畜産を学ぶ

帯広畜産大学・瀬尾哲也准教授に聞く、日本のアニマルウェルフェアの現状とこの先

大学 北海道
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「アニマルウェルフェア」という言葉をよく耳にするようになりました。日本語にすると「家畜福祉」。『生まれてから死を迎えるまでの間、家畜にとってできる限りストレスや苦痛が少なく、行動要求が満たされた、健康的な飼育方法をめざす』畜産のあり方のことですが、スターバックスがケージ飼育の卵の段階的削減を表明するなど、多国籍企業が次々とアニマルウェルフェア対応への取り組みを進める欧米に比べ、日本での普及はまだ難しい状況であるようにも感じます。

日本におけるアニマルウェルフェアの実情について、帯広畜産大学の瀬尾哲也准教授に話を伺いました。

アニマルウェルフェアと生産性の関係

日本のアニマルウェルフェアの第一人者であり、一般社団法人アニマルウェルフェア畜産協会代表を務める瀬尾哲也准教授。帯広畜産大学では家畜生産科学ユニットを担当、研究室ではアニマルウェルフェアと家畜の行動を研究、アニマルウェルフェアの評価の開発をされています。

まずは、日本のアニマルウェルフェアへの取り組みの現状をお聞きします。

「これまで日本では“安く、たくさん”が望まれてきたことで、農家さんもそれに合わせて生産してきました。そこには生産効率を重視した品種改良や濃厚飼料を大量に与えるなど家畜の幸福度の犠牲が払われてきました。今後は家畜のストレスをできる限り少なく、行動要求が満たされた健康な暮らしができる飼育方法をめざしましょうというのがアニマルウェルフェアの考えです。

アニマルウェルフェア畜産認証牧場のひとつ、坂根牧場(https://dokkoisyo.jp/workplace/sakane-farm/)(北海道)

生産性という面では、農家さんにとっての生産性は、たとえば生乳を何トン出荷したかで考えられていますが、実際はどれだけのお金が手元に残るかです。ですから少ない頭数でなるべく家畜をていねいに飼い、病気などを出さないようにして生産性を上げるという方法もあります。

博士課程に進んだ学生がアニマルウェルフェアのレベルの高さと生産性の関係を調査したところ、アニマルウェルフェアの評価基準を上回る農家さんほど家畜の病気が減り、繁殖率や乳質が上がるという結果が出ました。その部分では経済的なメリットにも繋がっています。

ただ、現状では“アニマルウェルフェア”という言葉の意味を間違えて捉えられることも多く、大規模農場などでは飼養頭数に対して手がかけられないため牛の状態が悪くなってしまうというのが一般的な日本の畜産の状況です」

消費者の理解が促進の後押しに

欧米にかなり遅れをとっていると言われる日本のアニマルウェルフェアですが、その原因について瀬尾先生は「ひとつに歴史の違い、次に消費者が家畜のことを考えるきっかけがなくなってきていること、そして教育の違いにある」と指摘。

「家畜動物については牛舎内で飼われていることも多く、消費者が牛を見る機会が減り、手に取った牛乳がどのような環境で育てられた牛から搾られたかなど、生産現場に関心を持つ機会が減っています。消費者の関心が高まれば、アニマルウェルフェアに取り組む農家さんも増えてきます。当然最初はコストもかかりますが、消費者の理解を得て海外のように普及してくれば、商品の価格の差はなくなってきます。時間はかかりますが、今後も普及に取り組んでいく必要があると考えています」

▲アニマルウェルフェア畜産の認証を受けた農場が、看板や販売促進物に表示することができる、アニマルウェルフェア畜産認証マーク。消費者が食の安全・安心を選ぶ際の基準に。

これからは“センス”が求められる時代

さらに、“これからの時代に求められる人材”について聞くと、瀬尾先生は「センス」と回答。

「今後はAIがこれまでのデータから判断して、人間に指示を出すような時代になります。機械に学びながらも、最終的には人が判断します。ですから牛を見る目、環境を見る目、これからの農業の情勢を見る目…特に先を見る能力を身につける必要があります。

