髙梨牧場
千葉県は房総半島の鴨川で、かずさ和牛300頭を肥育する髙梨牧場。
牧場3代目の髙梨裕市さんは、創業祖父の代からホルスタイン主体だった牧場を和牛の肥育経営に転換しました。そして、従来の食肉市場の常識にとらわれることなく、生産から販売まで一貫して行い、格付け等級の先にある和牛の“ほんとうの美味しさ”を探求し続けています。
もくじ
数々の受賞歴をもつ「かずさ和牛」「名人和牛」生産者の若き星
髙梨牧場で生産される和牛は、二つの顔をもっています。
一つは、千葉県を代表するブランド銘柄「かずさ和牛」としての顔。そしてもう一つは、茨城県畜産農業協同組合連合会と雪印種苗株式会社が共同で開発した穀物由来の配合飼料「名人」によって育てられる「名人和牛」としての顔です。
「28歳で就農してから名人会と出会い、最先端の肥育技術を理論的・学術的に学んできました」と語る髙梨さん。
髙梨牧場の和牛は、地域の豊かな自然の恵みを受けながら、栄養バランスや安全性まで考え抜かれた飼料、環境保全にも考慮した徹底管理によって育ちます。その肉質は、オリーブオイルの主成分と同じオレイン酸を豊富に含み、赤みの旨みと口溶けの良い脂が特徴。これまでに和牛オリンピックと言われる「全国和牛能力共進会」をはじめ、名人会グランドチャンピオン大会や農林水産大臣賞、県知事賞といった数々のコンテストで受賞の常連になり、その品質の高さは折り紙つきです。
牛がお腹を見せてくつろぐストレスフリーな環境
髙梨牧場を訪れると、小鳥のさえずりが聞こえる牛舎では、ゆったりとした牧歌的な時間が流れます。
質の高い和牛を生産するために、髙梨さんが環境づくりで最も大切にしているのは「牛にとってのストレスを徹底的に取り除くこと」。
牛舎を覗いてみると、まず雄牛たちの立派な角が目に入ります。肉牛の肥育では、長い角は他の牛に怪我をさせる原因となり、瑕疵(かし)のある個体は商品価格が暴落するため、除角するのが一般的です。
しかし、髙梨さんは「牛が嫌がるし、切ったら痛いじゃないですか」と、シンプルな理由で除角をしません。
また、通常は4〜5頭の飼育が妥当と言われている面積の牛房に3頭しか入れないのも髙梨牧場のこだわり。広々としたスペースには一面ヒノキが混じるフカフカのベッド。その上で牛たちはのびのびと育っていきます。
「牛一頭に対して十分な広さをとっているので、牛同士がぶつかり合うこともなく、だから角を切る必要もありません。うちの牛は座った体勢で過ごすことはあまりなく、大胆に足を広げ、お腹を見せて横になるんですよ。草食動物がこれだけ無防備な姿になるということは、いい意味で緊張感がなく、リラックスしている表れだと思います」(髙梨さん)
牧場の経営を引き継いで15年。髙梨さんは「牛のストレスを排除することが肉の味に直結する」というひとつの考えにたどり着き、家族経営で目が行き届く最適な規模を目指して、頭数を最大340頭から300頭に縮小しました。
「もっと減らしてもいいかなと思っています。大量生産で牛に負担をかけ、質が落ちてしまうよりも、一頭一頭を大切に育てて、個々の価値を最大限に高めたい。牛には健やかに育ってもらいたいし、消費者の方に『美味しかった』と“喜ばれる命”であって欲しいです」(髙梨さん)
格付け等級の先にある“ほんとうの美味しさ”を探求。5つ星ホテルにも選ばれた至高の和牛
かずさ和牛・名人和牛の生産者として数々の受賞歴をもつ髙梨さんですが、枝肉の状態で判断される市場評価に満足することなく、自分でその味を確かめ、改良につなげようと、2017年に食品販売の認可を取得。市場に出荷された自社牧場の和牛を、独自のルートによってお肉を買い戻し、飲食店や一般消費者への直接販売を始めました。
その後は、食べた人からのフィードバックを集め、その声を踏まえて飼育管理の方法や飼料の配合などを微調整し続けることで食味を向上させてきたのです。挑戦が実を結び、2022年には5つ星ホテルなどの有名店から指名買いされるまでに。
美味しさという正解のない答えを探し求めている髙梨さん。そのノウハウを尋ねると「絶対に教えられません」と笑いましたが、次の4つの条件が肝になると話します。
1. 切ったときにドリップが出ないこと
2. 焼いたときの豊かな香り
3. 口に運んだときの味わいと、喉を通った後の余韻
4. 個体差を最小限に留め、味に一貫性があること
「味の感じ方は人によって違うので、美味しさの正解はありません。だからこそ、探し求める楽しさがある。直接販売を始めてからは髙梨牧場という肩書きで流通するようになったので、良い評価だけでなく悪い評価もすべてダイレクトに返ってくるという怖さもあります。でも、この緊張感を持って牛たちと向き合うことがさらなる美味しさにつながるはず。牛の世話をしながら取引先のシェフや消費者の方の顔を思い浮かべると、いつも気持ちが引き締まります」(髙梨さん)
「オーダーメイドな和牛づくり」という新たな価値観。美味しさの追求に終わりはない
髙梨牧場では、これまで去勢牛のみを肥育してきましたが、2023年から雌牛を導入し、雌牛の長期肥育にも挑戦しています。
きっかけは、指名買いしていただいた5つ星ホテルのシェフから「髙梨さんがつくる雌牛を食べてみたい」と言われたこと。その言葉がずっと頭にあった髙梨さんは、環境保全や動物福祉など、畜産業界を取り巻く大きなテーマも抱き込みながら和牛づくりのこれからを考えています。
「雌牛は去勢牛に比べて重量が大きくなりにくいので、生産効率は良くありません。一方で、肉質は柔らかく、飲食店からは雌牛を求める声が多くあります。我々生産者が独自流通を行うことで、消費者ニーズに合わせて適切な価格で和牛を販売できるようになります。食の多様化が進む今、こうした取引のかたちはますます増えていくかもしれません。市場の格付け評価とは切り離したところで、取引先の要望に沿ってオーダーメイドのように和牛を生産する…新しい価値観を想像するだけでワクワクしますね。まだまだ研究段階、これからも髙梨牧場の和牛独自の美味しさを追求していきたいです」(高梨さん)
髙梨牧場 受賞歴
・全国和牛能力共進会(和牛オリンピック)
「肉牛の部 1等賞」
・全国肉用牛枝肉共励会
「優良賞 」
・全畜連肉用牛枝肉共進会
「最優秀賞 」
・全畜連肉用牛枝肉共励会
「最優秀賞」
・名人会グランドチャンピオン大会
「チャンピオン賞」
・名人会肉用牛枝肉共励会
「名誉賞」
・チバザビーフ枝肉共励会
「最優秀賞」
・千葉県肉用牛枝肉共励会
「最優秀賞」
・かずさ和牛枝肉研究会
「最優秀賞」
・かずさ和牛・しあわせ満天牛枝肉研究会
「最優秀賞」
・農林水産大臣賞 8回
・都知事賞 2回
・県知事賞 10回
2024年7月現在