スタッフから上がる改善案は年間200個以上。朝霧メイプルファームの現場力は【牛乳は愛】から始まっている
富士山の麓にある朝霧メイプルファーム(静岡県富士宮市)では、現場スタッフから年間200個以上の改善案が上がる。『牛乳は愛』を掲げる現場力の秘密と、代表・丸山純さんが語るこれからの酪農経営・人材育成を紹介します。
もくじ
富士山の麓にある朝霧メイプルファーム(静岡県富士宮市)。ここでは現場スタッフから年間200個におよぶ牧場の改善案が上がるといいます。なぜそんなことができるのか? 2026年8月24日に開催された「畜産に生きる会議2026」では、『酪農現場で年間200個以上の改善アイデアがスタッフから生まれる仕組み』について、スタッフの長谷川育江さんが明かしてくださいました。
日々スタッフからLINEに上がる、“改善”の提案

朝霧メイプルファームでは成牛450頭、子牛100頭ほどを飼育し、全頭センサーによる行動モニタリングや業務スマホの導入で最新のデータ管理、マニュアル化を徹底しています。従業員は20名。現場の課題解決は、そのうち正社員の日本人スタッフ10名がチームとなって取り組んでいます。
長谷川さんもそのひとり。麻布大学 生命・環境科学部を卒業後、新卒で朝霧メイプルファームに入社し、現在は子牛の担当と広報や採用活動を行なう10年目のスタッフです。

「現場で思いついた改善点は、その場でビジネスチャットツール「LINE WORKS」を使い、「提案」グループに残しています。ここには入社1年目から16年目のスタッフまで、ほぼ毎日誰かしらの提案が上がっています」と長谷川さん。
例えば「生まれた子牛を運ぶ際に、カートにお湯を張ってお風呂に入れて、寒さ防止や病気のリスク軽減にしたらどうか」や「夜の作業でここに危険と感じた」といったもの、「外部での勉強会で得た知識を後輩スタッフに紹介するための勉強会をしたい」、「災害時の動きを明文化しておく必要がありそう」といったものまで、
その数、年間200個以上。
「その後、月に一度行う改善ミーティングで、意見を出し合ったり、具体的な運用や検証方法について話します。実施することに大きなデメリットがなければ、ミーティングを待たずにすぐ実行することもありますし、提案から実行まで、実行から効果測定までの流れにスピード感があることが、メイプルファームの強みだと思います」

判断基準は、牛のためになるかどうか

こうした改善を考える際に基準となるのが、メイプルファームが大切にしている「バリュー」(価値観)と「クレド」。
クレドとは、「現場で守るべき行動基準・約束事」。
日々の業務のなかで、働く人たちが「具体的にどう行動すべきか」が記されています。
朝霧メイプルファームのバリューは、
【牛乳は愛】。
利益を追求しなければいけない組織のなかでも、最優先するべきは、牛が幸せであること。ここにいつでも立ち返ることができるように、この言葉をスローガンとして、スタッフ全員が気持ちをひとつにしながら働いています。
クレドは、
『酪農で働く喜びを自らつくる』
『一人ひとりの強みを生かし合う』
『判断を、仕組みにする』
『朝霧高原の可能性を、切り拓く』
「私たちはこの価値観に基づいて改善活動や行動を起こし、ルールを決める時には、牛本位で考え、牛のためにならないことはしないと決めています」

価値観を共有できるスタッフが集まっている
ただ、数年前までは、チーム力に欠ける部分もあったようです。
「数年前までは、採用したスタッフが短期間で辞めてしまったり、私たちと空気感が合わないということが多くありました。考えてみると、当時は就職セミナーなどで『ほかの牧場よりたくさん休めます』とか『女性でも重機に乗るからあまり力仕事がなくて楽』といったことを打ち出していたんです。それでは、“楽な生活”を求める人が入ってくるのは当然です。
今は、私たちの価値観に共感してくれる人を募集する方針に変えました。すると自然と今まで先輩たちが作ってきたメイプルファームの改善活動に、後輩たちが違和感なくなじんでくれるようになったんです」
これからの酪農は人材育成が重要

またこの日、酪農業界専門誌・デーリィジャパンの編集長・前田真之介さんとともに、『「牛が好き」の先にある、これからの酪農』について対談し、酪農を取り巻く環境が大きく変化してきたこの10年を振り返りながら、これからの酪農経営と、未来を担う学生に求められる力について話してくださったのは、朝霧メイプルファーム代表の丸山純さん。

「この業界には、せっかく牛が好きで入ってくれたスタッフが単純作業しかさせてもらえず、面白くなくて辞めてしまうということも多くあったと思います。これからは、経営側が働きやすい環境を作り、しっかりと人材を育てていかなければいけない時代がきています。勘ではなく、数値化して判断するようにするなど、仕組み化することも大切です。朝霧メイプルファームでは、300以上のマニュアルの共有とジョブローテーションで、未経験者でも高いスキルを身につけられる育成体制を整えています」
牧場のインターンで見るべきポイント

さらに学生へのメッセージとして、「いろんな牧場にインターンに行くこと」を勧めた丸山さん。
「インターンでは、スタッフと話ができるのが良さだと思います。まずは社長や農場長の言っているビジョンに共感できるか、そして働くスタッフみんなが、彼らと同じことを言っている牧場であるかを見てください。そこにチーム力、組織力が発揮されていると思います」
未来の畜産業界を担う学生を応援したい

さらに、昨年に続き、今年も畜産に生きる会議に賛同してビジョンパートナーとなってくださった思いをお聞きしました。
「これは毎回言っているんですが、本当に僕が元気をもらえるんです。確実にこれからの日本の農業界を背負っていくトップの学生たちが参加しているなと感じます。だから純粋に応援したいし、学生プレゼン大会を聞いていると、農業が抱える社会課題に対して100年先の未来に関心を持って活動している子もいて、そのまま投資家たちにも聞いてほしいなと思いました」(丸山)
「畜産に生きる会議って、就職セミナーや勉強会とはまったく違い、こんなイベントほかにないと思うんです。学生や生産者、関連企業、畜産を取り巻く人たちがワイワイ集まって、学生同士が話したり、学生と大人たちが会話しあって、お互いがそこで得たものを自分の生活に持ち帰ってどう生かしていくか考えていくみたいなところがすごくいいなと思っています」(長谷川)

意欲のある学生の皆さんにはぜひ朝霧メイプルファームのインターンを体験していただきたいところ。
「インターンに行ったからそこに就職しないといけないなどと考える必要はまったくありません。スキルも必要ありません。実は今日参加されていた神奈川県の相原高校の先生が、昔学生の頃にメイプルファームに見学に来てくれていて、先生になった今、「学生をメイプルファームに連れて行きたいです」と言ってくれました。そうしたつながりが、僕はすごく嬉しいんです」と丸山さん。

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