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職場環境・労働環境はどうなっているの?畜産業における女性の働き方

この記事の登場人物

上松 瑞穂
NOSAI(農業共済組合)
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ひとことで「畜産業」といっても、働き方はさまざま。

産業動物(牛、豚、馬や鶏など経済行為を目的に飼育される動物)に興味のある女性を中心に構成する「畜ガールズ」も、畜産業での働き方について調査や分析を行っています。

今回は、畜ガールズ副会長で獣医師として活躍する上松瑞穂先生さんに、畜産業に携わる女性たちの働く現状についてお話をうかがいました。

仕事と家庭を両立する女性のロールモデルがいないことが、離職の原因!?

▲「畜ガールズ」副会長で、NOSAIみやざき生産獣医療課課長の上松瑞穂先生

「畜産業への女性就業率はまだまだ低いのが現状です。また、就業しても結婚や出産・育児・介護などで離職せざるをえない人も少なくありません。
獣医師に関していえば、日本獣医師会に所属する男性の平均年齢が70歳以上なのに対して、女性は40歳代。獣医系大学の学生の男女比はほぼ半々だったはずなのに、獣医師の日本獣医師会に所属する平均年齢にはこんなにも違いがあるんです。
このことから、結婚や出産・育児・介護といった女性のライフイベントと仕事を両立するのはとてもむずかしいという現状が見えてきます。」

産業動物業界全体において、働き盛りである30代の離職率は高いとのこと。この理由として、ロールモデルがいない・育児や介護をしながら働ける環境が整っていないことが挙げられると上松先生さんは語ります。

「今の20代・30代は男女平等を当たり前として教わった世代。しかし、調査してみると管理者の立場にある男性の9割以上の家庭が専業主婦とのデータもありました。仕事と家庭の役割を分けていた世代と共働き世代とでは考え方の改変が必要ですが、実体験としてお持ちでないために歪みが生まれてしまうんです

畜ガールズのホームページに投稿される悩みの中には「妊娠のタイミングが分からなくなった」との切実な相談も。

理解のない就職先に入って運が悪かった」との理由で離職することのないよう、畜ガールズは女性従事者たちの声に耳を傾けています。

会員アンケートから見えてきた、畜産業界における女性の労働環境の現状

 
ここで「畜ガールズ」が会員へ行ったアンケートをもとに、労働環境の実情をのぞいてみましょう。

下記のグラフは、「平日の労働時間は平均で一日あたり何時間ですか?」「平日の家事(育児を含む)の時間は平均で一日あたり何時間ですか?」という2つの質問に対する回答結果をまとめたものです。

【アンケート実施期間】2018年1月19日~2月28日(回答数:男性35名、女性40名)

回答結果を見ると、男性は配偶者や扶養家族の有無によって「労働時間」が大きく変化しないのに対し、配偶者かつ扶養家族(子供または介護家族)を持つ女性は「平均家事時間」が顕著に増えています
この結果から、結婚や育児によって女性の家庭内での負担は増える傾向があるとわかります。

また、別の質問項目からは、「配偶者がいない独身女性は“不満指数”が高い傾向にある」という結果が出ています。
婚活したくても仕事が忙しくて出会いがない」「今の働き方だと共働きは難しい、でもやりがいある仕事を辞めたくない」と、葛藤を抱える独身女性が多いとのこと。

こういった現状に対し、上植松先生さんは、「女性を男性と“同等”に働かせようとする日本の社会構造にも問題があるのかもしれません。男性には男性だからこそできる働き方が、女性には女性だからこそできる働き方があるはず。」と分析します。

では、どうすれば、女性の力を畜産業で活かせるのでしょう?

男女が長所を活かして協力すれば、理想の働き方も夢じゃない

上松先生さんが提案するのは、男女が互いを尊重し、それぞれの長所を活かした働き方。

農家さんって、夫婦が力を合わせて乗り越えているケースがほとんどです。私の職場でも協力して手を携えたときの方が営業成績も上がり、新しいことを生み出しやすいと感じていて。女性は同時進行が得意だし、男性だと歴史や慣習といったしがらみで我慢することも臆せず言える。個人によっても長所と短所がありますから、性別で括らず、適材適所に配置していけば良いのでは

上松先生さんは職場で牛のコンサルタントを行う部署を3年前に立ち上げ、「予約診療」を取り入れました。従来のスタイルでは「牛が難産だからすぐ来て」とレスキュー的な対応を求められることが多くありましたが、予約診療では自分たちで予定を組むことができます

「勤務体系が多様化すれば、『子供が小さいうちはコンサルタントの仕事をバリバリやろう』、『介護する間はこの部門で働こう』といった選択肢が広がり、夫婦で協力して家のことを分担するなど、理想の働き方を見つけることが可能になります。男性社会で決められた慣習ではなく、女性たちが自ら声をあげ、現代に合った働き方をビルドしていくことが大切です

また、畜産業界を目指す人へ、こんなアドバイスも。

“動物が好き”という気持ちさえあれば、資質は十分。まずは飛び込んでみて、疑問や不都合があれば改善策を探ることで、必ず良い方向へ進みます。畜ガールズには有能かつ“お節介”なメンバーが揃っていますから(笑)。悩んだときに思い出してもらえる存在でありたいですね」

▶畜ガールズのその他の記事はこちらから

産業動物に興味のある女性の会(通称:畜ガールズ)

  • 営業時間:ー
  • TEL:ー
  • 定休日:ー
  • アクセス:宮崎県宮崎市学園木花台西1-1 宮崎大学農学部産業動物臨床繁殖学研究室内

●事業内容
2016年1月発足。産業動物に関わる女性の地位向上や、畜産業界の発展に寄与することを目的として講演や調査、意見交換会などを実施している。