畜産業界にイノベーションを起こす「デザイン」発想とは?【後編】 | どっこいしょニッポン

畜産業界にイノベーションを起こす「デザイン」発想とは?【後編】

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どっこいしょニッポン「チクサンデザイン開発部」を発足! 畜産業界にイノベーションを起こす「デザイン」発想とは? 東京農業大学農学部 デザイン農学科 長島孝行教授にお聞きました。
前編に引き続き、長島孝行教授へのインタビュー後編をお届けします。

東京農業大学農学部 デザイン農学科 長島孝行教授

 

畜産業界ではどんな発想の転換が可能なのか?

畜産業界は植物性の代用肉と
どう付き合うべきか

…では、畜産業界に置き換えるとどんなイノベーションが可能なのか、少し先生からヒントをいただきたいなと思うのですが。

長島 僕はビヨンド・ミート(代用肉)が台頭してくるのは仕方がないと思います。いいんです、それは覚悟しないといけないんです。牛は育てる際に大量の水を使い、それを殺して食べるという部分に疑問を抱く人は当然出てくると思います。植物性タンパクで代用肉を作れば「それでいい」という人もいるでしょうね。一方で「1週間に1回はやっぱり肉を食べたい」という声もあるでしょう。僕もお肉は大好きです。卵も牛乳も。畜産を持続させていくためには、それらをミクシングした考え方が今後必要になってくると思います。動物性タンパクと植物性タンパクをジョイントした食べ物があってもいいでしょうし、うまくジョイントしていく必要があります。

地域別に考える
企業を巻き込んだIOT化と伝統的手法

長島 都市部での畜産も必要です。一方で中山間地域での畜産も必要です。都市部ではAI化・ロボット化でやっていくことも必要だと思います。ここには企業が入り込んでIOT化して管理してもいいと思うんです。糞尿の臭いの問題は、大阪のシキボウが糞の臭いを甘い香りに変える技術を商品化して、畜産業界でも使われています。これは上から匂いを被せるのではなく、臭いを「変える」という発想です。しかも楽しいじゃないですか。牛がいる牧場から甘いの香りがしていたら! 周囲の安心にもなるだろうし。僕もトイレで使っていますよ(笑)

一方で伝統的なやり方は中山間地域で行なって、皆さんにお見せしながら観光型として牛に触れ合えたり牛乳が飲めたりしてもいいと思います。きちんと休みを取れるようにデザインすれば、若い方も入るんじゃないかなと僕は思うんですけどね。今後は地域別に考えていく発想が大事だと思います。

 

“複数の作り方”があっていい
大切なのは消費者との対話

長島 漁業でも要らない耕作放棄地を使って魚やウニを養殖する「陸上養殖」が出てきましたよね。これも生産型のIOTを駆使したタイプと、地域の人と一緒に楽しく行う観光型等に分けて考えています。問題は、消費者とのコミュニケーションだと思います。「食品は(金と同じように)その時々で値段が高くなるんですよ」ということを伝えていかないと、 “農産物は安いもの”というイメージが今日ではついてしまっているので、いつまで経っても生産者側が叩かれてしまう。

それはコミュニケーションの不足からくるものかなと思いますし、中山間地域の農は“風景”を作っているわけですから、「風景税」を作って応援していくというのもありだと思いますし。畜産は本当に重要ですよ。だから昔ながらのやり方と新しいやり方を提示して、エンドユーザーが選べるように、どちらも発展するようにしていくようにする流れが大切だと思います。

…そういった新しいデザインの考え方を中から考えていければ強いですよね。

長島 農は保守的だし、さまざまな規制があって企業などが入りにくいところがあるとは思うんですが、それでも北海道の牛乳が本州に入るようになったり、和牛を海外に輸出できるようになったり、変化は遂げてきています。消費量も減っていない。とてもよく頑張っていますよね。

▲長島教授の研究室にはこれまで開発に関わったさまざまなアイテムが所せましに詰まっていました。

 

イノベーションを起こすための
発想の転換

…さまざまな規制があるからこそ、柔らかい頭で考えていく必要があるんですね。

長島 本当、その通りなんですよ。

…先生は科学者ですが、もはやクリエイターですね。お話を聞いていたら、いかに自分が制限された中でものを考えていたのかがわかります。

長島 ありがとうございます。僕も実は昔は頭がガチガチだったんですよ。論文を書くだけのつまらない人間で。それがある時、アーティストと一緒に仕事をしたんです。ものすごく頭が柔らかいファッションデザイナーで。僕はギャフンと言わされました。

…シルクプラスチックを使ったファッションショーの時ですね。

長島 そう、「シルクは溶解するから溶解したものを見せようと思います」と言うと「いや、溶解する途中のものを見せましょう」とか「溶かすシルクのネクタイの中に溶けないタグも入れておきましょう」とかね。毎週会議をするたびに常識がぶっ壊されて、「この人たちの頭の良さってなんだろう」と思わされました。どうしても科学者は狭い部屋の中でやっているので、知らない間に近眼になってしまうんですね。僕も20代は自分たちだけで壁を高く作っていましたが、さまざまな分野の方と仕事をしていく中で、30代後半から40代にかけて大きく変わりました。

【出典】スパイラルSPIRAL(ファッションショー時の写真)

 

作る側・買う側・社会
すべてが面白くなるという視点で

長島 僕は“成熟した国家”を終着点として、着地させていっています。言い方を変えれば、サステナビリティです。農ってものすごく面白い領域なんですよ。畜産もこの先続けていくためには、作っている人も面白くて、買う人も面白くて社会も良くなる、そういったもの作りをする必要があると思います。みんな大型化してアメリカに倣え、ではないので、今後はおそらく日本バージョンの形が出来上がっていくんじゃないでしょうか。

…やはり三方よしが原点なんですね。

長島 そうなんです、日本は本来そうした三方よしの心でやってきたわけです。SDGsがどうこう言われるずっと前から。だからあまりSDGsという言葉に振り回されず、ごく普通に日本人の心を忘れずにやっていればいいんじゃないかなと思います。

長島 20数年前に、僕は畜産の先生に言ったことがあります。「いつまで外国の餌をあげているんですか? 国内の餌にすることで、カロリーベースの食料自給率を上げることができませんか?」と。同時に、葉っぱを食べて牛乳を作り出す牛はすごいなと思いました。僕の目には“工場”のような感覚がありました。「何を言っているんだ、若造が。そんなことしたら価格が高くなってしまう」と怒られましたけど、濃厚飼料で育てるのもひとつですが、牛や羊は雑草を食べさせて育てるというのもすごいことだなと思っています。除草にもなりますし、アニマルウェルフェアに配慮した飼い方にもなります。

…先生はどうして20年以上前から「持続可能」という意識を持たれていたんですか?

長島 僕は21世紀になる前に文部科学省から依頼を受け、「千年持続社会」について考える委員会の一員として“持続”ということについてかなり考えてきたんです。(当時出版に参加された本に「千年持続社会 -共生・循環型文明社会の創造-」日本地域社会研究所刊がある)そういう部分から考えると、餌の問題は必ず関係してくると思って、なんとか切り込もうと思ったのですが、当時の僕には力が及びませんでした。今こそちゃんと考えないといけない問題だなと思っています。農業後継者が少ないという問題にしても、少なくならないようにデザインする必要があります。何事もデザインが大事です。

ぜひ皆さんがイノベーションを起こしてください。

 

●ホームページ
東京農業大学農学部 デザイン農学科
についてはこちら
 
 

この記事を書いた人俵本 美奈

全国5エリアの高校図書館から発信する
月刊フリーマガジン「ch FILES」編集者。

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