川村ファーム
宮城県石巻市を中心に、8農場でおよそ1000頭の肥育を手がける、仙台牛の肥育農家、川村ファーム。
3代目の川村大樹さんは、全国肉用牛枝肉共励会において2年連続(2016・2017年)で最高賞である名誉賞を受賞。史上初の2連覇を達成し、仙台牛の名前を全国に知らしめ、近年でも数多くの賞を受賞するなど仙台を代表する和牛牧場。
もくじ
仙台牛を全国に知らしめた、日本一の牛づくり。美味しさの鍵は良質な稲わらが握る
川村ファームの石巻農場を訪れると、木造の昔ながらの牛舎が並んでいました。餌やりもすべて手作業。牛舎の清掃と堆肥処理の際には、牛を一旦外に移動させます。この農場の牛たちにはセンサーもついていません。クラシックが流れる牛舎の土の上で、皆快適そうにのんびりと暮らしています。
日本一の牛肉がここから生まれるのかと少々拍子抜けするほど。
「僕は牛の7割は血統で決まると思っています。あとの3割は、大きくしてその能力を引き出す僕らの仕事。川村ファームの肉は皆さんから「美味しい」と言っていただきますが、特に変わったことをしているわけではないんです」と大樹さん。
他府県との大きな違いとしては、米どころ、宮城が誇る稲わらが挙げられます。
「稲わらって、僕はすごく重要だと思っています。毎日食べるものですからね。粗飼料は100%自給。米どころの稲わらですから、当然美味しいと思います。米どころだからと言ってどこでも取れるわけではなくて、東北でも他県だと、稲刈りが終わった後すぐに寒くなって、霜が降りてしまうため、十分に乾燥させて収穫することができないんです。だから宮城の稲わらは山形など県外にも多く流通しています」
2011年の東日本大震災の際には、東北の拠点となる石巻の大きな飼料工場が津波で被災し、完全にストップ。
「震災後すぐに仲間に声をかけて、ダンプカー10台ほどで手伝いに行きました。水に浸かってしまったトウモロコシやムギなどをまずは片付けるところから始めて。そのおかげでだいぶ復旧は早かったと思いますが、稼働までに3〜4ヶ月はかかったかな。その間は八戸などから飼料を運んでもらいました。
牛は粗飼料と濃厚飼料を合わせて1日10キロほど食べますが、当時、濃厚飼料は2キロぐらいしか食べさせられなかったと思います。それでも痩せなかったんです。稲わらだけは豊富にあるので稲わらをしっかり食べさせていたからだと思うんですけど。これは周りの農家みんな言ってましたから、稲わらって大事なんだなと思いました」
宮城の米の稲わらを食べた牛の堆肥が、また田んぼに還元されて稲になる。これもこの地ならではの循環です。
あと特筆すべきは、肥育期間。一般的に30ヶ月ほどで出荷されるところ、宮城では気温が低いこともあり、全国平均よりは少し肥育期間が長い傾向にあるようです。中でも川村ファームはそこから2〜3ヶ月、長いと4ヶ月ほどさらに肥育します。「大きくなるためリスクも伴いますが、僕は仕上がりが違うと思っています」と大樹さん。
川村ファームの牛が除角されていないのには、少しでも牛のストレスを減らすため、万が一転倒してしまった時に立ち上がれるように、そして角の枯れ具合で出荷のタイミングをはかるといった理由があるようです。
牛の成績は細かいことの積み重ね。人と環境で大きく変わる。だから何も隠さない。
第49回後継者グループ牛枝肉共励会で
「僕はアパレルで働いていて、28歳で家業に戻りました。それまでは正直、牛舎を手伝ったこともありませんでした。家業に戻ってもうちの父親は何も教えないし、当時は農家同志の横つながりもほとんどなかったので、長年やっているスタッフさんから教えてもらったり、成績の良い農家さんのところに、「教えてください!」と頭を下げて勉強しに行って。
みんな本当は教えたくなかったと思うんだけど、そこで見てきたこと、良いと思われることを全部盗んでやってみたんです。でもダメでした。同じ県内でも気候が違うし、牛舎が違うし、スタッフが違いますからね。同じようにしても絶対に同じ成績は出ない。成績って、細かいことの積み重ねで出るものだから、育てる人間と環境でまったく変わるんです。
だから僕も聞かれたら全部教えますよ。でも絶対に同じにはならないから、その先は自分で見つけてくださいと伝えています。僕らもいくつか農場がありますが、ひとつの農場でうまくいったことをそのままマニュアル化して他の農場でやってもうまくはいきません。スタッフだって女性もいれば男性もいるし、細かいことが得意なタイプもいれば苦手なタイプもいる。だから一度やってみて、感覚を掴みながら調整することが大切です」
仙台牛を広めるために、全員で切磋琢磨していきたい。
宮城県内のブランドは、今仙台牛に一本化されています。A5・B5ランクの枝肉のみが認められるという、非常に厳しい基準を超えた仙台牛。このレベルに届かなかった肉は、仙台黒毛和牛として流通します。そんな仙台牛にプライドを持ち、ブランドを広めるために2015年に結成されたのが、仙台牛レボリューションズ。
大樹さんをはじめ、50歳以下の若手後継者たちがチーム一丸となって、仙台牛を盛り上げるために精力的に活動しています。宮城は他エリアと比べても、後継者たちの勢いのある地域。県内100軒以上の生産者たちがより良い仙台牛を目指して切磋琢磨し、仲間とともにチームで働くことに、大きなやりがいもありそうです。
川村ファームでは、希望者には研修も受け入れています。スタッフ募集については、「出会いがあれば」という返答。気概のある若者は門戸を叩いてみるのもいいかもしれません。
主な受賞歴(一部)
全国肉用牛枝肉共励会 名誉賞(2016年)・名誉賞(2017年)・優秀賞4席(2018年)
第23回全農牛肉枝肉共励会 名誉賞(2021年)
仙台食肉市場業務開始45周年記念枝肉共進会 最優秀賞(2020年)