畜産を学ぶ

マンガ『銀の匙』の舞台・帯広農業高校へ!地下アイドルが畜産エリートと1日農業体験

高校 北海道
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こんにちは、地下アイドル兼ライターのみほたんです。普段はライブ活動をしつつ、このようにライターとして記事を執筆しております。

趣味は漫画を読むことです!

ところで皆さん、『銀の匙 Silver Spoon』を読んだことはありますか?

「ハガレン」でおなじみの漫画家・荒川弘さんが描く漫画で、北海道の農業高校を舞台に、高校生たちが将来に悩んだり恋愛したり、美味しいものを作ったり食べたりする学園青春&農業物語です。農家の跡取り問題や学生起業なんてシビアな話もあれば、動物たちに囲まれたドタバタラブコメ要素もあって、これがめちゃくちゃ面白いんですよ!

都会の進学校から農業高校に進学してくる主人公と同じように、読んでいると学校のスケール感や授業の特殊さに驚きます。ほんと、笑っちゃうくらいに。
でも学校の中にたくさんの動物がいたり、高校生の時からこんな専門的な授業や実習をしたり……大変そうだけど楽しそう!

この『銀の匙』のモデルになった高校が北海道には実際にあるというでないですか!

本当にこんな朝早くから実習があったり、迷子になりそうなくらい広大な敷地だったりするのかな? 農業高校のリアルな学校生活気になる!

北海道帯広農業高校にやってきた

というわけではるばる北海道帯広農業高校に来ちゃいました!

牛!!

豚!!

本当に学校の敷地内に沢山の家畜たちが!

そして、農地の合間に伸びる視界の果てまで続くこんな美しい道まで……

ってこれ、本当に高校ですか!?

と、圧倒されちゃいましたが、ちゃんとした高校なんです!

北海道帯広農業高校は2020年で創立100年を迎える歴史ある農業高校。農業科学科、酪農科学科、食品科学科、農業土木工学科、森林科学科の5つの学科があり、2019年現在、589人の生徒が学んでいます。
敷地面積は110ヘクタールで、全国の高校で2番目に大きいそうです。
(ちなみに一番広い北海道標茶高校は「山を持ってる」らしい。そりゃでかい)

校舎を見てやっと高校らしさを感じたのですが、これはほんの一部。
校門に設置されていた地図を見てもらったら、この広さが分かっていただけるでしょうか?

野球場が小さく感じるよね!

この敷地内に、牛舎や豚舎があり家畜たちが生活しています。ちなみに農地はこの地図の外なので、学校自体はもっと広い!

防疫の関係で入れなかったのですが、もちろん鶏舎も!

家畜ではありませんが、馬術部の馬もいます。

そしてこちらが『農業経営者育成寮』。いわゆる学生寮にもやってきました。

農業科学科と酪農科学科の1年生は1年間、食品科学科の生徒は4ヶ月間、全員が寮生活を送ることが決められています。進級後も、遠方進学の生徒は寮に残ることも。

育成寮の中の食堂入口には、漫画に出てきた「銀の匙」が飾られていました!

……と思ったら、こちらは荒川弘先生から寄贈されたものでした。「働かざるもの食うべからず」という大先輩からの言葉が重い!

欧米で「銀の匙」は裕福さや幸福の象徴。作品の中で「食いっぱぐれないって意味では農家の子は銀の匙を持って生まれてきた」と語られるシーンがあるんですよね。
また読み進めていくと、さらに深ーい意味も語られていくのですが……。とにかく、本当にここが舞台になってるんだなぁ、と実感。

それにしても大自然のなか、動物たちがすぐ近くにいて、寮で同級生たちと共同生活……家から徒歩10分の普通科しかない高校の出身なので全然想像できません! 未知数すぎる!

早朝から動き出す!帯農生の1日を体験

せっかく来たのですから、実際に帯農生の1日を体験させてもらうことに。
『高校生活を体験』だなんて楽しそう~!と浮かれていたのですが・・・

告げられた朝の集合時間は午前5時45分。

寒っ・・・眠っ・・・・え・・・寒っっ・・・!!!!!

気温は1度(取材は10月半ば)。

「コッケコッコーーーーー!!!」

とまさしく漫画みたいな鶏の鳴き声が響き渡っています。

寮の1年生は、当番制で1年間のうち合計4週間、朝の実習が決められています。
『銀の匙』でも、入学後すぐ朝の実習で打ちのめされるシーンがあるのですが、本当にこの時間からだとはびっくり。
過酷すぎないか!?

