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養豚農家×食肉卸×飲食店が三位一体となり、全部おいしく食べて“食品ロス”を目指す、一頭飼いへの挑戦

  • #畜産女子
  • #六次化

この記事の登場人物

平野恵さん
平野養豚場

この記事の登場人物

野口利一さん
ごはんクリエイト
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生産者から食材を受け取り、消費者へとつなぐ飲食店は、両者にとって大切な存在。提供するメニューに食材の背景にある物語を添えることで、味わいの深みも変化します。そんな持ちつ持たれつの理想な関係を築いている千葉県木更津市で、食の未来を見据えて活動する株式会社ごはんクリエイトの野口利一さんと平野養豚場の平野恵さんに、飲食店と生産者の立場から対談していただきました。

●プロフィール 

野口 利一さん(株式会社ごはんクリエイト 代表)

1982年、千葉県木更津市生まれ。18歳で料理人の世界へ。木更津市内で「居酒屋 ごくりっ」「洋食とワインの店 ブッフルージュ」「舵輪」の3店舗を経営。生産者から直接食材を仕入れ、作り手の想いと共に料理を提供している。地元小学校の学校給食で食育にも力を入れ、現在 千葉県産業教育審議会委員、観光協会理事・木更津市食育推進委員、木更津商会議員を務める。

平野 恵さん(平野養豚場)

千葉県木更津市で林SPF豚を生産し、3代続く平野養豚場の代表で夫の賢治さんをサポートしながら、解体後もすべての部位を安心して消費者に届けるため、飲食店に“一頭買い”を推奨するなど、地元飲食店とともに、顔の見える生産を目指している。元看護師。

飲食店は生産者から受け取ったバトンを消費者へと手渡す、“食のアンカー”

株式会社ごはんクリエイト代表の野口利一さんは、千葉県木更津市で、「居酒屋 ごくりっ」「洋食とワインの店 ブッフルージュ」「舵輪」の3店舗を経営するオーナーシェフ。奥様の麻衣さんとともに、「生産者たちから受け取った大切な野菜や肉、魚のバトンを食べに来てくれる人たちにつなぐアンカー」として、未来の日本の食のあり方を包括的に捉え、より良い循環を目指しておられます。

生産者を招いての食事会の様子(左から一人目 平野養豚場:平野恵さん 左から二人目 髙梨牧場:髙梨裕市さん)

木更津市内および千葉県内を中心とした食材を使い、生産者たちと密にコミュニケーションを取ることを大切にしておられる野口さん。地域の子供たちの食育にも力を入れ、採れすぎたり規格外だったりという理由で未利用となっている食材も適正価格で購入し、料理に利用。有事の際には防災食として提供できるよう、舵輪の地下の保管庫には、つねに数百食の備蓄がローリングストックされています。

そんな野口さん夫妻とつながりが深い、地元木更津市の平野養豚場。

お互いに食の未来に対する考え方が似ていたという彼らの最初の出会いからお聞きしていきます。

野口さんが一頭買いを始めたきっかけは、カウンター越しの出会いから

野口 最初の出会いは1店舗目の「ごくりっ」に平野さんがご夫婦で来てくださって、カウンター越しに話をしたのがきっかけだったんですよね。

平野 そう。地元でもお店が話題になっていて、賢治さんと食べに行って。「私たちのお肉もこんなお店で使ってもらいたいよね」ってことで、勇気を出して話しかけてみたんです。

野口 正直地元木更津に豚肉を生産している人がいるということも知らなかったので、僕も驚いて。そこでお二人の生産に対する想い、豚肉の「一頭買い」を推奨していて、使ってもらえる地元の飲食店を探しているという話を聞いたんです。僕らも食材は余すことなく使いたいという気持ちがあったので、考えが一致した部分が大きかったですね。

ただ、ごくりっでは、すでに平田牧場さんの豚肉を使わせていただいていたので、「今は難しいです」とお伝えしたら、「その方がいいです」と言ってくれて。

平野 取引している生産者がいるのに、すぐに変えてしまう人たちより、信用できると思ったんです。それからよく食べに行くようにもなって、2店舗目の「ブッフルージュ」を出店されるタイミングで、使っていただくことになりました。

野口 今は防疫のため規制が厳しくなって難しいですが、当時はスタッフと一緒に、生産現場の見学にも行かせてもらいましたね。

保管・管理・加工まで担う食肉卸・和喜多さんがいてこそ成り立つ一頭買いの循環

野口 僕たちが一頭買いをスタートできたのは、千葉県の食肉卸の和喜多さんが間に入ってくださっていたことも大きかったです。一頭分の肉って、やっぱり量が多いんです。使ったことのない部位はなかったので料理のイメージは湧くんだけど、使い切れるかなというのが最初の不安でした。

ただ、肉は和喜多さんが保管して、在庫管理までしてくれて、この部位をこれぐらい欲しいと言えば、その都度届けてくれるんです。一頭仕入れた時に、この分は生でステーキカットに、この分は加工品にして欲しいなど、こちらの希望でお願いできることもありがたくて。1店舗だけで使っていた頃は一頭を使い切るのに3〜4週間ほど、今は平均的に2週間ほどです。

平野 和喜多さんが、すごく柔軟なんですよね。彼らもこうした取り組みを始めないとこの先肉業界では生き残っていけないだろうという考えがあって、二次加工の免許を取ってドイツまで行き、林SPFの豚肉を使ったソーセージとベーコンで「食のオリンピック」と称されるドイツ国際コンテスト「IFFA」で金賞を受賞しているんです。

和喜多さんが加工を手掛ける平野さんの六次化ブランド「木更津の恵みポーク」

それまでは地元の方々に自分たちが育てた豚肉を食べてもらいたいと思っても、そもそも東京の食肉市場に出したお肉が木更津に帰ってくる配送ルートがなかったので、和喜多さんが東京市場で石橋ミートさんから買い付けて、さらに千葉市内から40分かけて木更津まで配送してくれるのが、本当にありがたいです。

野口 メニューの提案などもしてくださいますし、これを飲食店1件1件ときめ細やかにやりとりされているのはすごいなと思います。

生産者→仲介業者→卸業者→飲食店の肉の流れ

(和喜多さんホームページより抜粋)https://wakita4129.com/about/hayashi-spf-ittouuri/

飲食店が一頭買いをするメリット・面白さはどこにある?

