農高アカデミー

第4回農高アカデミーレポート! 「新規就農の厳しさ、乗り越えてきた心構えとは?」

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「畜産を勉強中の全国の高校生がオンラインでつながり、学べる機会を」ということで始まった「つながる農高プロジェクト」。本プロジェクトの企画、「農高アカデミー」の第4回目が3月21日(日)に開催されました。非常に厳しいとされる新規参入を叶えてこられた田中一馬さんに、その心構えなどをお聞きしました!

▲今回は高校の先生方にもご参加いただきました。全国の農高生の輪が広がっています!

<第4回農高アカデミーの様子は、こちらから全編ご覧いただけます。>

<以下、ダイジェストになります↓>

Q1.田中一馬さんについて教えてください!

非農家から新規参入
繁殖農家と削蹄師を両立

但馬牛の繁殖農家をしている他、牛の蹄を切る削蹄師の仕事、お肉をカットして販売する精肉業の3本柱で田中畜産という牧場を経営しています。実家が農家だったわけではないんですが、小さい頃から動物がすごく好きで、牛飼いの道に入りました。

Q2.どんな高校生でしたか?進路はどうやって決めたの?

高校の進路指導室でたまたま
牛飼いの仕事があることを知った

中高一貫の男子校に通っていて、高校受験がなかったので、特に進路を考えることもなくいつもふざけているような高校生でした(笑)。高校3年生で初めて進路を考えた時に、やりたいことが何もなかったんです。たまたま進路指導室に貼ってあった偏差値表で「酪農学園大学」という名前を見て、初めて“牛”という仕事があることに気が付いて。大学では「肉牛研究会」というサークルに入って、ほとんど毎日牛舎に寝泊まりして、学校が終わったら牛の世話をしたり人工授精をしたり、自分たちで育てた牛のお肉を屠畜・解体して生協で販売したり。4年間、ずっと牛と関わることばかりしていましたね。

Q3.田中さんが体験された新規就農の大変さを教えてください。

二度諦めた先に見えた
“牛飼いをしたい”という強い気持ち

新規就農には必要なものがたくさんあります。まずはお金、そして牛舎を建てるための土地、技術や知識。マニュアルとして、大学で基本的な知識を学び、卒業後は農業法人や農家さんで研修をしてお金や技術や人脈を得て、次のステップとして就農というのがあるんですが、畜産経営の場合は50頭の牛を飼うのに僕らの時代で3000万ほど、今ならその倍くらいのお金が必要と言われています。当然卒業したばかりの学生にそんなお金はないわけです。

それでも夢を持って農家さんに研修に入るんですが、15万円のお給料をもらっても生活費に10万円使って、残るのが5万円ほど。1年間頑張って貯金したとしても60万円。2年間研修したとしても120万円しか貯まりません。2年研修して牛飼いを諦める先輩、4年、6年やって諦めていく先輩を大学4年間でめちゃくちゃ見てきました。そうした壁にぶつかって、僕は一度牛飼いをすることを諦めたんです。でも僕は、中学生の頃いじめられていた経験から自分にコンプレックスがあって、後輩たちにはカッコつけて「俺はいつか牛飼いをするから」と言っていました。それを卒業間近のある日、付き合っていた彼女に、後輩の前で「あなたは嘘つきだ」と言われて、カーッとなって「絶対になる!」と言っちゃったんです。それで進学予定の大学院を1年間休学して、農家さんのところに住み込みで研修に入らせてもらうことになりました。

 
せっかく住み込みで働かせてもらえるのであれば、チャンスだからできるところまでやってみようと思い、毎日、朝5時半から仕事だと言われれば5時20分に牛舎に行き、それで褒められれば調子に乗って次の日は5時10分に行って、次は5時、4時45分…4時半頃に行った時には「牛にもリズムがある」って怒られたんですけど(笑)。親方に、牛がいくらするか、餌代にはいくらかかるかを聞いて、お金のことも初めて考えました。自分なりに毎日就農計画書を作って、休憩時間もごはんを食べたら親方に削蹄の仕方を教えてもらったりしながら、とにかく今の自分にできることを精一杯やりました。

