遊びたい遊びで遊ばせる?養鶏のほとりの自然学校。
この記事の登場人物
伊藤 輝之カヤニファーム
この記事の登場人物
伊藤 香織カヤニファーム
飼育法や飼料にこだわった自然卵養鶏に取り組む北海道稚内のカヤニファーム。運営するのは、伊藤輝之さん香織さんご夫婦。「オーナーは妻の香織。自分は作業スタッフかな(笑)」と笑う輝之さん、実は養鶏をサポートする傍ら、カヤニファームを主なフィールドとした、地元の子どもたちに大人気の自然学校を運営しているのです。
もくじ
大人が押し付けない、子どもが主人公の自然学校を
輝之さんは教育学部の出身。卒業後は神戸でサラリーマンを経験しますが、教育指導への思いが断ち切れず、北海道で子どもたちの環境教育やエコツーリズムに取り組むNPO団体に転職します。そこで香織さんと出会い数年後に結婚。自分たちらしい暮らしや仕事として、輝之さんは自然学校の運営をしようと思い立ちます。
「NPOでも自然体験活動を手がけていましたが、そのほとんどが“マニュアルにのっとって”とか“大人が決めたルールの上で”というような、いわば定石のスタイル。自分はもっと子どもの自主性や自活力に任せる、子どもが主体の自然学校を作りたかったんです」
一方、香織さんが選んだのは、自然に近い環境の中で安全でおいしいたまごを生産するというこだわりの養鶏。二人の夢が実現できそうな舞台を探す中、偶然北海道稚内の上勇知地区に離農した養鶏家の住まいと鶏舎を見つけます。
「鶏舎のまわりは豊かな自然。緑の林の奥には沢が流れ、冬は一面が銀世界に。自然学校としても最高の環境です。なのでここがいい、ここに決めようと」
こうして輝之さん香織さんは、2007年9月に札幌から上勇知へと移住。その後準備段階を経て、輝之さんは「ゆうち自然学校」の取り組みをスタートさせました。
今日何して遊ぶ?が、子どもたちとの合言葉
輝之さんは子どもが伸びやかに成長していく上で、最も大切なことのひとつが「野遊び」だと考えています。
「子ども時代の“学び”は、その多くが“野遊び”の中にあります。それも無理にやらされるものではなく、自発的に“やってみたい”という遊びの中に、です」
豊かな自然の中、体と感情をいっぱいに使いながら自由に遊ぶ子どもたちは、さまざまな体験を積み重ねていきます。火の熱さや煙が目に染みること、川の中で上手に歩く方法、虫や魚の捕り方、雪原のそりすべりのコツ、時には失敗して自分の限界を知ったり、あるいは仲間の大切さに気づいたり。
「その経験のひとつが、子どもの心や体の土台となる部分を作ってくれる。学校でやらされる学び、大人が押し付ける遊びでは決して作ることができない、子どもたちが強く生き抜くための礎です」
ですから輝之さんは自然学校に参加した子どもたちに「今日はこれをしなさい」とは、決して言いません。むしろ「おい、みんな。今日は何して遊ぶ?どこへ行く?」と尋ねるのです。
「たき火がしたい、川遊びがしたい、鶏の世話がしたい、ごはんを作りたい、フリークライミングしたい…。とにかくいろんな意見が出ます。それをできるだけ実現させ、余計な手助けはせず、でもしっかりと見守っていくのが自分の役目。だからかなぁ、子どもたちは自分を大人とか指導者とは思っていないみたい。だって『おい、テル、一緒に遊ぼうよ』ですからね(笑)」
自由な野遊びが、心と体の土台を作ってくれるんです
ゆうち自然学校の基本プログラム(遊びの大枠)は、「子どものための野遊び」「楽しい川遊び」「乳幼児のためののっぱら子育て」「親子で参加できる自然遊び」の4つ。
「最初は知名度も低く参加者も地元の少数だったのですが、口コミやSNSで話題が広がり、現在は年間でおよそ300人ほどの参加になっています。市内だけでなく豊富町や幌延町などから足を運んでくれる人も」
通年で日帰り体験のほか、一泊や二泊のキャンプ、さらに長期滞在を希望する子どもたちもいるとか。
「一度体験すると、その多くはリピーターになってくれます。自然体験の大切さを知る若い親御さんが増えたからなのか、最近は乳幼児とお母さんの野遊び育児を充実させてほしいという声も聞こえます」
そんな声に耳を傾けながら、一人でも多くの子どもたちに野遊びを体験してもらうのが輝之さんの夢。
「もちろん、ちゃんと、うちの子育ても養鶏も手伝いながら…ですけどね(笑)」
ゆうち自然学校
http://yuchi-ns.at.webry.info/
- 営業時間: 要問合わせ
- TEL:0162-73-9900(カヤニファーム)
- 定休日: 要問合わせ
- アクセス:〒098-4581 北海道稚内市上勇知1099-4 (カヤニファーム)