農高アカデミー

第2回農高アカデミーレポート! 「6次化で大切なことは、その商品を通じて“何がしたいか”」

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「畜産を勉強中の全国の高校生がオンラインでつながり、学べる機会を!」ということで始まった「つながる農高プロジェクト」。11月25日に開催された第2回「農高アカデミー」では、ゲストに森林ノ牧場の代表・山川将弘さんを迎え、「6次化成功(オリジナルブランド確立)の秘訣」をお聞きしました!

 
<第2回農高アカデミーの様子は、こちらから全編ご覧いただけます。>


<以下、ダイジェストになります↓>

森林×牧場というストーリーを
お客様に提供する牧場

…森林ノ牧場さんについて教えてください!

山川 栃木県の那須というところで、森林に19頭の牛を放牧して育てています。

日本の国土の3分の2あると言われている森林は、今使われなくなって、雨が降れば土砂崩れが起きたり、獣害被害の温床になっているところもあります。一方で牛って、草食動物ですよね。僕らが食べられないものを食べて、乳などの価値に変えてくれるんです。使えないものを価値に変えてくれるって、すごいことだよね。

だから、僕らはそれらをかけ合わせた発想で、森林で牛を育てています。放牧をすると効率は悪いんです。牛舎で飼った方が牛乳はたくさんとれます。だけど、人間が使えないものをもう一度価値に変えてくれる、という意味では理にかなっている。そこで事業として成立させるために6次産業化して、ストーリーや牛の価値も含めてお客様に提供することにしました。それが森林ノ牧場です。

…高校時代はどんな学生でしたか?

山川 僕は埼玉県生まれで、中学生の時に酪農と出会い、田舎暮らしに憧れるようになりました。高校は普通科、大学は東京農業大学の畜産学科。高校時代はアルバイトやバンドをしたり、天気がいいと学校をサボってフラッと外に出かけたり、中学時代からひとり旅に出るような学生でした(笑)

中学時代に地元の制度を使って1週間北海道に行ったんです。その時に他校の子と交流して、一気に世界が広がりました。みんな自分の時間を大事にしている人たちばかりで。そこで搾乳体験をしたことがこの道を志したきっかけにもなりました。

6次化する時に大切なのは
その商品で“何がしたいか”を明確に持つこと

…森林ノ牧場の商品を教えてください!

 ▲「森林ノ牧場」ホームページより

山川 森林ノ牧場では、自社で作っている商品と委託加工で作ってもらっている商品があります。自社で作っているのは、「森林ノ牛乳」、「のむヨーグルト」、「キスミル」(乳酸菌飲料)。「発酵バター」は、小ロットでバターを作ることを目指して4年ほど前から取り組んでいて、「ミルクバー」は障害者の方と一緒に作っています。

チューブタイプの「しぼるヨーグルト」は委託で、チーズも那須にあるチーズ工房で製造してもらっています。「いのちのミートソース」は、うちのジャージーのお肉を使っています。

「あの子の皮」という革製品の取り組みでは、うちの牧場の名前のついた牛をたどれるようにしています。

…6次化する上で大事なことは何だと思われますか?

山川 最初から“こういう商品を作ろう”と思って作るわけではなくて、やりたいことがまずあって、それを形にしたものが商品だと僕は思っているんです。

例えば“牛乳で何をしたいか”。放牧で飼育をしていると季節によって食べるものが変わるから、牛乳の味が変わってきます。それがうちの牧場の特徴。森林ノ牧場は森林や牛がいる風景、季節感を楽しんでもらう牧場であり、牛乳はそんな飾らない牧場を象徴する商品。だから、デザインもシンプルにしました。

チューブタイプの「しぼるヨーグルト」は、東日本大震災の後に作りました。那須は原発から90キロくらいの位置にあるので、震災の後、放牧が禁止になり、僕らがそれまでずっと語ってきたストーリーや伝えたいものができなくなってしまったんです。

でも僕らも生きていかなきゃいけない。そこで一度牛をすべて他の農家さんに飼ってもらうことにして、今までの放牧というストーリーなしで、純粋に味と見た目で“これで勝負できる”というヨーグルトを作りました。チューブにすることで、調味料としての提案もしたくて。

山川 一つひとつすべてそうなんですが、商品を売りたいのではなく、“その商品によって何をしたいか”を売りたいと思っています。ソフトクリームもそう。ソフトクリームってみんな好きじゃないですか。例えばサービスエリアで僕らのソフトクリームを食べたことがきっかけでこの牧場に来てくれたなら、そこで牛の可愛さに出会い、自然に癒される…つまり僕らが伝えたい自然を伝えることができる。

6次産業化は生産者が消費者と直接つながるきっかけになり、僕らが何をしたいかをお客さんに直接伝えられることが大きいんです。その商品を提供することによって、その人の思い出を作ってあげることができる。人生を豊かにしてあげることができるんです。

それは酪農だけでなく、農業でもそう。だから、そういうことをしたい人は、6次化をするべきだと思っています。

▲以前に購入した「バターのいとこ」(株式会社チャウスと森林ノ牧場が共同開発)は、「味の美味しさはもちろん、パッケージの可愛さにも惹かれ、今でも小物入れとして大切に使っています」と北海道岩見沢農業高校2年の茂木さん。