畜舎のあるエリアは衛生管理区域と決められているので、しっかりと足元を消毒して長靴に履きかえ、防護服に身を包みます。

着替えたぞー! と到着したらもうすでに実習が始まっていました。みんな、着替えと作業の取り掛かりがめちゃくちゃ速い。
班は二手に分かれて作業しており、こちらのグループは牛たちの搾乳を行なっています。

消毒して、器具をつけて手際よく作業を進めていました。
牛たちも馴れているため、搾乳室の扉が開いたら自分たちでスムーズに機械の前に移動。かしこいなぁ。

もう一方は牛舎の掃除を行なっていました。

私が到着した頃にはもうほとんど作業も終わりかけ……!
急いで手を動かすものの、間近で見る牛がでかすぎて硬直。

近すぎちゃってどうしようです。

高校生に交じって何の役にも立たない私ー!! すみませんー!!
寝起き即この作業って……当番制とはいえ、すごくハードですよね。
朝実習が終わり、時刻は朝7時。

うそでしょ……これから登校だなんて……!!

もう1日分の仕事を終えたような気持ちになっていましたよ? 違うの?

 
これぞ寮生活って感じの元気100点満点の朝ごはん風景。
食卓には帯広農業高校オリジナルの牛乳が並びます。

その名も「農高牛乳」。風味が落ちないよう低温殺菌処理しているのでとても甘くておいしいのだそう。
朝ごはんを食べたら元気良く登校!

ちょっと待って、個人的にはコート着たいくらいなんだけど結構な薄着じゃない!?
寒くないのか思わず聞いてみると「寒いけど大丈夫でーす!」と元気のよい返事が。
若さなの? 慣れなの?

とにかく、私も朝ご飯をねじ込んでみんなと一緒に学校へ!

実習が終わってまた実習

1限目は1年生の酪農科学科の授業にお邪魔します。
さっそく座学ではなく実習の授業です。

ちなみにHRが終わって一緒に移動したはずなのに、私が到着した時には皆さん着替えて整列していました。

朝実習に引き続き、生徒たちの動きの素早さに驚きます。

次の瞬間には道具を手にして作業始めてますからね。
1年生って入学して半年ですよね? 無駄の無さがすごい……!!

今日の実習は、デントコーンという飼料用のとうもろこしを剥いて乾燥させる作業です。

校内で栽培したデントコーンを家畜の餌として活用するこの実習を通じて、購入飼料に頼らない家畜飼養を学ぶのだとか!

和やかにお喋りしつつも、しっかりと手を動かす生徒たち。

 
剥く班、運ぶ班、吊るす班とグループもその場で分かれて分担していたのですが、「〇〇君は手先が起用だから吊るす係だ」「じゃあ××の班は運ぶ係な」と、さすが毎日実習をしているだけあってスムーズに作業に取り掛かっていました。

学校の中で家畜の繁殖、可愛い仔たちがたくさん!

せっかく着替えて衛生管理ゾーンにやってきたので、家畜たちの畜舎にも再び入らせて頂きました。

牛舎にいたのは……

キュートな仔牛ちゃんたちぃぃぃぃ!!!!

めちゃくちゃこっち見てるーーーー!!!!

すみません、お邪魔してますーーー!!!!

仔牛ちゃんたちも気になりますが、こちらに初めて見る謎の装置が。
これは「繁殖管理盤」というもので、円形のカレンダーには「発情期」「妊娠鑑定」「投薬」など牛たちの発情→妊娠→出産を一見化できる装置。

購入すると15万円というところ、帯農の各科の生徒たちが力を合わせて作っちゃったそうです!

マグネットは100均で買ってきて、自分たちで木を丸く切って……。『銀の匙』のなかでも、犬小屋とかラクレットオーブンをサクッと作っちゃうシーンがあるのですが、マジでこういうの作っちゃうんだ……!!
あ、ちなみに2巻で主人公が農高生として愛着がわきはじめるきっかけになった、例のピザ窯もありましたよ!

このボードで確認しながら、生徒たちが自分たちで牛たちの妊娠から出産まで管理しているそうです。
何回でも驚いちゃうんだけど、本当にここ、高校ですよね?

そして牛舎のお隣には、豚舎!!

ここにもハイパー可愛い子豚ちゃんたちが!!

かわいすぎる……!!!

