【総合学習 in 須藤牧場】館山の牧場から未来を生きる子どもたちへ
小学生、中学生の総合学習を積極的に受け入れている「㈱須藤牧場」様におじゃましてきました!
乳搾り体験やバター作り体験ができることから、酪農体験を目的に、修学旅行のシーズンになると全国各地の小学生や中学生がいらっしゃいます。
牛舎をのぞくと、沢山の牛達が勢いよく食事をする姿をみることができました。のびのびと育つ牛の様子がみてとれます。
㈱須藤牧場様では、多い時には年間に90回ほど小学生・中学生を招き総合学習をおこなってきたそうです。
今回お話を伺ったのは、㈱須藤牧場で総合学習を行う須藤陽子(ようこ)氏。
「教壇にたつこともあったんです」と語る陽子氏は、教員免許をお持ちだそうです。
果たして㈱須藤牧場での酪農教育を通して、どのようなことを子供達に伝えていらっしゃるのでしょうか?
須藤陽子氏にインタビュー
㈱須藤牧場が創業してからどれくらい経ちますか??
――会社としてはまだヨチヨチ歩きで、創業年は2014年ですね。ただ、個人事業の頃から数えると昭和の初期からずっと続いています。
千葉県の南の方は酪農発祥の地ですので、何処の家でも牛を飼っているような地域でしたね。そこがスタートだとしたらもう80〜90年は続いています。私の夫が3代目で、次男の健太が4代目です。
さっそく総合学習のプログラムについて伺いたいのですが、具体的にどのようなプログラムになっているのでしょうか??
――プログラム全体としては2時間のコースになっています。リアルな酪農家の話や、自然との共生の話と合わせて「体験コース」が選べるようになっています。体験コースは3つ用意していて、「乳搾り体験」と「バター作り体験」と「羊毛クラフト」のコースがあります。ちなみにどのコースを選んでいただいてもソフトクリームが付いてます!(笑)
総合学習に参加される方はどのような方が多いですか?また、受け入れが多い時期は?
――お客様は小学生や中学生が多いですね。総合学習は完全予約制で、修学旅行の時期である5・6・10・11月が一番多いですね。多い時は年間90回ほど受け入れてましたので、単純に考えると週に2~3回は行っていました。
年間90回のときは一番ピークの時です。その頃はお客様もインターナショナルで、スイス人だったりインド人だったり、通訳の方をつけてお話させていただいてました。
いろんな地域の方が、ホームページをきっかけに来てくださいましたね。
そんな最中、口蹄疫(※1)が起きたんです。
※1ウィルス性伝染病の一つ。牛・豚・水牛・羊・山羊など偶蹄類の動物などが感染し、口腔の粘膜やひづめの間の皮膚などに水疱を生じる。国際獣疫事務局(OIE)のリスト疾病に指定され、国際的に厳しく監視されている。日本では家畜伝染病予防法の監視伝染病(家畜伝染病)に指定されている。成獣での致死率は低いが、感染率・発病率は高く、家畜の場合、運動障害・栄養失調により生産性が低下する。感染が拡大すると甚大な経済的損失を招くおそれがあるため、患畜は速やかに処分される。また発生場所から一定範囲内の家畜の搬出は厳しく制限され、擬似患畜を含めて全頭殺処分し埋却される。2010年、宮崎県内にて口蹄疫が発生し、県内の牛・豚・その他(山羊、羊、イノシシ、水牛等)が殺処分され甚大な被害を受けた。
口蹄疫をきっかけに、どのような変化がありましたか?
――口蹄疫が発生して、お客様が牛に触れなくなってしまった時期があったんです。海外からも様々なお客様がいらしてたのですが、一切シャットアウトですね。一旦総合学習をやめたんです。
・・・それこそ本当に泣きながらやめました。酪農教育活動を15年ほど続けてきて、「老後までできるね」なんて話してたんです。ライフワークとして、色んな人に伝えていけるねって考えていたところが、口蹄疫をきっかけにお客様が牛に触れなくなってしまったんです。
それまでは人間と牛の共生をずっと訴えてきましたし、放牧場の中にもお客様が入れたんですよ。でも、口蹄疫が発症してからはもうできなくなってしまって。お客様と牛が離れなきゃいけなくなってしまったんです。
私達の独断でお客様と牛が触れ合える場を提供し続けると、千葉の南の方の牧場の牛を全部殺処分しなきゃいけなくなるかもしれない。そうなったらとても迷惑になるので、やめてしまったんです。周りの人もびっくりしてました。「須藤さん、あんなに頑張ってたのにやめちゃうの!?」って。
総合学習を楽しみにしていた小学生・中学生もいたと思うのですが、反応はいかがでしたか?