1年後、必死で僕が考えた就農計画書は、9年赤字で、10年目にやっと利益が80万円、というものでした。これでは生活もできないし、結婚もできない、やっぱり無理だな諦めよう、ともう一度思ったんです。経済的に負担をかけてきた両親にも伝えるため、実家に電話をしました。「1年間頑張って来たんだけど、どうしても難しい。諦めようと思う」と言おうとしたら、“諦めようと思う”という言葉がどうしても出てこなくて…親の前で初めて、嗚咽しながらボロボロ泣きました。その時に、気が付いたんです。1年間真剣に向き合ってきたことで、自分の中で牛飼いは本当にやりたい仕事になっていたんだなって。

そこで、9年間赤字でもいい、バイトしながらでもいいからやってみたいと思い、休学していた大学院を退学して、親方に頭を下げて、もう1年研修させていただくことにしました。そこからは僕が腹を括ったことで、周りの農家さんや親方の僕を見る目も変わり、親方の牛舎で空いていたところを使わせてもらえることになりました。200万ほど借金をして、安い妊娠牛のおばあさん牛を買ってきて、その子牛を育てて売ることで回していきながら、生活費は他の農家さんを回って和牛ヘルパーみたいなことをして稼ぎました。

 
Q4.牛舎を建てる時に大切なことや建設費用を教えていただけますか?

土地が手に入れば建てられるわけではない
大事なのは人とのつながり

例えば農家の跡取りで土地があるのであれば問題はないんですが、僕のように非農家であれば“縁”を作っていくしかありません。畜産をする場合はただお金を払って土地を買えば牛舎を建てられるわけではなく、周りの集落の賛同がなければ建てることはできないですし、反対が多ければ継続していくことも難しい。だからまずはその地域に入って自分の意志を見せ、人間関係を作ることかなと思います。覚悟はすごく大事です。僕も研修1年目の時は、「牛舎とかないですか?」と聞いても誰も声をかけてくれませんでした。それは当然で、どこの誰かもわからない人間に貸したら、めちゃくちゃにして出ていく可能性もありますよね。

僕は親方の空き牛舎から始めて、すぐに違う牛舎を借りて、5年目に自分の牛舎を建てました。その時、本当は別の場所で牛舎を建てる予定だったんですが、地域とのトラブルで白紙になってしまったんです。それでもすでに牛は買ってしまっているし、どうしようとなった時に、今の僕の地主さんと飲むことがあって、「それならうちの田んぼを使えばいいよ」と言ってくれたんです。ヘルパー的なことをやっていた時に、その方の牧場の柵を直すのを手伝いに行ったり、僕が5年間逃げずに取り組んでいる姿を見てくれていたんですね。本当に人とのつながりは大事です。建設費用は、僕が最初に建てた50頭規模の牛舎で3200万ほど。今は建築資材の値段も上がっているので、その倍ぐらいになると思います。

 
Q5.誰もが諦めていく中で新規就農できたのは、人と何が違ったからだと思われますか?

夢を叶えるために大切なことは
行動すること、思いを継続すること

新規就農をした人で同じパターンの人は誰一人いないと思います。みんなそれぞれ背景も時代も違うし。ただ僕がなぜできたかと言うと、本当に人に助けられました。大学を卒業した時なんて、貯金はないし、土地も知識も技術も人脈も、何一つない。そこから何かを成し遂げようとすると人の力しかありません。「運と縁が大事」ということは若い子たちにいつも伝えているんですが、「縁」は、人の縁。自分の力なんて本当に小さくて、みんなも今高校生で自分の力だけで本当にできるのかなという不安があると思います。その通り、できないんです。だからこそ人の力を借りないといけません。

でもその縁をいただこうと思うと、「運」が大事になってきます。この運というのは、運任せという意味ではなく、「行動すること」だと思っています。自分の思いを実現するために行動する。今できることから行動すると、新しいポジションに立つことができて、当時の自分には見られなかった景色が見られるようになります。動けば動くほど、出会える人も増えてくるし、信用されることも増えてきます。行動すること、思いを持ち続けることが、自分がやりたいことを叶えるために大切なことだと思います。

Q6.牛飼いで食べていけるなと実感されたのはどのタイミングでしたか?

