全国を飛び回る和牛専門のコンサルタント・伏見康生獣医師は畜産業界にどんな野望を抱くのか?
この記事の登場人物
伏見 康生株式会社 Guardian
和牛専門のコンサルタントとして北海道から九州・沖縄まで、全国を飛び回る、株式会社Guardian代表・伏見康生獣医師。全国に抱えるクライアント農場の総保有頭数は6~7万頭に及び、相談メールが日々寄せられる。人の心に火をつけまくる、伏見先生の燃えたぎる情熱はどこへ向かっているのか…?
取材当日、夜の東京・羽田空港。鹿児島から到着し、バックパックで颯爽と待ち合わせ場所現れた伏見先生に疲れた様子はなく、笑顔の向こうに、燃えたぎるような情熱がすでに溢れている。翌朝、北海道へ飛ぶための束の間の東京滞在。
// プロフィール
伏見 康生 Guardian 代表
和牛専門のコンサルタントとして北海道から九州・沖縄まで、全国を飛び回る、株式会社Guardian代表・伏見康生獣医師。全国に抱えるクライアント農場の総保有頭数は6~7万頭に及び、相談メールが日々寄せられる。
もくじ
第2旅客ターミナルに’18年にオープンしたヴィーガン用フード&ドリンクのカフェ、「HealthyTOKYO Cafe&Shop」の前を通りながら、フェイクミートについての話も飛び出した。
「既存の畜産業関連業種の方々にとっては脅威と感じるし、新しい世界に対しては希望と見る向きもあるし、難しいですね。その行く末を冷静に見極めて、どのように仕事をしていくかを決める必要があるかなと思います」
「大手商社はすでに億単位の投資をしているし、例えば日本ハムさんなどは生体からの製品を作る一方でフェイクミートも作っています。日本の農業団体組織がどれほどの危機感を持って対応するかはわかりませんが、大手企業のこの事業への体重の乗せ方を見て、我々獣医も含めた関連業種も投資すべきタイミングと引きどころなど、勝負を仕掛けないといけない時期だと思っています」
さて、インタビュー。
…まずは先生のお仕事の内容を教えていただけますか?
伏見 お仕事の依頼のあった畜産農場に対して、事業の推進をお手伝いさせていただくコンサルタントを行なっています。パターンとしては大きく2つあり、管理獣医師的に持続的に関わらせていただく場合と、すでに管理獣医師さんはいらっしゃる状態で、今起こっている問題について製薬会社さんや生産者さん、獣医師さんから傭兵的に解決の取り組みを求められる場合があります。
…獣医師さんから求められる場合もあるんですね。
伏見 獣医師にもそれぞれの得意分野がありますので、その方々も自分の得意分野に自信があって、呼んでくださっていると思います。どちらが優れているとかではなく、戦っているフィールドが違って、お互いの得意分野で貢献をして、補っていくことですよね。
…一般の臨床獣医師さんとの違いについても教えていただけますか?
伏見 僕の場合、特に力を入れて“群”としてのロスや問題の解決とともに、利益を上げる取り組みを意識していることが多いかなと思います。個体を診ないというわけではないんですが、農家さんは営利的な視点で戦っているので、経営的に利益をもたらさなければ一生懸命な仕事をしても自己満足の域で終わってしまいますので。
獣医師の本分として、弱っている動物を助けることが僕にとっても最大の喜びのひとつではありますが、必ずしもその点だけを見ているのではなく、農場全体をより良く回すことが最大の利益・貢献につながることであり、最終的には個々の健康や命を救うことにつながると考えています。
“群”としての問題を解決し
農場全体の利益向上に貢献
…農場に入られたら、具体的にどういった点に注目されますか?
伏見 群としての発育、栄養状態、活気などを最初に見て、与えられているエサや設備や作業動線などを見ています。
例えば子牛のエリアに入ると、そこにいる20~30頭が、まず外見から生後何日くらいかがわかりますよね。その上で、その日数の発育の最高点を100点として、何点くらいの子牛が揃っているかを把握します。
それは、生き物には“栄養”と“環境”がもっとも大事だからです。どうしても職業が獣医なので、お薬がどうだとか学問的な難しいことを考えてしまいがちですが、大事なことは、人間と同じで「何を食べて」「どういうところに住んでいるか」が圧倒的に重要になります。食べているもので50点、環境で30点、そして薬とかワクチンだとかが20点。栄養と環境が良ければ、すでに80点を取れているんです。
…だからこそ餌や環境のアドバイスもされるんですね。
伏見 そうですね、日齢に応じた生き物としての性質に合わせた餌や草の量、ピーク哺乳乳量の持って行き方、生まれてくる子牛の体型、飼育専有面積、換気、そういったことが整って、初めてワクチン・抗生物質・サプリメントなどの意味が出てくると思います。
懸命な獣医師であるほど
陥ってしまう近視眼的な落とし穴
…その視点や考えは、はじめから持っていらっしゃったんですか?