――ある小学校で、5年生になると須藤牧場に総合学習にこれるという学校があったんです。6年生が須藤牧場での体験をすごく良かったっていってくれてて、5年生がとても楽しみにしてくれていたんです。ただ、須藤牧場としては酪農業を潰すわけにはいかなかったので、やめざるをえなかったんですよね。
その時はとても辛かったのですが、その後、子供達からのお手紙が沢山届いたんです。
「やめてしまうのはとっても悲しいけど、牛を守るほうが大事だから・・・」って、酪農家の立場をわかっているなと感心する内容のお手紙だったり。(笑)
「来週行くことができないので」と、お手紙で沢山の質問をいただいたりもしました。その時は、その質問に答えるために、ビデオで牧場の中を撮影したDVDを作ったんですよ。体験の代わりにこれを見てねって、子供達に送ってあげました。
今では総合学習を行っていますが、再び始めることになったきっかけは?
――口蹄疫で体験コースをやめてから、2年後に復活することができました。日本が清浄国になって、他の農場でも体験がはじまってきたところで、「須藤さんはなんで体験コースを復活させないの?」という声が集まったのがきっかけですね。
ただ最初は須藤農場では方法を変えて、牛を触らずに小学生に送ったDVDを使ってお話メインの総合学習で復活させたんです。次は乳搾りまでやろうと、少しずつ目標を立てながら復活させていきました。
総合学習が復活したいま、お子さんたちにどのような話しをされてますか?
――その子供達にあった話をします。これは、もう本当に私だけのワザなんですよ。(笑)
一応事前に用意されてる教材というものがあるんですが、教材を使って「こういう話をしよう」と用意してその話をするのではダメなんですよ。
もちろん教材の内容を把握しておかないといけないのですが、総合学習の目的って牛の種類を伝えり、牛にはおっぱいが4つあるとか、牛乳は血液だって教えることではないんですよね。
じゃあ何が目的かというと「生き抜く力を育む」ということなんです。ちょっと大きいことなんだけど、教科書では教えられないことを酪農家は伝えられるなって思ったんです。酪農家そのものの生き方が、今の社会に足りないことだと思うんですね。
生き抜く力を育む、とは具体的にどのようなことでしょうか?
――例えば、「台風が発生して向こうから水が流れてきて牛舎が流されてしまう」というときに、どうしたら解決できるかを考えるんです。
「ここに堀をつくって水がうまく流れるようにしたら牛舎は倒れない」とか、そういう生き抜く力を子供たちは身につけなきゃいけないと思ってます。
じゃあその生き抜く力を身につけるためのきっかけとして、都会では体験することができない牛とのふれあいや、日々苦労している酪農家のお話を聞くことで、自分の生活の中で活かせる部分を持って帰ってもらいたいんですね。
総合学習の結果、「もっと牛のこと知りたい、牛乳のことを知りたい」と思ってもらって、自分で調べて学ぶきっかけにしてほしい。だからマニュアルにのっていることは全部教えないんです。
「生き抜く力を育む」という点で、体験コースはどのような役割を担っていますか?
――乳搾りの体験だと、初めて牛と触れ合う子供達はこわがるんです。
でも牛に触れて乳搾りをしてもらって、牛乳を手のひらにとるんですよ。牛の体温は38.5℃ありますので、人間よりもとても温かいんです。
牛乳を手に取ると、大きな牛が怖いって思ってた子供達も「あったか〜い」って安心するんですよ。乳搾りの体験ではこの「命のぬくもり」を伝えることを目的としています。
体験に関してはそれぞれの体験に目的を持たせ、楽しむ目的だったら楽しむし、命を知るこ