農高アカデミー

農高アカデミー『あなたの知らない和牛・肉牛の世界』イベントレポート

この記事の登場人物

平井 和恵
京都丹波牧場

この記事の登場人物

加藤 勝三
三重加藤牧場
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2024年8月24日(土)、前回から1年半ぶり2回目となるオフライン版の「農高アカデミー」が開催されました!

コロナ禍で共進会をはじめとした課外活動が中止になった農業高校生に向け、日本全薬工業株式会社(ゼノアック)がオンラインで学生同士や生産者とむすぶ場としてスタートした農高アカデミー。いまでは普通科の高校生や大学生も参加する大きな輪として広がっています。

今回は「和牛・肉牛(にくうし)」をテーマに、2名の現役和牛生産者をゲストに迎え、対面の場でさまざまなプログラムが行われました。

ゲスト

三重加藤牧場 取締役 加藤勝三さん

松阪牛と近江牛を一貫経営で生産。循環型農業や血統の改良に力を入れ、自分たちの仕事は日本の食を守る「国防」と位置付ける熱き生産者

京都丹波牧場 代表取締役 平井和恵さん

京都の地で150年にわたり黒毛和牛を生産する京都丹波牧場5代目の若き女性経営者。近年は繁殖も含めた一貫経営をスタートさせ、独自ブランド「平井牛」を展開し全国的にも高い評価を得ている

まずは「和牛」についておさらい

今回参加したのは、農業高校生だけでなく、普通科の高校生や畜産を学ぶ大学生たちが集結。農高アカデミーで出会って親睦を深めてきたメンバーに初参加の新しい仲間も加わり、高揚感と緊張感の入り混じるなか、最初のプログラム「トークセッション」がスタート。

まず学生たちに「和牛について説明できる人いる?」と問いかけたところ、この質問に「黒毛和種・褐毛和種(あかげわしゅ)・無角和種(むかくわしゅ)・日本短角種」とサラッと答えたのが今回初参加のキコさん(高3)。

続いて和牛の地域ブランドの例として、三重加藤牧場の加藤さんが自社牧場で生産する松阪牛と近江牛の定義について次のように解説しました。

松阪牛とは

・黒毛和種、未経産(出産経験のない)の雌牛であること
・松阪牛個体識別管理システムに登録されていること
・松阪牛生産区域での肥育期間が最長・最終であること
(生後12ヶ月齢までに松阪牛生産区域に導入され、 導入後の移動は生産区域内に限る)

近江牛とは

・豊かな自然環境と水に恵まれた滋賀県内で最も長く飼育された黒毛和種
2つを比べると、地域ブランドの定義は地域によって異なることがわかりますね。

次に、京都丹波牧場の平井さんが、自分の牧場で生産する「平井牛」について、独自ブランドを立ち上げた想いを語りました。

「平井牛は、地域のなかでも150年の歴史をもつ京都丹波牧場の牛の魅力をもっと多くの人に知ってもらいたいと思って立ち上げたブランドです。多くの人にアピールするためにイベントを開催したり、いろいろな料理人さんに食べてもらったり、メディアで取り上げてもらったり、さまざまな活動を通して少しずつ認知が広がっていきました。ブランドはただ名前をつけて終わりではなく“育てていくもの”なんだなと、今振り返って感じています」

熱すぎる!学生たちが考える畜産の魅力

続いては学生たちが話す時間。学生たちそれぞれが簡単な自己紹介と共に、畜産に関わる魅力を語りました。

「乳牛が好きで、特に牛乳からつくるチーズの魅力にハマっています。これまで全国で181軒の牧場を巡ってきましたが、地域や牛の育て方、作り方によって味や食感、水分量などが全く違うのがチーズの面白いところです」タクミさん(大1)

「僕は畜産ではなく愛玩動物の専門学校に通っていますが、ペットとは違う視点で動物をみてみたくて、養豚場で1年半アルバイトをしています。豚は一頭一頭の顔が違うんです。寝てる時にいびきをかいたり、みんなで一斉にビックリしたり、産業動物といえども本当にかわいくてたまりません!」ジュンヤさん(専門2)

