原野にロマンを感じ、九州から北海道へ。二代目に受け継がれた開拓の物語。 | どっこいしょニッポン

原野にロマンを感じ、九州から北海道へ。二代目に受け継がれた開拓の物語。

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道東の中標津町にある竹下牧場は、先代の竹下日吉さんが1956年(昭和31年)に入植・開拓してベースを築いた農場です。4頭の子牛からスタートした酪農経営は1998年(平成10年)に息子の耕介さんに引き継がれ、現在は約360頭を飼育しています。父と子、それぞれの挑戦の物語を伺いました。

妻のへそくりで4頭の子牛を購入

1933年(昭和8年)に佐賀県で生まれた竹下日吉さん。

宮崎大学に進学して仲間と全国を旅して歩き、北海道の中標津町にやってきました。多感な10代の頃に敗戦による価値観の変化を経験した日吉さんは、戦後、多くの人が引き上げてきた地域を窮屈に感じ、「どこか広々としたところで食の生産に関わる仕事がしたい」という思いを持っていたそうです。

「農学部の先輩たちを訪ねて、仕事を手伝わせてもらったりしながら、あちこち行ってね。中標津まで来て、そうしたら一面の藪が広がってるの。『この藪、どうなってるんですか?』って聞いたら、入植できるって言うわけ。じゃあ入植しよう、と思いました」

北海道、特に気候が冷涼な根室・釧路エリアには、戦後になっても多くの未開の原野が残されていました。一から開墾して自分の農場を作るということにロマンを感じた日吉さん。ひとまずは北海道にやってきて大手乳業メーカーの集乳の仕事をしながら、よい土地を探しました。そして、山の麓、背後は国有林に繋がっていく平らな土地で、水源となる川もある場所に入植しました。

「今は160haで経営していますが、最初は13haからのスタートでした。開拓中は収入がないから、開拓補助金でなんとか食べていけるくらいの食料を購入する生活です。半年後に妻が九州から来てくれたときは、まだ地面に横穴を掘って作った家に住んでいました。農地を開墾しながら、家を作って、人の牛を預かって育成したりして、そのうち、妻が『ちょっとずつ貯めて、イザというときに実家に帰れるだけのお金ができた』って嬉しそうに言うのね。『じゃあそれで子牛を買おう』って」。

竹下牧場の酪農のスタートは、奥さんのへそくり2万5000円で購入した、4頭の子牛だったのです。

20代で経営者に。「自分らしい飼い方」に挑戦

入植当時、周辺の入植者の多くは牛についての専門的な知識を持っていませんでした。

農学部の畜産科で学んだ日吉さんは、牛の授精や分娩を手伝ったり、オーストラリアから導入されたジャージー牛を地域の代表として横浜から連れてきたり。一方で、自身の牧場も着々と拡大し、息子の耕介さんに経営を譲る頃には約300頭を飼養。地域で2番目に大きい牧場となっていました。

「兄も姉も違う職に就いていたので、家に戻っていた4番目の私が後を継ぐことに。そうと決まると『自分で印鑑を押すようになれば意識が変わるから』と、父はすぐに私を経営者にしたんです。もうすぐ24歳になるというときでした。いきなり若造が代表になるというので、地域の人には心配もされました」と耕介さん。

父の経営を継いで、まずは「30歳までに自分の考えで牛舎を作る」という目標を立てたそうです。

「今から20年前、アメリカからTMRやミキシングなどの考えがどんどん入ってきた頃です。牛の行動学を学び、牛群管理に基づいた牛舎を自分で考えました。できあがった瞬間は、世界一快適な牛舎だと思えるものでした」。

そして30歳で、ブラウンスイス牛の導入を決意します。

きっかけとなったのは、共働学舎新得農場の代表・宮嶋望さんのコラムを読んだこと。宮嶋さんは、ブラウンスイス牛の乳を主体にしたハード系のチーズづくりを先駆的に行ってきた方です。

「私は父たちが築いたものを引き継ぎました。だからこそ、開拓当時に倣って牛1頭の重みというものを感じたい、ホルスタインとは違う種を入れてみようと思い立ったんです」。

海外からブラウンスイス種の受精卵を購入し、一頭の雌牛が誕生。15年が経った現在は35頭、竹下牧場で飼育している牛全体の約1割を占める牛群となっています。

一方で、チーズづくりに興味を持った耕介さん。乳製品講習会などで作り方を学び、「難しくて面白い」と感じたそうです。

「チーズづくりは農業そのものと似ています。すぐには達成できない、だから一生取り組める面白さがある」。

2018年には敷地内にチーズ工房を建設。2019年4月から、中標津町内でのチーズ販売を開始しました。

農業を楽しみ、新しいものを創造する

父の経営を受け継いで約20年。現在も大切にしているのは「自分たちでできることは自分たちで」という考え方です。

時代は作業をアウトソーシング(外部委託)する流れですよね。それも一つの考え方と思いますが、牛の育成、草づくり、畑づくり、搾乳、製品づくり、自分たちで考えながらいろいろ挑戦できることが、農業の面白さだと思うんです」。

酪農の現場と消費者との繋がりが薄れてしまったと感じている耕介さん。2018年6月には町の中心部でゲストハウス「ushiyado」をオープンし、宿泊客向けの牧場体験ツアーなどを実施しています。

開拓者、つまりイノベーターの血を引いていることが私の誇りでもあります。多くの人と交流し、新しいものを生み出して行きたい」

将来的にはブラウンスイス牛を山に放牧してのチーズ造りにもチャレンジしたいそう。竹下牧場の開拓物語はこれからも続きます。

有限会社 竹下牧場

http://takeshita-farm.jp

  • 営業時間:ー
  • TEL:070-1579-1445
  • 定休日:ー
  • アクセス:北海道標津郡中標津町字俣落63

ゲストハウスushiyado(うしやど)
北海道標津郡中標津町東3条北1丁目4−2 2F
0153-77-9305(電話受付時間 10:00 -18:00)
http://ushiyado.jp

この記事を書いた人岩﨑真紀(いわさき まき)

北海道札幌市在住のライター・編集者。主に北海道の農業・文化に関する媒体制作や取材・原稿作成を手掛けています。ライターとしては、2005年頃から農業法人の取り組みを中心に取材。2008年〜16年、北海道マガジン『カイ』で農業特集を担当。2018年4月より農業専門誌『ニューカントリー』にて北海道の米産地のレポートを連載。北海道農業ジャーナリストの会所属。

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