耕畜連携、雇用促進……地域活性を目指した雪割牧場の取り組みとは
この記事の登場人物
後藤 誠雪割牧場
この記事の登場人物
田中雪割牧場
福島県西郷村の「雪割牧場」は、地域活性化を目的としたさまざまな取り組みを行っています。
この土地は戦後開拓によって切り拓かれ、入植者によって畜産業が営まれるようになりました。
当時は酪農を主要産業として栄えたものの、時代の流れとともに人が離れ、現在ではこの地域で酪農を営むのは数軒のみ。後継者もおらず、産業の維持はもちろん深刻な過疎化に苦しんでいます。
先祖たちが開拓したこの地域を守るべく、さまざまな取り組みを進めるのが雪割牧場の代表、後藤誠さん。
雪割牧場が行う地域活性化の取り組み「耕畜連携」「雇用促進」について、後藤さんと取締役専務の田中進さんに詳しく伺いました。
もくじ
稲作農家と畜産農家で作る「地域資源の循環」
「耕畜連携」とは、稲WCSと呼ばれる飼料向けの品種を中心とした地域内での資源循環体制のこと。
稲作農家が作った飼料を畜産農家が買い取り、畜産農家から農家へは堆肥を供給することで、互いにメリットが生まれます。
▲稲WCSを使った飼料を給与している様子
▲稲WCSを使った飼料を食べる牛たち
西郷村では、村が稲作農家と畜産農家の間に入って耕畜連携を進めており、売上が確保できるほか、地産地消体制の構築と飼料自給率の向上につながっていると後藤さん。
「西郷村農政課からの依頼で始まった耕畜連携ですが、今のところはすごく上手くいっています。牧場にとってのメリットは2つあると思っていて、ひとつは堆肥を購入してもらえるということ、もうひとつは安定的に新鮮な飼料が手に入るということです。堆肥が無駄になりませんし、飼料が定期的に入ってくることで牛の状態が良くなった。地域内の稲作農家と畜産農家の間で資源が循環することで、地域活性にもつながっています」
この取り組みが始まった当初は、雑草のような飼料にはできない稲が届くトラブルもあったとのこと。
耕畜連携を取り入れた他の地域では、稲作農家と畜産農家の折り合いがつかず結局終わってしまうことが多いものの、西郷村では村が間に入ってルール決めなどを行い、トラブルを予防。人口減少や農業・畜産業の衰退が進む中、互いに生かし合う体制を作ることに成功しました。
開拓地を守る!雪割牧場が行う雇用対策
雪割牧場が行う取り組みの中で、もうひとつ顕著なのが雇用対策です。
人員補強と合わせて、この地域に住んでもらうための施策を行っています。現在のスタッフとして役員6名、正社員5名、アルバイト4名の体制で動いています。
雪割牧場の雇用について、田中専務に伺いました。
「3年ほど前に、自分がPTAの会長をやっていたときに、中学校を他の中学校と統合しないかという話が教育委員会からありました。地域の核となる学校をなくすわけにはいかないため、話し合いを重ね、残すことができたのですが、残すのであれば人を増やさなければなりません。対策としては、地元の人にこの地域に残ってもらうことと他の地域から移住してもらうことの2つを同時に進める必要があります。どちらにせよ重要なのは、働く場所を確保すること。畜産業の衰退も深刻な問題であったため、雪割牧場を核として雇用の創出と農業を盛り上げる取り組みを行うことになりました」
▲雪割牧場の若手社員のみなさん
▲役員の方も働いています
現在、雪割牧場で人を雇用してこの地域に定着してもらえるような対策を模索中だと田中さん。
最近では、東京から移住コーディネーターを呼び、今後の方針について話し合っているとのこと。
雪割牧場としては、頭数を倍に増やす計画が決まっており、牧場も増設、雇用の拡大につなげたいと後藤さん。そこには、戦後開拓の子孫としての想いがあるといいます。
「人は減りつつありますが、なんとか歯止めをかけたい。やっぱり自分の祖父たちが切り拓いた土地を残したいという想いがありますし、守らなければならないという責任感もあります。現状、この地域で後継者がいる牧場は2つだけで、後はほとんど今の世代で終わりです。うちも牧場はもちろん、若い世代に引き継ぎ、この地域に定着してもらえるような働きかけが必要不可欠だと考えています」
給料・待遇面を改善し、求人を増やしているほか、農業高校・専門学校・大学の職業体験を積極的に行い、雇用につなげているとのこと。
西郷村の魅力とは?大自然のなかで営む豊かな生活
最後に、田中さんに西郷村の魅力を伺ったところ、
「自然にあふれ、精神的に豊かな生活が送れることでしょうか。また、新幹線の駅が近く、東京までも1時間ちょっとで行けるので交通の便もいいんですよ。」とのこと。
▲雪割橋。この橋を渡ると西の郷遊歩道の入り口が見えてきます。
▲西郷村の四季折々の自然が楽しめる全長3.2kmの西の郷遊歩道。
▲取材時(8月)には青々とした緑が生い茂っていました。
※西郷村観光協会 http://nishigo-kankou.jp/index.php
耕畜連携、雇用促進、移住計画と、牧場の内外で畜産・地域を守るための取り組みを進めている雪割牧場。こういった取り組みは、現在日本各地で深刻化している畜産業・農業の衰退に歯止めをかける切り札になっていくのではないでしょうか。
雪割牧場(有)
- 営業時間:
- TEL:0248-36-2560
- 定休日:
- アクセス:〒961-8081 福島県西白河郡西郷村鶴生由井ケ原353-1