「高校生のときに乳牛を中心に学んでアイスの製造を研究していました。ちょっとした配合で舌触りや食べた人の反応が変わるのがすごく面白い!今は農業大学に通っていて、将来は食肉や牛乳の加工に携わる仕事がしたいです。畜産とは関係ないけど、自分の世界を広げたくてカンボジアに2週間行っていろんな刺激をもらってきました!」アノンさん(大2)

「高校の畜産部牛プロジェクトで乳牛や肉牛の飼育をしていて、暑熱対策などの研究をしています。共進会で勉強したり大会に出たり、畜産を学ぶことが楽しくて仕方ありません。私は特にジャージーが好きで、クリクリの目や餌を口いっぱいに頬張るところがとってもかわいい!撫でてあげたときに喜ぶのは乳牛よりも肉牛の方かなって思ってます」リオさん(高3)

「子どもの頃から動物が好きで、ずっと動物に関わる仕事をしたいと思っていて、農業高校に入学して出会った一頭のホルスタインに一目惚れしました。それからは牛一筋で、通学電車のなかでもブルブック(牛の専門誌)を読んだり、Facebookで全国の共進会をチェックしたり…。クラスメイトから冷ややかな目で見られても関係ない!(笑)肉牛はあげる餌や育て方によって味や肉質が変わるのがおもしろいと思います」キコさん(高3)

「学校にいるのは犬や猫などの愛玩動物が中心で畜産には鶏がいます。座学で畜産を学ぶなかで、ストレスをなくす管理方法を考えるのが楽しいです。自分が工夫することで動物が快適に生活できて、肉質も良くなって結果を出してくれるって、すごくやりがいを感じます」ミナトさん(高2)

「小3のときから近所の動物園のボランティアをはじめて、休園日以外、週6で毎日お手伝いしに行っていました。いろんな動物と触れ合っているうちに牛さんが出す牛乳ってすごいなって思ったんです。どんな料理にも使えて、この世から消えたら困るものは卵と小麦と牛乳なんじゃないかって。同時に、乳牛が好きだからこそ肉牛はあえて切り離して考えていたんです。切り離さないと悲しくなってしまうから…。でも、自分もお肉を食べているからには、肉牛が肉になるまでの過程も知らなければいけないという思いで、今回は参加しました!」シラベさん(高2)

「株式会社後藤ファーム3代目として、今は大学の農学部に通っています。和牛の魅力はたくさんあります。まずは何よりも美味しいということ。舌には自信があってこれまでいろんな牛肉を食べさせていただきましたが、脂の溶け方や赤みの食感が、まるで人間のようにいろんな個性があるんです。そして、畜産は大変な仕事だけど、その分一生懸命育てた牛を消費者の方が『美味しい』と言ってくれたとき…これはたまりませんね!大学生をやりながら全国を飛び回って後藤牛の美味しさをPRしています」テッペイさん(大1)

それぞれ気持ちのこもった自己紹介に沸き立つ場内。

感心した様子でゲストが口を開きます。

「みなさんの強烈な個性…クセが強すぎてとてもいいです!(笑)若いうちはとにかく行動力が大事。全国の牧場を巡ったり、カンボジアに行ったり、こうして農高アカデミーに参加したり、その行動が素晴らしい。もう教えることは何もないかも…このまま突き進んで欲しいです」加藤さん

「みんなの話を聞いて、自分の学生時代を思い出しました。私も家業に入る前から、とにかく思い立ったら行動に移してきました。動けば動くほど自分が熱く燃えるポイントが見えてくる。それが就活で大切な自己分析につながるんだと思います」平井さん

ちなみに、生産者の2人が仕事でやりがいを感じる瞬間とは?2人の話に学生さんたちが真剣な眼差しで耳を傾けます。

「私にとってのやりがいは仕事をやりながら変化してきました。就農する以前、人材紹介会社の営業をしていたときは、お客さんから『平井さんのおかげでいい人を採用できた』と喜んでもらえることがすごく嬉しかった。そして、15年前にこの仕事を始めたときは牧場の広告頭として、広報活動をしていて、取引先のシェフやお客さんが喜んでくれることがやりがいになりました。5年前に経営者になってから感じているやりがいは、働いてくれる従業員を豊かにすることです。今は枝肉の相場が安く、なかなか厳しい時代。それでも少しでも高く買ってもらえるように取引先と交渉し、頑張ってくれている従業員にはできるだけ還元したいと思っています」平井さん