豚は成長が早く、すぐに大きくなるのでこんなに小さい仔たちを見られるタイミングは結構レアらしいです。

帯農で飼育、繁殖されているのはバークシャー種という黒豚。
半年ほどでこのサイズになり、食肉用に出荷されるんだとか。これくらいの大きさが肉が硬くならずおいしいんだそうです。ちなみに、繁殖用のお母さん豚はもっと大きくてびっくりしました!
家畜ってこれまで沢山の先人たちが色々改良して今日まで来たんだなぁ。
私は何も知らずに豚肉を食べていましたよ。

写真を撮りたかったので、生徒たちに協力してもらい集合!

板を使って豚たちを追いやってくれるのですが、豚たちも負けていないというか元気いっぱいに向かってきます。

好奇心旺盛な若豚たち、フゴフゴ近づいてきて鼻先でつついてきたり甘噛みしてきたり。可愛いけどめちゃ力強い!

ぎえぇー!! 豚を扱うのは簡単じゃないぜ!!

精子の数を数える!?本格的な設備と授業

実習は、作物や家畜を扱うだけではありません。

次は3年生の酪農科学科の授業にお邪魔しました!
この時間は「課題研究」という授業で、班に分かれて実践的な実験を行っていました。

立派な器具も揃っています。

この日は、液体窒素で凍らせていた牛の精子を解凍して、マイクロマニピュレーターという装置でその動きや数を確認するという実習。
私はド文系なので勝手なイメージなのですが、高校というより大学の研究室かな? という本格っぷりです。

あとから畜産の教科書を見せてもらったんだけど……用語も図もさっぱり分からないし、難しい! 本当にこれ全部やるの?

ハイカロリーランチ&一般教養の授業も

はい、やっとお昼です!!
朝から体も頭も使って……いや、私は大したことやってませんが……まだ正午なんです。

寮生たちにはお弁当が届けられます。

先生にお伺いしたのですが、寮生たちが1日に摂取する食事のカロリーは2500~3000キロカロリーという設定だとか!多い!
「男子高校生が丸一日動けるように」とのこと……。食べ盛りの人たちでも全然心配いらないですね。
ご飯がぎゅうぎゅうに詰まってる……!

ちなみにこの日は美味しいお肉も入っていて、生徒いわく「当たり」だそうです。

昼食中にお話を聞かせてもらったのは1年の酪農科学科の本多泰士さん。ニックネームは「しべちゃ」。帯農から離れた標茶町から進学しています。

 「この高校に来てよかったーって思う時ってどんな時ですか?」

 「帯広農業高校は設備もすごく整っているし、色んなところから将来畜産をやっていこうっていう夢を持った人たちがたくさん集まるところ。そういう人たちと将来にわたって繋がりも出来るので良いなって思っています」

 「地元から離れての受験って、成績優秀者じゃないとだめなんでしょうか」

 「成績も関係しますが、将来やりたいことを達成するために、帯農で学びたいという意識が大事なようです。小学校の時に『銀の匙』を読んで帯農に興味を持って、中学でもその気持ちが変わらなくてそのまま……」

 「中学の時から、帯広に高校見学とか来てたんですか?」

 「来てましたよ! 北海道に住んでいても、帯広……もとい十勝って憧れるんですよ。十勝って北海道に開拓に入ってきて、最初から農業的に安定して成功している土地なんですよ。なおかつ、今も最先端にいるんです」

 「卒業したらすぐに家を継ぐんですか?」

「いえ、まずは違うところに就職して、色んなものを見て吸収したいとおもっています。それから家に戻ると思います」

 「めちゃくちゃ将来見据えてる! どこまでも、私が知ってる高校1年生像からはかけ離れてるなぁ」

さらに午前の実習におじゃまさせてもらった3年生にもお話を聞かせてもらったのですが、進路も決定していてより一層安定感がハンパなかったです。

2020年度の農業科学科は15人、酪農科学科は5人が卒業してすぐに実家を継ぐそうです。
大学進学、実家以外のところへ実習に行く生徒もいるそうですが、農家出身の子のほとんどがゆくゆくは後継者として家に戻るのだとか。

進路については、高校入学前から決めていた子もいれば、元々酪農の道に進むつもりはなかったけど職場体験を経て進学先を決めた子もいるようでした。

おじゃました1年生のクラス、午後からは国語の授業。

帯広農業高校は忘れがちですが公立高校。専門的な授業はもちろん、普通の高校と変わらない授業もあるわけです。

朝から実習続きでお昼ご飯食べたら、絶対眠いと思うんですけど!
一旦お昼寝タイム挟んで良いのでは?