本当に自信が持てるようになってきたのは
ほんの最近。今でも恐怖感は常にある

5頭から8頭、12頭、25頭、そして40頭と牛舎を建ててから一気に頭数を増やしたんですが、食べられるようになってきたのは、就農してから4年目くらいからかな。でも、借入金の返済時期になって、規模と自分の能力が噛み合わず、経営の危機に陥ったことは何度もあります。牛はスパンの長い動物なので、その年にたくさん死んでしまったり、種付けが悪かったら、その損を取り戻すのに3年、5年とかかってしまいます。だから自分の納得する牛が作れて、お金が回るようになって、本当に自信が持てるようになってきたのは、ここ3年くらいの話ですね。だけど、今もこれでいけるとは思っていないです。コロナのこともあるし、口蹄疫があったりと相場は変わるし、恐怖感は常にあります。

 
Q7.就職などの選択もある中で、あえて厳しい新規就農の道を選ばれた理由は?

牛の命を扱って、
食べるところまで関わるという
畜産業の魅力にハマった

大学の時に入っていた肉牛研究会では、牛舎も自分たちで建てて、デントコーンを植えてサイレージを作ったり、作った堆肥は2トンのトラックに積んで売りに行ったりしながら、自分たちが人工授精をして取り上げた子牛が4年生になる頃にお肉になるまで、牛の一生を見ていたんです。だから動物の世話をしたいというよりは、経営者として畜産業に関わりたいという気持ちが強くなっていました。最初は動物園の飼育員とか動物に関わりたいというだけだったんだけど、お肉を大学の生協で販売したり、もつ鍋にして食べてくれる人の顔が見えた時に、牛の命を扱って食べるところまで関わるという畜産業の魅力にハマっちゃったんですね。

 
Q8.新規就農を目指す高校生へメッセージ

新規就農の道は人それぞれ
自分のルートを探せるのは
自分しかいない!

新規就農のルートはひとつではありません。例えば人工授精師の資格を取って、人工授精師としていろんな牧場を回るうちにいろんな縁がもらえるかもしれないし、大学に進学して繁殖のスペシャリストとして研究者の実績を積んで、お金を貯めて牧場を持つというルートもあります。もし「お前には無理だ」と言われたとしても、本当にやりたいのであれば、違うルートから取り組めばいいんです。そこで自分のルートを探せるのは、自分しかいないんです! 目標に向かって一生懸命やることは、何も苦しいことばかりではありません。ぜひ視野を広く持って、自分がやりたい、楽しいと思うことをやり切って欲しいなと思います。

 
田中一馬さん、ありがとうございました!

■農高アカデミーに参加していかがでしたか?

 こうき(高2)
将来新規就農をして特産松阪牛の肥育農家になりたいと思っている僕にとって、いつもYouTubeで観ていた田中さんとお話ができ、とても勉強になる貴重な時間でした。夢に向けて一歩前進ができました。

 みはる(高2)
新規就農を目指す私にとって、女性という変えられない問題は大きな悩みでしたが、「背景は人それぞれだから男女関係なく自分なりのルートを探して頑張ればいい」という田中さんの言葉で前向きになることができました!

 みちる(高2)
私はまだ将来の進路が明確になっていなくて、頭の中で悩んでいるばかりだったのですが、今日のお話を聞いて、私も自分から積極的に行動してみよう、できることから始めようと思えて、気持ちが軽くなりました!

 まお(高1)
「運」を掴むためには行動することが大切だというお話が印象的でした。高校生活で、好きなことを躊躇せずに思い切りやってみる行動力を身につけていきたいなと思います。農高アカデミー参加皆勤賞を目指します!

 ほのか(高2)
動物が好きだからという理由で、高校卒業後は動物に関わる仕事に就きたいと思っていたのですが、ただ好きだからではなく、本当に自分が本気で取り組める仕事なのか、もっと深く考えていきたいと思いました。

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