「畜産は命と向き合う仕事。牛に対して愛がないとできません。愛があるからこそ五感で牛と接することができる。そうすると、においや立ち方など、ちょっとした変化に気付くことができて、結果としてそれは枝肉の成績に確実に現れます。飼料の配合を変えたり、飼育環境を変えたり、スタッフとアイデアを出し合いながら、1〜2年先の結果を楽しみに試行錯誤を繰り返す。一頭一頭の牛に自分たちの思いが詰まっていて、畜産にしかないやりがいを日々感じています」加藤さん

生産者と学生の本音トーク「生産者交流会」

つづいて学生と生産者が膝を突き合わせて、テーマは自由に会話する交流タイム。加藤さんと平井さんをそれぞれ囲み、2人の話を聞いたり、学生が質問をしたり、学生の意見を聞いたりと、自由な交流の場となりました。

たくさんの交流が生まれたなかから、一部のやり取りをご紹介。

就活生は牧場のどこに注目してる?

「私は高2の後半から就職一筋で何軒かの酪農牧場にインターンシップに行ったんですけど、ホームページに書いてあることと実際にやっていることがブレていないかは見ちゃいますね。ホームページには『牛が過ごしやすい牧場を作ります』って書いてあったのに、過密な環境で乳量が出ない子を無理矢理飼っていたり、分娩管理もあまりできていなかったりした牧場もありました。乳量を頭数で稼ごうとして、環境づくりが後回しになっていたのかもしれません。あと、私はいつか自分の牧場を経営したいと思っているので、新規就農に向けてのサポートが手厚いところがいいなと思っていて、『新規就農者サポート』とホームページに書いてある場合は、具体的にどんなことをしているのか、絶対に聞くようにしています」キコさん(高3)

「すごい、もうすでに経営診断をしてる(笑)経営のことまでシミュレーションしていてすごい!頭でっかちで動いていないのはよくないけど、行動を伴っているからそこが素晴らしいと思うなあ。むしろ経営者として勉強になる」加藤さん

頭を柔らかくして畜産大喜利に挑戦!

そして最後のプログラムはワークショップ。

畜産業界の課題や未来について、より柔軟な発想でアイデアを出すために大喜利で様々なお題にチャレンジ。うーんと頭を悩ます学生といっしょにゲストの加藤さんと平井さんも参加し、学生たちと一緒に自由な発想でアイデアを出し合いました。

最後はゲストが面白いと思ったアイデアを選んで健闘を称え合いました。

濃厚過ぎた4時間の農高アカデミー。学生たちの感想

すべてのプログラムが終了し、締めくくりに生産者2人から学生たちにメッセージが送られました。

「今回は和牛について熱く話をさせてもらったけど、我々の熱意を引き出してくれたのはみんなの情熱でした。お互いに畜産に対して愛と情熱をもって取り組んでいけば、また必ずどこかで会えるはず。今の気持ちを忘れず、これからも勇気をもっていろんなチャレンジを続けてください!」加藤さん

「みなさん、今日はありがとうございました。私の好きな言葉に『情熱は伝染する』というものがあるんですけど、 加藤さんがおっしゃったように、みなさんにも今持ってる情熱をぜひ伝染させられるような社会人になっていってほしいなと思います。いつか皆さんと一緒にお仕事できる日を楽しみにしています!」平井さん

生産者と学生が一緒に楽しんだ農高アカデミーは大団円で幕を閉じました。

最後に、学生たちの感想をご紹介します。

「行動することが何よりも大切。自分も1歩踏み出してみようと前向きになれる時間でした」

「現役で活躍する生産者2人の熱いお話を聞けて本当に良かったです!」

「牛への愛が強すぎて学校では浮いてる私ですが、私に負けないくらいクセが強い人たちに出会えたことがとても嬉しいです!」

「初めての参加で最初はすごく緊張していましたが、みんながたくさん話しかけてくれて、会場の雰囲気がすごく良かったので、めっちゃ楽しかったです。また機会があったら参加しようと思います!」

アカデミー終了後も会場内では生産者と学生の会話が途切れることなく、和牛・肉牛業界の未来を感じる時間になりました。

参加者のみなさん、本当にお疲れ様でした!

次回の開催にもぜひご期待ください。

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