伏見 いえ、私も獣医師として仕事をしていく中で、たくさんの症例や農家さんに出会って、農家さんから多くの気づきや指摘をいただき、先輩獣医師から本質とは何かを教えていただきました。そして、何年も経つ中で徐々に言われてきた視点や本質に意識が向くようになっていきました。
一生懸命個体を診ていくことの積み重ねが、牛を助け、農家さんを助け、自身の成長と農家さんの利益的貢献につながることは事実ですが、俯瞰的視点で「栄養面」「環境面」への最適なサポートができれば、より予防的に、より利益の増大という形で貢献できることも多い、ということも真実と思っています。
どうしても我々は、獣医学的な視点で動物を診てしまいます。それはどちらかというと栄養学ではないし、衛生学でも管理学でもなく、薬理学であり、内科学・外科学、微生物学であることが多いのではないかな、とも思います。でもそれは、20点の部分でしかないんです。私の勝手な点数配分ですけれども。
生き物はやはり、食べているものがすべてです。例えばここに10人子供がいたとして、そのうちの2、3人が今年のインフルエンザのワクチンを打っていなかったとしても、その子たちが体格的に劣るわけではないし、インフルエンザにかかる確率が極端に上がるわけではないですよね。
ところが、タンパク質や炭水化物、脂質などをうまくとれずに生活してきたとしたら、明らかに痩せていきます。栄養と環境によって支えられる「健康」が最も大事ですよね。人間に当てはめたらわかりやすいのですが。
目の前の子を絶対に助けたい農家さんを笑顔にしたい、と獣医師として一生懸命にかかわっていると、ふと本質を見失ってしまいそうになります。刹那的にはもちろんそれが正しく、そのために獣医はいるのですが、長い視点で木を見て森を見ずになってしまうんです。一生懸命であるからこそ、陥ってしまうのではないかと思います。
目指すのは「和牛の教科書」を
日本に提示できる最高のチーム
…日本全国を飛び回っておられる伏見先生が目指されていることは何ですか?
伏見 僕は農家さんに最大の貢献ができる、最高のチームを作ることを目指しています。
仮に、とある農家さんが相談できる相手が限られていた環境であったとき、その人のアドバイスが間違っていれば、農家さんの事業の助けにならないこともあるかもしれません。まだ栄養や環境の最適な解を見いだせておらず、病気が多く、30点しか取れていない時に「こちらの薬やサプリメントに変えた方がいい」とアドバイスを受けて従ってしまうこともあるかもしれません。そうして結果が好転すれば良いですが、うまくいかずに頭を悩ませてしまうこともあるかもしれませんよね。特に畜産や酪農は地方の奥地に多いですし、情報はより薄くなっています。
私たちは良い点数が取れていなかったり、漠然とした悩みを抱えている農家さんの問題を可視化して、解決策となるさまざまな引き出しを提示し、80点まで到達できるように貢献していきたいんです。そのためには、僕らがより影響力を持つ最高のチームを作り、「和牛の教科書」のようなものを発信し続ける必要があると思っています。
乳牛においてはすでにそうした事業体が国内に数社あると思います。和牛においては師である松本大策先生が牽引してきた考えを、次世代としてさらに経験と学術的知見を高め、チームとして、最大の社会貢献を目標に挑みたいと思っています。
…今、先生はどんな未来を見ていらっしゃいますか?
伏見 僕が立ち上げた株式会社Guardianは今、コンサルティング部門(Guardian Consulting)、受精卵部門(Guardian Embryo)、検査・医療機器部門(Guardian Medical equipment)に分けたチームを作っている段階です。(22年4月現在、先端診療・リモート診療部門も組織中及び計画中)
…チームとしての役割についても教えていただけますか?
