渡辺俊美さん(TOKYO No.1 SOUL SET)と、 どっこいしょお弁当をつくろう。<後編>
この記事の登場人物
渡辺 俊美TOKYO No.1 SOUL SET
渡辺俊美さん(TOKYO No.1 SOUL SET)が、2014年に刊行したエッセイ『461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』。息子さんが高校生の頃に3年間お弁当を作り続けた記録は、料理の腕前と親子の絆に感動の声が寄せられ、大きな話題となりました。あれから5年が経ち、エッセイが来年の秋に映画化されることに!2020年11月6日(金)からいよいよ映画上映スタート!!
<https://461obento.jp/>今また注目を集める渡辺俊美さんに、どっこいしょニッポンに関わる酪農・畜産の食材を使った“どっこいしょお弁当”を作っていただきました。後編では、お弁当を通した親子の関係、これからやりたいことなど、「食」に対する思いを語っていただいたインタビューをお届けします。
もくじ
お弁当を通して、子どもたちにおいしいものを紹介したい。
――お弁当づくり、おつかれさまでした。今回 “どっこいしょお弁当”を作ってみて、いかがでしたか?
渡辺俊美(以下、渡辺):今回は酪農・畜産というテーマがあったので、お肉をメインに、作り慣れているものと最近よく作っているものをあわせてメニューを考えました。オクラとにんじんの豚巻きは息子が好きだったメニューなんですが、こんなにしっかりしたお弁当を作ったのは久しぶりだったので、オクラに巻きつけるにんじんの枚数を間違えました(笑)。こういうものって食感が大事だと思っていて、当時から味はもちろんだけど、見た目や食感をすごく意識して作っていた気がします。
――卵焼きも、息子さんのお弁当に必ず入れていた定番メニューですよね。
渡辺:本当は居酒屋で出てくるような、甘くない出し巻き卵が息子の好物なんですけど、さすがに出汁はお弁当には向かないので。今日は当時もよく作っていた、紅生姜の卵焼きにしました。毎日入れるものだからこそ、紅生姜やハム、ふりかけを入れたりして、中身を少し工夫することで、いろんな卵焼きがあることを紹介したかったという感じかな。
――お弁当で「紹介する」っていいですね。
渡辺:子どもって、だいたい言うこと聞かないんですよ。だから、「これ食ってみろ」とか「これ見てみな」じゃなく、紹介してあげる。音楽や本も同じです。息子は僕に、「これ見なよ」とか言いますけどね(笑)。でも、彼がなんでも食べてくれるから紹介できたというのもあります。これが例えば小学生だったら難しかったと思うんですけど、高校生だったからいろんなものを受け入れてくれたんじゃないかな。
――ちなみに今は5歳の娘さんにお弁当を作られているそうですが、メニューもやはり違いますか?
渡辺:娘にはハンバーグやタンドリーチキン、パスタサラダもよく作っていますね。必ず入れてほしいものがソーセージと卵焼きみたいで、「たこさんにして!」と。僕は赤いウインナーも好きなんだけど、子どもが食べるものはなるべく着色料が入っていないものにしたり、ハンバーグには余った野菜を細かく刻んで入れたりしています。
――今日のお弁当もそうですが、一からすべて自分で作られているんですね。
渡辺:基本的にはそうですね。最近は原材料にこだわった冷凍食品もあるので、何日か家をあけるような忙しいときにはそういうものを使わないわけではないですが、なるべく一から自分で作るようにしています。例えば調味料でも、いいものに越したことはないし、食材が多少悪くても調味料でおいしくなることはありますけど、今日のように素材がいいものであれば、味付けなんてほとんどいらないんですよね。肉も野菜も塩だけで十分おいしい。普段食べるものを通して、そういうことにも気づいてもらえればいいんじゃないかなと思っています。
すべて誰かが作っているもの。それを一番伝えたかった。
――食材にもこだわりだしたのは、やっぱり息子さんへのお弁当作りがきっかけですか?
渡辺:それもあるんですが、今から10年前にお酒の飲み過ぎが原因で膵炎になって、入院したんです。そこからですね。ずっと無謀な飲み方をしてきて、自分は何をしても平気だと思っていたんですけど、痛みで気を失ったのは初めてで。さすがにやばいと思いましたね。やっぱりガタが来るんだなと。それから、自分の食べるものを自分の体でちゃんと知っていこうと思い始めました。
――食べるものを意識するようになって、変化はありましたか?
