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いまだからこそ伝えたい。「ふくしま・会津牛」銘柄への生産者のプライドとこだわり。

  • #和牛

この記事の登場人物

湯浅 治
株式会社 湯浅ファーム
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福島県会津地方は、日本でも有数の良質な肉牛の産地。
ここで生産される牛は「ふくしま・会津牛」と呼ばれ、東京食肉市場で開催されるJA全農主催の肉牛枝肉共励会で毎年優秀な成績を納めています。

しかし一方で、ふくしま・会津牛が現在も東日本大震災にともなう放射能問題の風評被害の影響を受けているのも事実。輝かしい評価の影には、会津地方の肥育農家さんのたゆまぬ努力と銘柄に対する強い想いがありました。湯浅ファーム代表の湯浅治と湯浅卓也さんにお話を伺いました。
湯浅ファームは、2015年に行われた同共励会で、和牛去勢牛部門における最高位・名誉賞を受賞しました。
このとき出品された枝肉は、格付A-5・枝肉重量580㎏・枝肉単価10,089円/㎏・枝肉金額 5,851,620円という破格の値段で落札されたとのこと。

全農肉牛枝肉共励会は、全国の肉牛生産者たちが腕によりをかけてつくりあげた最高級の肉牛が集まる場です。そのレベルは非常に高く、自信作を出荷して12番(※1)をもらってもロース芯の太さやバラの厚さといった“つくり”の問題で入賞できないこともあるんだとか。

※1 肉牛の等級を示すB・M・Sナンバーのこと。12番は最高品質とされている

そんななかで毎年好成績を納めている会津の肉牛。

特に、東北震災後である2015年の湯浅ファームの受賞は、農産物に対する風評被害払拭に繋がる成果として県内外から注目を集め、ふくしま・会津牛のブランディングにも大きく貢献することとなりました。
その後も、2016年・2017年ともに、同共励会において会津の生産者さんたちが優秀な成績を納めています。

数々の受賞歴が物語る。会津は全国屈指の良質な肉牛生産地。

「“去年はあそこが賞を取ったから今年こそはうちが・・・”と、生産者同士が良きライバルとなって切磋琢磨しています。それが好成績に繋がっているんだと思います。」
と、治さんはいいます。

はじまりは姥堂牛(うばどう)。農協を中心とした切磋琢磨が現在の「ふくしま・会津牛」をつくった

現在、会津地方で生産されている肉牛は「ふくしま・会津牛」と呼ばれていますが、最初からこの名称で銘柄が存在していたわけではありません。

30年あまり前、湯浅ファームやその周辺の農家さんは姥堂地区に属し、「姥堂牛」という銘柄牛を生産していました。
姥堂牛は横浜食肉市場に出荷されており、地域銘柄としてはトップブランドとして知られていたそうです。しかしその後、姥堂地区と周辺地区は合併を何度も繰り返し、肉牛の銘柄もその都度変更されることになります。

現在では、会津地区全体が合併されひとつの農協所属になり、出荷先は東京食肉市場に移行。銘柄も「ふくしま・会津牛」となったのです。

「最初に評価されたのは姥堂牛で、横浜市場で一大銘柄となりました。その後名称は変わっていきましたが、肉の品質が落ちることはなく、“会津の牛は良い牛だ”という評価は変わりませんでした。時代とともに複雑な変遷を辿ったものの、いつの時代にも各農協を中心とした “よりよい牛をつくろう”という切磋琢磨があったからこそ、現在のふくしま・会津牛が存在しているんです。」

と、治さんはいいます。

肉質のレベルを上げているのは、ふくしま・会津牛農家としてのこだわり

「会津の生産者には、ふくしま・会津牛をブランドとして確立するために上物率を上げようという強い意識があります」と、卓也さんは言います。

そして、その想いがあるからこそ、会津の肥育農家さんたちは先行投資として良い素牛を買い、餌に徹底的にこだわっています。

素牛は血統を重視。血統を調べてより良いものを追い求め、自分の足で全国を回って買い付けに行くとのこと。
また、餌に関しても、福島県の他地域ではそれぞれの農家さんが独自ルートで入手していることが多いそうですが、会津では農家さんたちが北日本組合を通した配合飼料に一本化しています。
農家さんたちはエサ屋さんの会議にも参加し、今の餌に入れてほしいものを提案したり、独自で餌を配合してもらったりもしているそうです。

「農協を通すよりも安く入手できる餌はあります。始めた当初はその方が儲かるのでは?思いましたが、やっていくうちにその考えは変わりました。私たちが使っているエサ屋さんは、例えば“牛の食いが悪い”といえばすぐに牧場まで見に来てくれて対応してくれるんです。そうやって改善を重ねていくことで良い牛ができます。今は、先行投資をたくさんしても最終的に肉牛を売ったときの金額が大きければ牛に掛けた分は返ってくるし、最終的には品質がいいものが生き残るという考えです。」
 
このように、農家さんの強いこだわりと真摯な愛情のもとでトップブランドの地位を確立した「ふくしま・会津牛」でしたが、2011年3月未曾有の危機に見舞われます。
それが、あの震災でした。
震災にともなう原発事故による放射能の影響で、当時は肉牛の出荷停止が4カ月近く続いたこともあったそうです。

湯浅ファームでは、どのように震災後の苦境を生き抜いてきたのでしょうか?

震災を経て、徹底した品質管理で安全を保証。ふくしま・会津牛のさらなる発展を願う。

「誰も経験したことのない事態でした。毎日のように農家同士で集まって、この場を切り抜ける方策を模索し、意思の統一を図りました。」

と、治さんは当時を振り返ります。

この状況を打開する方策として実施されたのは、県を主体とした全頭検査でした。屠畜した牛はもちろん、エサ・水、肥料・草に至るまで、全てに対して放射能検査を行うことにしたのです。検査で陽性反応が出た場合、当然市場に出すことはしません。この検査は、当初は1カ月に1度、現在でも1年に1度ほど行われています。

「考え方によっては、ふくしま・会津牛は世界一安全だといえます。

しかし、治さんはこう続けます。

「市場の購買者は、ふくしま・会津牛の安全性を間違いなく理解してくれていると思います。しかし、会社のオーナーや社長クラスの人たちの正しい理解が足りないと感じています。だから、一般の消費者からの理解もなかなか進みません。」

枝肉共励会で最高位の賞を取っても、それが安全性や品質に対する正しい理解と購買への一歩になかなか繋がらないという現状。

それでも湯浅ファームのおふたりは、ふくしま・会津牛のさらなる発展をあきらめてはいません。

「いまだ風評被害は消えてはいません。やめていった農家さんも多いですし、私たちも賠償をもらってやっていくしかありません。でも、私たちが頭数を減らしたら、産地形成ができません。やせ我慢でも“私たちがふくしま・会津牛を引っ張る”という一心でやっています。見通しは決して良いとは言えませんが、後戻りはできません。前だけを向いていこうと思っています。」

全国各地の肉牛のなかでも最高級品質を誇るふくしま・会津牛。
その根底には、震災とそれに伴う風評被害という大きな壁に共に立ち向かった肥育農家のプライド、肉牛づくりに対する真摯な姿勢とこだわりがありました。

株式会社 湯浅ファーム

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  • アクセス:〒 969-3539 福島県喜多方市塩川町源太屋敷字前畑1572番地

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