読みもの

【牛男子③】北海道新ひだか町、小さなまちで静かな暮らしを愛する牛飼い【みついし牛編】

この記事の登場人物

畑端俊樹
畑端牧場
" alt="">

北海道新ひだか町の三石エリア。

道産子でも海沿いのまちを思い描いてしまいますが、実は日高山脈のふもとに広がる大地ではブランド牛「みついし牛」の生産が盛んです。畑端牧場は、この地で「みついし牛」の繁殖から飼育、おいしいお肉に仕上げるために太らせる肥育まで一貫して手がけています。

ファームを案内してくれたのは三代目の畑端俊樹さん、27歳(取材時現在)。ほっそりした体つきと端正な顔立ち、まさにイマドキ男子が牛飼いになった理由から尋ねてみました。

父の努力をムダにするわけにはいかない、という思い

畑端さんは三兄弟の次男。中学時代に牧場の後継ぎになることをぼんやりと考え始めました。「だけど、真剣に将来を見つめていたワケではなく、兄が継がないといっていたから何となくかな(笑)」といたずらっぽく笑います。

とはいうものの、畑端さんは小さなころから父が苦労を重ねて和牛の頭数を増やす姿をそばで見て育ってきました。後を継ぐようにいわれたことはありませんでしたが、胸中には「父の努力をムダにするわけにはいかない」という思いが横たわっていたのでしょう、中学卒業後は酪農経営を学べる江別市の高校に進学します。

「僕は牧場を手伝うことが少なかったので、和牛についてほとんど知りませんでした。けれど、高校のクラスメイトは酪農家の跡取りになると決めている人や『和牛大好き女子』がワンサカ。友人たちの話に刺激を受けたり、本を借りて読んだりするうちに牛飼いってオモシロそうだなって本気度が増してきました」

一見はクール…だけど、ご両親も認める和牛への熱!

高校卒業後、畑端さんは実家に戻り、さっそく牧場を手伝います。お父さんに技術を教わりながら……ではなく、いきなり子牛の育成や肥育を任されたというから驚きです。

「親子ですから口ごたえやケンカもあるだろうと、あえて自由にさせてくれました。もちろんアドバイスを乞うこともありますが、人工受精や和牛の管理はいろんな本を読んで試行錯誤しています」

そんな畑端さんのことをご両親はこう評価します。

「俊樹は一見淡々としているようだけど、各地に赴いて先輩の話を聞いたり、飼料に工夫を施してみたり、和牛への熱は人一倍強いんです。息子が牧場に携わるようになってから、肉質の成績も上がりました」

親のひいき目ではなく、畑端さんは牧場にとって頼もしい存在に成長しているよう。

ところが、当の本人は「牛飼いは9年目だけど自分はマダマダ。分娩事故や子牛の病気なども多々ありますから」とあくまでストイックです。

 牛飼いのルーティンな毎日に心地良さを感じて

畑端さんの一日は朝の5時ごろに始まります。和牛に餌をあげてから朝食をいただき、牧草や稲ワラを足しては牛舎を掃除。12時過ぎには自宅で家族と昼食をとり、午後の定例作業に向かいます。日によってすべきことは異なりますし、夏場は牧草の畑仕事で夜遅くまで働くこともありますが、夜6時には家に帰る日が多いそうです。

「牛飼いの毎日って意外とルーティンなんです。僕は家でスポーツ観戦や読書を楽しむのが好きなほうですし、アルコールがまったくダメですから友人を誘って飲みに出かけることもありません。変化に富んでいるとはいえないけれど、小さなまちの静かな暮らしが性に合っていますね」

もちろん、畑端さんは人付き合いが苦手ではありません。農協青年部の集まりやバーベキューに顔を出したり、小中学校時代の野球経験を生かして社会人野球チームに所属したり、田舎暮らしの「距離感」のつかみ方も上手なのです。

海沿いへ、札幌へ、ドライブに出かけるのが気晴らし

最近、ハマっていることを畑端さんに尋ねると、ニッコリ笑って車庫のほうを指差しました。そこにはピカピカに光る真っ赤なSUVタイプの車。

お父さんと相談しながら「フツーの乗用車ではオモシロクない」と、スポーティでタフな走りも楽しめる一台を選びました。

「唯一の趣味といえるかもしれませんが、ドライブが気晴らしになるんですよね」

畑端さんは時間が空いたら近所の海沿いを流したり、札幌に出かけてマチナカをぶらぶらしたり、気ままにドライブを楽しんでいるとか。ちょっとした好奇心から、助手席に座る人はいるのかと聞いたところ、ビックリする答えが返ってきました。

「つい最近…1週間ほど前に結婚したんです。妻とは札幌で出会って、1年半ほどで籍を入れました。来年には新ひだかに来てもらい、一緒に住み始める予定です」

奥様は牧場の手伝いを苦とは思わず、むしろ楽しみにしているのだそう。動物を相手にする仕事は年中無休と思われがちですが、畑端牧場は家族経営だからこそお互いにカバーし合いながら休みをとっています。柔軟なワークスタイルも奥様が嫁入りを決めた理由なのかもしれません。

常に冷静に、穏やかに受け答えしてくれた畑端さん。ココで最後の質問。感情が一番揺れ動く時っていつなんですか?

「肉質の品評会に出てトップをとれた時はガッツポーズしたいくらいうれしいです。これまで『名人会』という品評会では3回最優秀賞をもらえました。反対に、負けると胸の中は悔しさで一杯。いつか全国規模の大会で優勝するのが夢なんです」

畑端さんは牛飼いと思えないほど甘いマスクだけれど、やっぱり根っからの牛男子。夢を語る表情は相変わらず穏やかですが、瞳の奥には確固たる意志が揺れていました。