畜産に生きる人

「僕は人が好き。だから牛を育てている」 目指すは“人と牛をしあわせにする牧場”

  • #六次化

この記事の登場人物

坂根遼太
坂根牧場 4代目代表
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坂根牧場の放牧風景のような、型にとらわれない自由な考えで畜産に携わる坂根遼太さん。

そこには10代〜20代前半で経験した海外留学がかなり大きな影響を与えているようです。音楽や映画が大好きな坂根さんが、酪農にエンターテインメント性を見出し、「農業ってカッコいい!」と意識が変わった経緯を追います。

// プロフィール

坂根遼太 坂根牧場 4代目代表

1984年、北海道大樹町生まれ。帯広農業高校を卒業後、1年半のニュージーランド語学留学、2年間のアメリカ農業研修を経て、就農。乳製品ブランド「乳life」、放牧牛肉ブランド「草乃牛」を展開。アニマルウェルフェア認証農場として、「人と牛をしあわせにする牧場」を目指す。

継ぐ気はなかった酪農業。海外の酪農家たちの生き様に触れたことで変化

北海道の酪農一家に生まれながらも、洋楽や洋画を愛して育ち、アメリカに暮らすことに憧れ、高校時代にアメリカへ短期の語学留学、高校卒業後は1年半、ニュージーランドへ語学留学。その後2年間、JAEC(国際農業者交流協会)を利用してアメリカへ農業研修へ行ったという坂根さん。

2年間のアメリカ農業研修へ行っていた、坂根さんが二十歳の頃の写真

当時は「大変なのに地味だし、生活にゆとりがない」家業の酪農を継ぐ気は一切なく、アメリカの農業研修も、「2年間のビザが取れるから」という理由からだったといいます。そんな坂根さんの気持ちを大きく変えたのが、アメリカの酪農家たちの生き様でした。

「みんなオシャレで、農場によっては音楽が流れてきたり、生活として酪農を楽しんでいたんです。そんな姿に衝撃を受けて、「農業ってカッコいい!」と思いました」。

坂根さんのアメリカ話はどれもワクワクさせてくれるものばかり。

「農業研修では、研修生はさまざまな州で長期実習するんです。僕は比較的シアトルに近い都会だったのですが、友だちはカウボーイ精神の強いアイダホ州の馬で移動するような場所で。町が遠いから1ヶ月に1回まとめて買い物して来て、全部冷凍しておく、みたいな生活を送っていました。そんな友だちと1年半振りに会うと、ヤバいんです。もう価値観が一変して、ジーンズにとんがったブーツ履いて、噛みタバコをクチャクチャしてる、みたいな(笑)。いつもナイフを持っていて、缶とか開けたがるし。面白かったですね」

「ジーンズにも色々あって、酪農家はWrangler(ラングラー)を好むんです。カウボーイって、Wranglerなんですよ。Wranglerのジーンズは股の内側の縫い合わせと外側の縫い合わせが逆になっていて、内側が柔らかい縫い目になっているんです。馬の鞍に座った時に痛くないように」

と、ご自身のジーンズを見せながら縫い目の説明をしてくださる坂根さん。

・・・坂根さんのそのジーンズはやっぱりWranglerなんですか?

「あ、僕のジーンズ? これね、これは1周回って、ユニクロっす!!!」

取材スタッフ一同、大爆笑。さすが、エンターテイナーの坂根さんです。

こうしてアメリカの農業研修で酪農家のイメージが大きく変わり、さらにカフェをすることが夢だったという現在の奥様とも出会い、自身が育った北海道の放牧酪農が、価値のあるものだったのだと初めて気づいたそうです。そこで、大樹町にいながらも何か面白いことができるのではないかと考え、実家を継ぐことを決意されました。

畜産は毎日の仕事。だからこそ“楽しく”を心掛けている

「帰国して、自分はどんな牧場、どんな会社を作りたいのかと考えた時に、“音楽が流れてくるような牧場”だと思ったんです。だから坂根牧場の経営理念は「人と牛をしあわせにする牧場」。働いている人もお客さんも、みんながしあわせになるような、思わず笑っちゃうような牧場を目指しています」

「畜産は毎日の仕事なので、だからこそ“楽しく”というのは、絶対だと思っているんです。だから搾乳中も牛舎には音楽を流しています。よく牛にクラシックを聴かせるといいとか聞きますが、あれって、音楽によって人がリラックスするから牛にとってもいいんじゃないかと思うんです。だから、僕が搾乳する時と母がいる時などで流す音楽も変えていますよ」

放牧地の中に建てられたチーズ工房の2階に設置されたゲストハウス「on the cheese」についてはこんな思いがあるようです。

ゲストハウスの窓からは広大な放牧地が広がる

「酪農家ってここから離れられない仕事だから、情報は外の人が持ってきてくれます。例えば農協職員だったり、餌屋さん、機械修理の人…ゲストハウスのお客さんもそうです。僕たちがやっていることに対して感動してくれたりすると、自分たちのやっていることに価値があるんだと再確認することもできますし、それがスタッフたちのやる気にもつながります。家族経営でもあるので、親との関係が良くなるように意識することも大事だし、環境づくりがサステナブルにつながると思っています」

もちろん、放牧の牛乳(乳life)や放牧牛肉(草乃牛)の生産も、坂根さんを始め牧場スタッフたちの大きなモチベーションのひとつ。坂根さんにとっては、アニマルウェルフェア認証への取り組みも、そうしたことのひとつなのかもしれません。外からの声や評価を聞く機会など、仕事をする上のモチベーションをいくつも用意して、全員が気持ちよく、誇りを持って働けるような環境づくりを意識的に生み出しておられるように感じました。

今後は輸出も視野に入れている。世界中の友だちに坂根牧場の牛乳を飲んでもらえるように

スタッフにも「酪農だけが人生じゃないよ」とよく言うんですが、引き出しは多い方がいいと思っています。「映画も観ようよ」とかね。だから投資になる研修などは積極的に支援できるように研修代や交通費は出すし、休んでもらいやすいようにもしています。

今は製品の輸出も考えています。留学で出会った友だちとも交流は続いていて、先日も台湾の友だちが家族で牧場に遊びに来てくれました。そんな友だちが自分の国で、僕たちの牛乳が飲めたらいいじゃない? だから小ロットでいいんです。今はそんなことも調べ始めています」

常に自分たちが「楽しいこと」を生み出そうとしている坂根さんの酪農スタイルはまだまだ変化していきそうです。

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