牛の命の価値をどれだけ高めてあげられるか
それが僕ら酪農家の仕事

… ジャージー牛って乳量少ないですよね? しかも19頭ってことに驚きました。

山川 はい、通常の半量くらいですね。だから制限のある頭数の中で、どう経営するか、どうやりたいことを実現するかを考えることが大事かなと思います。

牛乳1リットルを組合に出荷したら100円くらいですよね。でもソフトクリームは1個400円くらい。牛乳1リットルからソフトクリーム10個できるとして、普通に牛乳として売っていたら100円のものが、4000円になるわけです。

もちろん手間はかかっていますが、少なくとも単価は上がります。量をたくさん搾ることも大事だけど、僕はどれだけ牛乳1リットルの価値を高めてあげられるか、牛の命の価値を高めてあげられるかが酪農家の仕事だと思っています。

……ジャージー牛は臭みもあってあまりお肉には向かないとされますが、あえてジャージー牛でミートソースを作られた理由を教えていただけますか?

山川 それもなぜそれをやりたいか、なんです。うちの牛は名前をつけて、家族のように愛情を注いで大事に育ててきたから、ある意味途中で事故に遭わず、廃用牛として出荷できるというのは嬉しいことなんです。健康に飼ってあげられたってことだからね。でも出荷したらタダ同然というのは悔しいじゃないですか。

では、そういうお肉でもどうすれば高くしてあげられるか、ということを考えて作ったのが、このミートソースです。ミートソースってミンチにするから、お肉が堅くても柔らかくても味は大きくは変わらない。

「いのちのミートソース」という商品名は、きっと一般の方にとっては強烈だよね。お肉と命がイコールになる瞬間って怖いと思います。だけどうちの牧場はそういう牧場であり、そういう役割だと思っているから。だからバカ売れすることは考えていない。でも命なんだよ、ということが伝えたくて。

パッケージデザインもすべて
“何のための商品か”を考えることで見えてくる

…無印良品やサマンサタバサと組んだり、ブランド展開はすべて山川さんのアイデアなんですか?

山川 ブランド展開は複数のデザイナーさんにお願いしています。デザイナーさんの仕事って素晴らしくて、僕の思いややりたいことを伝えると、デザインや形にしてくれます。僕らの思いに淀みがあれば、デザイナーさんも形にできません。

デザインってカッコよければいいってものでもないからね。だから僕も質問を受けるうちに、自分の考えが深まります。話をして、そのやり取りの中で、商品が研ぎ澄まされていくんです。だからデザイナーさんと一緒に仕事をするのはとても好きですね。

… 6次化する際に心がけておくことはありますか?

山川 中途半端にはやらないことじゃないでしょうか。なんとなく商品を作るということはできません。本気にならないと。なぜ作りたいのか、それを作ることによって世の中がどう良くなるのか。僕は、うちの牧場があることによって世の中が良くなると本気で信じているし、うちの牛乳を飲んでもらうことで人を幸せになると信じています。信じることは大事です。

… 飼っている牛に名前をつけると出荷する時に悲しくなりませんか?

山川 それはよく言われます。でも僕もうちのスタッフもみんな牛が好きなんだよね。牛の命の価値をどう高めるかを考えた時に、牛は牛乳工場ではないから、1頭1頭個性もあるし、性格も違うし、見た目も違う。名前をつけることによって、その子たちのファンもつくし、個性を出してあげることも僕らの役目だ思うので。

だけど酪農なので、最終的には出荷をしないといけない。矛盾だよね。僕は大学時代から牛たちを出荷する時にドライに割り切って悲しまないことが酪農家になるってことだと思ってきたんです。ずっとそういう気持ちでやってきました。でも「いのちのミートソース」を作って販売するようになってから、出荷を割り切るのではなく、出荷時にちゃんと向き合うことの方が大事なんじゃないかなと思うようになって。

それからは、出荷のたびにグッとくるようになりました。もちろん何が正解かはわからない。牛を飼ってお肉を食べること自体、僕は人間のエゴだと思っているんだけど、どの生き物も他の命を食べて必死に生きている中で、僕らも畜産をやっている。

今後、将来的にはもしかしたらなくなるかもしれないし、正解じゃなくなる時代が来るかもしれない。でも今は、その命に向き合うことが、森林ノ牧場にできることかなと思っています。

高校生へのメッセージをお願いします!

山川 学生だからこそできることをたくさんやって欲しいですね。人と会ったりどこかに行ったり、友だちと一生懸命遊んだり。僕は大学時代、15ヶ所くらいの牧場さんに研修に行かせてもらって、いろんな考え方があることを知りました。

大学時代にはネパールにも毎年行き、生きる上のいろんなことを教えてもらいました。ネパールの市場に行くとヤギの首がぶら下がっていたりするんです。僕は農大生だったのに、自分で捌くこともほとんどしたことがなかった。その時に命とお肉を結びつける取り組みをいつかやらなきゃいけないなと思いました。就職時には、ネパールに移住するか日本で酪農をするか迷ったくらい、大好きな国。今でも60、70歳になったら移住したいと考えています。

だから皆さんも時間は無駄にしないで、今しかできないことをたくさんして欲しいなと思います。

 山川さん、ありがとうございました!

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