野口 一頭買いをするメリットってたくさんありますが、まず、『コスパがいい』。

とんかつ屋さんのようにロースしか使えないというところにはお肉屋さんとしても高く売るしかしょうがないんですね。豚一頭の中から取れるロースの部位は決まっていて、他の部位だけが在庫としてどんどん残ってしまうことになりますから。

「髙梨牧場かずさ和牛と木更津の恵みポーク合挽きハンバーグ」

僕らのようにどんな料理でも出せる場合は、骨付きで提供してみたり、さまざまなメニュー開発ができるので、お客さんにとっても週替わりのメニューなどを楽しんでいただくことができるのが一頭買いの面白さです。

平野さんのお肉はロースのきめが細かくて、口に入れた時の脂溶けが早いので、舵輪ではローストポークで提供しています。硬めの部位はひき肉にしてハンバーグやロールキャベツのたねに使っていますが、ブッフルージュでも舵輪でも、ロールキャベツは人気の定番メニューです。

平野 豚肉は個体識別番号のある牛肉と違って、解体してしまうともうルーツを追うことはできなくなって、端肉などは他のお肉と一緒になってしまいます。だから一頭買いをしていただくことは、すべて平野養豚のお肉であると安心して食べていただける大切な手段でもあるんです。

「木更津の恵みポークのロールキャベツシチュー」舵輪のロールキャベツは人気の定番メニュー

野口 そして、『物語を語れる』という良さがあります。

今お客さんは、美味しさはもちろんですが、物語、価値観を求めておられると思うんです。平野さんは「私たちは一頭買いを推奨しています」とはっきりおっしゃっていますし、その理由は私たちが育てた豚肉を無駄なく使って欲しいからだと発信されています。育てるだけでなく、美味しく食べてもらうところまで責任を持っておられるからこそ、平野養豚のファンの方に舵輪を紹介してくださることも多いです。

平野 「どこかランチのおすすめありますか?」と聞かれたら、私も「いいところありますよ!」って紹介しますから(笑)

野口 そうやって紹介していただいた方々には特に、僕も直接お話するようにしていますし、スタッフ全員が生産者の想いを伝えられるようにしています。自分たちの想いをお客さまに繰り返し話すうちに、自分たちの想いも自然と強くなっていくんです。他の食材の農家さんたちとも、ごくりっのカウンターでお話して付き合いが始まった方が多くて、生産側の想いをより多く聞かせてもらえるというのは僕たちにとってもありがたいことですね。

オリジナルの生ハムが作りたい!三位一体で取り組む、新たなる挑戦

さらに今、野口さん、平野さんたちが2021年から取り組んでいるのが、平野養豚の豚肉で仕込んだ生ハムづくり。豚肉の足の部分を長野県の「掬月 Jamón KIKUZUKI」さんへ持ち込み、生ハム職人の指導の下、ごはんクリエイトのスタッフたちが1本ずつ丁寧に仕込みます。15ヶ月の熟成期間を経て、待ちに待った完成の時。

2023年にお披露目され、口にした時の感動は私も忘れられません。

味が濃くて、噛めば噛むほどに滲み出てくる、それでいて口の中でとろけるような味わい。美味しい豚肉で作った生ハムはこれほどまで味が違うのかと驚きました。

2023年8月、舵輪で開催された地元生産者が集まるマルシェ
ここで平野養豚の生ハムもお披露目。しまむらファーム&ガーデンさんの農薬不使用のセージとSONGBIRD BEERさんのクラフトビールとともに。

野口 こうした取り組みができるのも、和喜多さんの存在は本当に大きくて。普段豚肉を一頭ずつ買うごとに、足を取っておいてもらうんです。ある程度本数がたまるまで保管しておいてもらって、僕たちが長野へ仕込みに行く時に、送ってもらっています。今年の2月には24本を仕込みましたが、これは和喜多さんの存在がなければ、僕たちで保管できるような量ではないですから、ありがたいですね。

平野 8年前、賢治さんと結婚したばかりの頃は、一頭買いを薦めたいと思っても私自身看護師としての経験しかなかったので、飲食店とどうつながるかもわからなかったし、お肉屋さんが販売する仕組みもわからず、まずは地元の方々に知ってもらうために毎週マルシェに出店して、とにかく人と繋がろうとしていました。

マルシェ終了後は、舵輪の2階で農家さんとの交流会。生産者にとっても大切なハブ役となる野口さん

平野 今では30〜40店舗の飲食店さんとお付き合いさせていただいていますが、私たちは自分たちが大切に育てた豚肉をただの食材として扱って欲しくないから、和喜多さんを紹介するかしないかは、必ず面接をして決めさせてもらっています。中でも野口さん夫妻は本当に感覚が似ていて、いつも一緒に飲めば「この木更津市をこの先どうしていく?」みたいな話になるし、経営のことなども学ばせてもらっているところが大きいです。こうして同じ想いを持つ人たちとこの先もつながっていけると嬉しいですね。

海に沈む夕陽レストラン 舵輪 DARIN

住所:千葉県木更津市富士見3丁目5−14
電話:0438-38-3488
HP:https://www.darin-kisarazu.com/
Instagram:@darinkisarazu

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