昨今の飼料高騰など、外部依存が大きい農家さんは今特に苦しい状況です。今の情勢はこの先もまだ続くでしょうし、コロナ禍に限らず、外部依存はあればあるほどさまざまな情勢に振り回されます。できるだけ外部に頼らず自給率を上げ、自分の畑で作れる飼料の量に見合った頭数を病気が出ないように育てて生産性を上げることもひとつ。

高い自給率の太田牧場(静岡)

自分たちで加工まで行なって牛乳やチーズを作ったり、肉の販売をするなど、経営のセンスも求められてくると思います」

これまでの経験や学び、見て感じてきたことの積み重ねから生まれる、“センス”。今後は畜産現場でもより多角的な視野が求められてきそうです。

坂根牧場の六次化商品「乳Life」

豊かなフィールドでの学びが充実した帯広畜産大学

十勝は、牛の飼養頭数が人口を上回る北海道有数の酪農地帯であり、ジャガイモや小豆、小麦、トウモロコシなど、日本の食料基地として北海道の中でもトップレベルの農産物の生産量を生み出す、北海道の中でも「もっとも北海道らしい」と言われるエリア。唯一の国立農学系単科大学である帯広畜産大学には、この豊かなフィールドでの実践的な環境を求め、全国から学生が集まります。

帯広畜産大学では、「農場から食卓まで」をスローガンに、「食を支え、くらしを守る」人材を育成。一貫した環境が整う十勝の地で、食と農の大切さ、動植物の命の尊さを学び、幅広い視点で現場に適応できる知識と実践力を養います。さらに国際的視野を備えた人材の育成を目指し、国際交流の機会も充実しています。

畜産学部の教育課程は、以下のとおり。

■共同獣医学課程 [6年制]

(1年次より以下のユニットに所属)
・獣医学ユニット(国際的視野を身につけた獣医師を養成)

■畜産科学課程 [4年制]

(2年次より以下の6つのユニットよりひとつを選択して所属)
・家畜生産科学ユニット(生命科学分野から畜産現場まで実践的に学ぶ)
・環境生態学ユニット(持続可能な農畜産業と生命科学分野の未来を探る)
・食品科学ユニット(研究・開発から食品製造までを担う人材を育成)
・農業経済学ユニット(生産から消費までを社会科学的に考察)
・農業環境工学ユニット(環境に配慮した先進的農業の発展を目指す)
・植物生産科学ユニット(土壌から作物の生理・生体・育種までを総合的に学ぶ)

キャンパス周辺にも農家さんが多く、畜大生がアルバイトで手伝いに行くことも多いそうです。農家さんも学生の学びに協力的で、知識が実践と結びつく学習環境に恵まれています。

まずは広大な学習環境を肌で感じるのが一番。キャンパス見学に訪れよう

オープンキャンパスの実施は年に一度。主に専門教育ユニットの教育研究内容の紹介、農場や寮など広いキャンパスの附属施設等の見学・体験ツアーが行われ、例年この日だけで1,000人以上が全国から集まります。

オープンキャンパス以外の日でも大学見学は可能。ただし、伝染病から家畜及び関連する生き物を守るため一般の車や徒歩での立ち入りを禁止している区域があるので、こちら(https://www.obihiro.ac.jp/visit )で詳細を確認してから見学してください。大学案内・入試に関する資料配付や相談は、総合研究棟Ⅰ号館1階にある入試課にて、平日8:30~17:15(12:00~13:00除く)対応可能。

農業高校生に向けた推薦選抜入試や奨学金制度もあるので、確認してみてください。

オープンキャンパス2024パンフレット

https://www.obihiro.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2024/06/240614_chikudaiOC.pdf

■学校情報

帯広畜産大学
〒080-8555 帯広市稲田町西2線11番地
Tel: 0155-49-5321(入試課入学試験係)
https://www.obihiro.ac.jp/

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