の牧場で生産した質の高い和牛を手頃な価格で提供しています。だから鹿児島の人たちは和牛がより身近で、食べる機会も多いんですね。 これは和牛大国である鹿児島ならではかもしれません。

ジュウジュウ〜。 もちろん我々も平松さんのお肉、 いただきました! (口の中ですぅっと消えていく脂!!!) (美味しい…!) 鹿児島の強さは生産者、業界関係者同士のつながりの強さ、そして消費者たちにとって当たり前のように根付いた和牛文化にありました。恐るべし、鹿児島。

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