渡辺:ここ数年は入院していないですし、お酒も控えめになりました。今、5歳と2歳の子どもがいるので、ちゃんとした生活リズムになったことも大きいと思います。そういった意味では、お弁当を作り始めたこともそうですが、いつも息子や娘に助けられているんですよね。彼らがいなかったら、もうとっくに死んでいますよ(笑)。
――息子さんのお弁当について綴ったエッセイの中にも、“作ることで自分が見守ってもらっていた”という風に書かれていていましたよね。
渡辺:本当にそうですね。今もこういう仕事をさせてもらえるのは、息子が毎日ちゃんとお弁当を食べてくれたからだと思っています。
――それにしても、全国でライブ活動をしながら毎日お弁当を作り続けるというのは、やはり大変だったと思うんですが。
渡辺:大変だという気持ちは全くなかったですね。というのも、息子が中学を卒業した後、高校に行かなかった期間が一年あったんです。僕はそれでもいいと思っていたけど、息子の方からやっぱり行きたいと言ってくれて。辞めるのは簡単だけど、僕が何かがんばっていれば、息子もがんばってくれるかなという気持ちがぼんやりとあって、それがモチベーションになっていたのかもしれません。毎日行ってほしい、卒業してほしいという気持ちだけですね。
――きっとお互いが信じ合っていたから、学校も続いたし、お弁当も続いたんですね。
渡辺:やっぱり作っていると、子どもの喜ぶ顔を想像しますよね。お弁当だけじゃなく、何かの役に立ちたいんですよ。今はまだわからないかもしれないけど、これから色んな嫌なことがありますから。でも、「あぁおいしいものが食べたい」と思ったらがんばれるだろうし、おいしいものが食べたかったらやっぱり働かなきゃいけないし。だからこそ、それを一生懸命作った人と接することが、すごく大切なんじゃないかなと思います。料理をする僕だけじゃなく、食材やこのお弁当箱も、すべて誰かが作っているものですから。それが一番伝えたかったことかもしれないですね。
――「食育」という言葉もありますが、それを意識したことはありますか?
渡辺:全くないです。辰巳芳子さんの「食べることは生きること」という言葉に出会ってから、遊ぶことも生きることだし、作ることも生きることだと思うようになって。考え方やものづくりに対する姿勢に共感できる生産者の方とも、料理をしていく中で自然とつながっていきました。自分も歌を歌っているので、真剣につくったものや思いはちゃんと伝わるということをすごく信じているんです。
いつか、子ども向けの小さなパンケーキ屋さんをやりたい。
――『461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』は、これまでにも漫画化やドラマ化されてきましたが、来年ついに映画化されることが決定しました。
渡辺:不思議なことですよね。自分にとっては親と子の最高の物語ですけど、それをみんながいいと言ってくれて、さらに伝えてくれるのはすごくうれしいことだし、感謝しています。
――渡辺さんの役を演じるのは井ノ原快彦さんだそうですが、撮影現場には行かれましたか?
渡辺:行きましたよ。初対面のときから全然そんな感じがしなかったですね。このあいだ会ったら、イノッチがどんどん俺に寄せてきていて、俺もなぜかイノッチに寄っていってて、なんだかお互いどんどん似てくるねという話をしたところです(笑)。親子関係って難しいこともたくさんあると思うけど、この映画を見て、親も子もお互いに少しでも何かを感じてもらえるきっかけになればいいなと思います。
――映画の完成、楽しみです。
最後になりますが、3年間のお弁当作りを経て今、渡辺さんが食の分野でやりたいことや考えていることってあるんでしょうか?
渡辺:YouTubeチャンネルをやりたいんですよね。息子のときはお弁当だったので、次は普段娘に作っているおかずを映像で紹介するのはどうかなと。娘のことをぷーちゃんと呼んでいるので、「ぷーちゃん食堂」っていいなぁと思って(笑)。その中で、自分がいいと思う食材も紹介していきたいですし、全部英語でやりたいとも思っています。やるなら世界レベルで、日本の食文化を伝えられたらいいなって。あと、いつか小さい子ども向けのパンケーキ屋さんをやりたいんですよ。30円くらいで買える、焼きたてのめちゃくちゃうまいやつ。小麦粉がだめな子には米粉で作ったり、ちょっと野菜を入れたりして。おじいちゃんになったら、小さいスペースでそういうことをやるのが夢ですね。
《材料》
・ピーマン
・パプリカ(赤、黄)
・ベーコン
・砂糖
・ナンプラー
・ごま油《作り方》
1. ピーマン、赤・黄のパプリカ、ベーコンを同じサイズで千切りに。
2. フライパンにごま油を熱し、先にベーコンを炒めます。
3. ベーコンに火が通ってきたら、三色ピーマンを入れてさらに炒めます。
4. 砂糖少々とナンプラーで味を付けて完成!
今回はベーコンでしたが、エビやしらすもおすすめ。パプリカはいつも、タネを抜いて冷凍しておき、使うときに手で割ってそのまま調理しています。炒めものはもちろん、シチューに入れても彩りが鮮やかに。味も落ちないし、便利に使えますよ。
<映画『461個のおべんとう』 2020年秋全国公開!>
原作:渡辺俊美(TOKYO No.1 SOUL SET)/「461個の弁当は、親父と息子の男の約束。」(マガジンハウス刊)
出演:井ノ原快彦、道枝駿佑(なにわ男子/関西ジャニーズJr.)ほか
監督:兼重 淳
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