しかし、生徒たちはこの通り。集中して授業を聞いています。えらすぎ。
現代文に出てくる離れ離れになる親子の心境を「みんなも寮に入る前の日はどうだった?」と先生が聞くと、「普通だった!」とみんな口々に発言するなど和気藹々とした雰囲気で、先生と生徒の距離も近い気がします。

放課後は一般販売や部活、帯農生の1日はまだまだ続く!

さて、授業とHRが終わり、放課後は学校内の販売施設「あぐりす」にやってきました。

 
ちなみに帯広農業高校ではこのエゾリスちゃんがマスコットで、色んなところで見かけます。イラストだけじゃなくて、本物もいるんだって!

取材した日は学校内で生徒たちが育てたり加工したりした、野菜や牛乳、食品を生徒たち自ら一般の方に販売する日でした。

とれたて新鮮な野菜たちから、

寮にもあったオリジナル牛乳、加工品まで!

本格的な販売にも驚きなのですが、びっくりしたのはお客さんの数!

先頭の方は1時間前から並んでいるそうで、めちゃくちゃ人気。
おつかいで買って帰る生徒たちもちらほら。なんせ新鮮で、安いんです。

並んでいる間に次々「売り切れでーす!」の声が響き、その人気の高さが伺い知れます。

ゲットしたのはハムとコーヒー牛乳と豆ぐると!

『豆ぐると』は、天然オリゴ糖成分『ラフィノース』を配合した豆乳ヨーグルトで、食品科学科が開発したオリジナル商品なんですって。

ハムを買った私に先生が「お昼見た豚たちの、お兄ちゃんやお姉ちゃんですよ」とさらりと一言。

そうですよね…!
このハムになるまでに、ここで生まれて育って、お肉になって加工されて……そのほとんどの工程がこの学校内で行われてるんですよね。

この時間は、放課後なので部活をやってる生徒もたくさんいます。
帯広農業高校は陸上部やスピードスケート部、軟式テニス部が全国大会に出場したり、野球部が秋の北海道大会でベスト4に入って21世紀枠で甲子園出場が決まったりと、部活動にもかなり力を入れています。

その中でも、馬術部を見学させてもらいました!

馬術部、是非とも見学したかったんです! 『銀の匙』の主人公も馬術部ですからね!

馬、大きいけど可愛い!そして賢そうな瞳……。初めて馬術を間近で見たのですが、人馬が一体となって障害物を越える様子に感動しました!

部員の方の話をきくと、朝は6時前に馬房の掃除、20時には見回りと超ハードスケジュール!
本当に帯農生の体力どうなってるの!?

全ての取材を終えて時刻は午後6時前、寮に戻ってきたのですが……

疲れた……。

早起きだったから眠いっていうのもあるし、どこに一番疲れが来てるって、足! 足です! 広大な学校の敷地内を動き回って足がバッキバキに痛い!
正直、漫画の中で朝5時から実習! 馬の世話! 専門的すぎる授業とそれについていく生徒たち! ってのは、ちょっと大げさに描いたフィクションだと思っていました。

でも全部マジだった!!

どうして帯広農業高校の生徒たちは、こんなにちゃんと将来を考えられるの!? と驚いていると、先生がこう話してくれました。

「確かに将来後継者になる子たちが多いけど、会社経営という意味だけではなく、みんな自分の人生の経営をしていかないといけない。そういう意味では、後継者だけじゃなくて全員が経営者なんです。自分の人生のリーダーとして、誰かに引っ張ってもらうんじゃなくて、自分で引っ張っていかないといけない。そういうことを日頃心がけて教えていますね」

そんな真面目な先生の話がありつつも、「『銀の匙』の映画に出てた中島健人君が好きで、楽しそうだなって思ってたんです!」「校則が厳しいんですよ!前髪が眉毛より上じゃないとダメだから頭髪検査の時は頑張って前髪を巻いて短くする」と、高校生らしい話も出てちょっと安心しました。

恋愛トークで盛り上がるところはみんなおなじだなあ。

まとめ

自分の高校生活とは全てが違っている帯広農業高校での1日は、驚きばかり!
本当に疲れたけど、振り返ってみると思い出されるのは実習や授業、課外活動でのみんなの生き生きとした姿。


生徒それぞれが「帯広農業高校でこれを学んで卒業したい」そして「卒業してからはこうしたい」という、しっかりとした筋道のある目標を持っていることが印象的でした。

こんなにも将来を見据えてキラキラしてる高校生たちがたくさんいれば、畜産の未来は明るいぞ!

<おまけ>

 
廊下で、イラストやメッセージが書かれたじゃがいも交換が行われていました。
これぞ農業高校にしかない青春の風景。