伏見 受精卵部門は、繁殖~採卵~移植まで行うチーム。農家さんの繁殖成績を上げ、妊婦さんを増やし赤ちゃんを増やします。赤ちゃんが生まれたら、次はコンサルティング部門が、子牛たちにとって最高の保育園を作ります。生後3ヶ月くらいまでの赤ちゃんから小学生くらいの時がやはり生き物として弱く、一番お仕事の依頼が多いんです。命を奪ってしまうようなBVD-MDやサルモネラ、マイコプラズマといった感染症も流行りやすいです。それら問題を解決するために、検査部門も併設できれば効率もよく迅速に問題点が可視化できます。これら3部門で妊娠~分娩~子牛~育成~繁殖もしくは肥育までをトータルコーディネートできるチームとします。
…先生にはその将来が具体的に見えているということなんですね。
伏見 はい、目標として見据えています。僕らの想いに同調してくれる方であればぜひ仲間に入ってもらいたいと思っています。
…すごい…! アベンジャーズみたいなチームが出来上がりそうですね。
伏見 貢献したい意識のある人が集まって、スペシャリストであれば、必ず農家さんの利益につながります。獣医師は職人的なところがあるので、気持ちよく仕事をしてもらえば、チームの力はより極まってくると思います。
…先生が仲間に求める要素は何ですか?
伏見 自分ひとりでできることには限界がありますし、僕の実力など知れています。社会貢献は、影響力×実力で大きくなっていくものだと思いますので、僕の目標は人生の時間が限られている中で、自分よりも優秀な人間をいかに自分たちと同じ社会貢献のために同じ方向を向いて仲間になっていただけるか、です。
僕は次の4つのうち1つでも才能があれば得難い稀有な人物だと思っています。1つ目は、他に抜きん出る「能力」「才能」。例えば足が速い、のように。そして「誠実さ」。誠実さが和を生み、不誠実が不調和を招きます。次に「情熱」。燃えるような瞬発的な意思と行動です。最後に「グリット(GRIT)」。最後までやり抜く力ですね。結局何度転んでも、最後までやった者が成功するんです。このうちの1つでも抜きんでていれば、それは100人に1人の逸材だと思っています。ぜひとも仲間になっていただきたいです。
シェパード代表・松本大策氏に出会い
雷を打たれたような衝撃を受けた大学時代
…先生はもともと大学に入られた時から和牛の道、と決められていたわけではないんですよね?
伏見 はい、大学に入った段階では僕は小動物の獣医師を目指していました。犬や猫を飼っていたこともあり、小学生の頃から小動物の獣医師になりたかったんです。
ただ、大学2年生のときの牧場実習で病欠の友だちがいて、夏休みにその友人に付き合って牧場実習の補講に行った時、偶然にもコンサルティングに来ていた松本大策先生(シェパード中央家畜診療所代表)に出会えたことがすべての始まりで、最大の転機でした。「これは栄養の問題だ、これは環境の問題だ、このためにはこの薬を使って…」と鮮やかな理論展開をする姿がスタイリッシュでカッコよくて! 「大動物界にスーパースターがいる!」と思いました。その姿にガガンと雷に打たれたような衝撃を受けて、大動物の道を目指し始めました。
それから、いくつも在学中に外部で実習を受けることもありましたが、その時ほどの衝撃はありませんでした。
…伏見先生からご覧になった松本大策先生ってどんな方ですか?
伏見 松本先生は別格の天才です。頭のネジが外れているくらい(笑)。本当にカリスマですね。
どんなことも本気で挑めば
不可能も可能に変えることができる
…先生の情熱は仕事以外のことにも注がれているんですか?
伏見 そうですね。僕は海に潜って魚を獲ることが趣味なんですが、大学生の頃までは25メートルも泳げなかったんです。今では水深20メートルくらい一呼吸で潜って、10キロくらいの魚を獲って上がってこられるようになりました。ひとつ目標を定めて本気で挑めば、できるようになります。だって、やっている人がいるんだから。
…先生の話を聞いていると何でもできそうな気がしてきます(笑)。目標を達成するための心構えなどはありますか?
伏見 獣医のことでも泳ぎのことでも何でもそうですが、どの時点でどのベンチマークをクリアしていけば到達するかを考えて、いつも本気で挑んでいます。そうしないと到達できないですからね。
株式会社Guardian
〒890-0033 鹿児島県鹿児島市西別府町2794-127
TEL:090-3570-4602
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