畜産に生きる人

獣医師ができるのは診断だけじゃない。農場コンサルで地域の酪農を強くしたい

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この記事の登場人物

大塲 孝倫
森のどうぶつ病院
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私たちが健康な生活を送るうえで、医師はとても重要な役割を担います。

それは動物にとっても同じ。獣医師の大塲孝倫さんが静岡県西部の山間地にある森町で『森のどうぶつ病院』を開業してから、地域のペットや産業動物の健康状態は飛躍的に改善されました。

なかには「牛の飼育方法を大塲先生から学んだ」と話す畜産農家のご主人も。大塲さんは獣医師としての専門性を生かしながら、農場のコンサルティングにも取り組み、地域の畜産レベル向上のために情熱を燃やしています。

// プロフィール

大塲 孝倫 森のどうぶつ病院 院長

1973年生まれ。北海道大学農学部畜産学科・岩手大学農学部獣医学科を卒業後、北海道の道南農業共済組合で獣医師として勤務。その後、2009年6月に森のどうぶつ病院を開業。小動物から大動物まで幅広く診察する病院のなかで、主に牛をはじめとした産業動物の診察や管理、コンサルティングを行っている。

一次産業の大変さを思い知り、ホワイトカラーのサラリーマンに憧れていた

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静岡県の森町で父が獣医師という家庭に育った大塲さん。祖父が乳牛を飼育し、さらには家族全員で米や稲も生産。「獣医師」「酪農」「農業」と三足のわらじを履いていた当時の家業を、大塲さんは眉をひそめてこう振り返ります。

「ゴールデンウィークは茶摘みや田植え、秋には稲刈り、そして毎日の牛の搾乳…年中手伝いをさせられていて、それが子どもの頃は嫌で嫌で仕方なかったです。家族旅行なんて一度も行ったことがなかったから。早く家を離れたいと、そればかり思っていました」

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大塲さんは高校を卒業すると「できるだけ家から遠くへ」と、憧れていた北海道の地で大学に進みます。選んだのは北海道大学の農学部畜産学科でしたが、将来的に畜産のような一次産業に関わりたいという思いは微塵もなかったのだそう。

「大学の同級生の多くは、農林水産省や大手の食品製造会社への就職を目指していましたね。僕も同じで、大きな企業に入って東京の高層ビルで働くホワイトカラーを夢見ていました」

しかし、大学で畜産を勉強していくうち、大塲さんのなかに思いもしなかった感情が芽生え始めます。

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「現場で動物と関わりたい」

忙しい父の背中を見ながら、牛を身近に感じて育った大塲さん。その原体験に導かれ、自分自身も父と同じ獣医師を志すように。北海道大学を卒業後、岩手大学の農学部獣医学科に進んで研究室で大動物の構造や生理学、解剖学などを学び、晴れて獣医師免許を取得しました。

その後、北海道の道南農業共済組合で獣医師として勤務。岩手大学の同級生だった獣医師の幸さんと結婚しました。

そして、2009年に生まれ育った静岡県の森町に帰省し、夫婦で森のどうぶつ病院を開業。大塲さんが大動物、幸さんが小動物を担当し、産業動物からペットまで、さまざまな動物を診療しています。

開業時の診療先はわずか1軒。地域の畜産レベルの底上げに尽力した15年間

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地元で開業したものの、父から引き継いだ診療先の農場は古くから付き合いのあった太田牧場のみ。「家族で戻ってきたのに仕事がない…」と焦りが募る大塲さんでしたが、一方で、酪農が盛んな北海道で培った獣医師としての技術や経験が注目を集めます。

「当時、地域の家畜保健衛生所の職員さんから、『静岡西部の畜産レベル向上のために力を貸して欲しい』と相談されたことがありました。酪農家さんは日々の仕事に追われてしまい、新しい知識を得る機会がありませんでした。また、当時注目されつつあったエコーによる繁殖検診、群管理、飼料設計などの技術導入が遅れていたため、その点で酪農家を支援して経営を助けることができれば成績は向上すると考えました」

馬に乗っている男性

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“繁殖を制するものが酪農を制する”とも言われる業界ですが、当時の静岡西部の酪農で起きていたのは、「仔牛が生まれても初動がうまくいかず、すぐに病気にかかる」「健康状態が良くないまま牛が育つので乳量が増えずに儲からない」「設備投資ができないので疲弊し、やがて廃業してしまう」という負のサイクル。

「このままでは自分の病院以前に地域の酪農の未来が危うい」と、強い危機感を覚えた大塲さんは、診察だけでなくコンサルティングに力を入れるように。農場に足を運び、産まれたばかりの仔牛の介助方法や、牛舎の温度管理、飼料設計まで、多角的なアドバイスをしていくと、徐々に依頼する農場が増えていきました。

キッチンで作業をしている男性

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開業から15年、生産者の悩みと正面から向き合い、諦めることなく対話を続けた結果、森のどうぶつ病院は牛と豚を含めて約70軒の農場を診るまでに拡大。地域の畜産レベル向上に貢献しています。

小動物と大動物を両方診られるからこそできること

建物の前のベンチに座っている男性

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産業動物の診察やコンサルティングの依頼が増えるのと並行して、妻の幸さんの努力により、小動物の病院としての知名度も高まっていきました。

そのなかでも特徴的なのが、ヤギ。県外も含めると約80軒ものヤギの飼い主さんがかかりつけ医として森のどうぶつ病院を選んでいるのだそう。しかし、そもそもヤギって小動物…?ペット…?

「ヤギは体の構造上、大動物に分類されます。でも牛や豚とは違い、ペットとして飼われていることがほとんど。犬や猫を専門に診ている動物病院では、ヤギはあまり積極的に診ないようです。
ヤギの診察は基本的に僕の大動物チームの仕事ですが、小動物チームの力を借りながら、飼い主さんの家族として大切に診ています」

「病気を治す」その前に「病気にさせない農場環境」を目指したい

小屋の中にいる男性と馬

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一次産業の大変さを子どもの頃から身に沁みて感じ、都会で颯爽と働くホワイトカラーを目指していた大塲さん。現在はカーキ色の診療着を纏い、長靴を履いて農場に足を運んで、地域の生産者さんや牛と向き合っています。

最後に、大塲さんは今後のビジョンを次のように語ります。

「夢がない話と思われるかもしれませんが、病院をさらに大きくしたいという気持ちはあまりありません。それよりも、今まで以上に一軒一軒の農場をしっかりとサポートしていきたいです。
病気を治す以前に、病気にならない農場の環境をつくることが生産者さんの利益になることは間違いありません。
牛舎の改善のアドバイスだけでなく、僕たちがすぐに駆けつけられないときでも緊急対応ができるように、農場の方にやり方をレクチャーしています。
今後は、講習会や勉強会を開いて管理技術をシェアしながら、農家さん同士のコミュニケーションの場もつくっていけたらいいですね」

// この人の職場

森のどうぶつ病院

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