社員は3名、牛は約410頭。根室から提案する人口減少社会の酪農経営。
この記事の登場人物
佐々木 大輔有限会社 希望場
「産業といえば酪農」。日本で最も東にある根室エリア、その中部に位置する中標津町はそんな町です。人口は約2万3000人、乳牛の飼養頭数は約4万頭。しかし、後継者や労働力の不足で、今後の酪農生産をどう維持発展させるかが課題となっています。有限会社希望農場は、その解決策となる「少人数でもできる大型酪農経営」を実践している牧場です。
もくじ
次世代のために、「誰でも経営を引き継げる農場」に。
「酪農家は、牛の世話をして、畑の管理をして、機械の整備もして、機械のオペレーションもして、もちろん経営管理もできなくてはらない。さらに、地域の役職をこなし、家庭での役割を果たす。これ、全部きちんとできたらスーパーマンですよ。そんな農家の親父なんて一握りしかいない」。希望場の代表取締役、佐々木大輔さんはそう語ります。
かつてはそれぞれの専門分野を必死に学んでいたという佐々木さん。けれど技術の進化があまりに早く、一年前の知識すら役に立たなくなる状況に「それぞれ専門家に任せたほうがいい」と考えたのだそうです。
「乳牛のマネジメントは獣医師に。飼料設計は飼料会社に。会計業務や飼料生産も外部委託。経営者は全体を把握してコントロールだけをすればいい、というシステムを作りました。経営ビジョンを立ててマネジメントをして、その責任をとる。それができれば、牛の世話ができなくても、トラクターに乗れなくても、誰でもうちの農場経営を引き継ぐことができます」。
少人数での大規模農場経営、その秘策とは
2018年5月、希望農場は牛舎新築と同時に、アジア初となるスウェーデン製のオートマチックミルキングロータリー(ARM)を導入して注目を集めました。24頭式ロータリーパーラの内側にアームロボットが5台設置されており、乳房洗浄や搾乳ユニット装着がオートメーション化。1回の搾乳が、牛を連れていくためのスタッフ1名だけで対応できるようになったのです。
「最大で1日1600回の搾乳能力を持つパーラーです。もっと高速で処理できるパーラーもありますが、搾乳ユニットの装着などに人手が必要になる。うちのパーラーでは高精度の3Dカメラが牛の乳房の位置を探して自動装着します」
もちろん、これだけでは少人数での大規模経営はできません。クラウド牛群管理システムを導入し、牛一頭ずつにセンサーデバイスを装着。パソコンの入力操作だけで牛の移動が可能になっています。
例えば個体乳量別に牛群を分けるときは、今までは大勢の社員で一日がかりの仕事だったそう。今ではパソコンにデータを入力すると、搾乳から戻ってきた牛をゲートが自動的に識別し、どの牛舎に行くかを振り分けてくれます。
「ロボット搾乳が注目されましたが、大事なのは牛が快適に生活できる環境がシステム化されているという点です。牛舎は国内初となるトンネル換気式を導入しました。普通のフリーストール牛舎だと壁にカーテンが付いていて開け閉めするでしょ? うちではその作業は不要です」。
牛舎は通常、天井と床の間に5℃の温度差があるのだとか。トンネル換気式牛舎では、温度・湿度センサーでそれを感知し、適切に撹拌して排出することで、熱源なしで牛舎の温度をコントロールします。
30℃を越える夏も涼しく、氷点下の冬も暖かい。365日24時間、一方向の風の流れがあるので牛がハエや虻などに煩わされることもない。牛舎内が凍らないので機械の凍結トラブルもなく、人間の作業も楽になったそうです。
このようにオートメーション化が進む希望農場ですが、「うちのシステムのいいところは、それでも社員がちゃんと牛を観察する時間があるところ」と佐々木さんは言います。朝と晩の2回の搾乳のときに、スタッフは牛を連れていきながら、異常行動がないかを観察しているのです。
「このしくみでなら働ける」「農業を続けられる」そんな農場づくりを目指して
牛の個体情報はスマートフォンで受け取ることができるので、「この牛はなぜこんな行動をとるのか?」と疑問を持ったら、すぐにデータを参照。根拠に基づいて考えることができるので、スタッフが牛を見るスキルを磨くことができます。
「社長が手取り足取り教えなくても、社員が勝手に成長できるシステム」と佐々木さんは胸を張ります。
「酪農は臭くて汚くてキツイと言われてきました。この農場なら働きたい、この仕組みでなら代表として経営に挑戦したい、そう思ってもらえるような農場づくりを目指しました」。
新システム導入から順次、牛を増やしてきた希望農場。1年半が経過した2019年末の飼育数は約240頭、最終的には416頭まで増やし、安定的に年間5000トンを搾る経営を目標としています。
「この経営マネジメントを用いて、経営不振で離農せざるを得ない牧場をグループ化できればと考えています。離農者が増えて人口が減れば、コミュニティを維持できません。それぞれの農場をうちのノウハウで経営してもらい、給料を払い、社会保障も付ける。このやり方でなら、農業が好きな人に町の仕事をさせなくてもいい。ずっと農業者として働いてもらえます」。
このような構想の背景には、佐々木さんの農業というものへの確固たる思想があります。
「農業は、地球の地面を預かって食料を生産する仕事です。いま生きている人たちを養うために最大限の生産をあげること、これから生まれてくる人たちのために永続可能な生産システムを作ること。これが農業の家に生まれた自分の使命だと考えています」。
徹底した外部委託(アウトソーシング)と、そのマネジメントで運営されている希望農場。牧場の心臓部ともいえるミルキングパーラー舎の外壁には、システム構築に参加している協力企業の名前がずらりと掲げられています。
有限会社 希望農場
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- 営業時間:ー
- TEL:0153-73-1212
- 定休日:ー
- アクセス:北海道標津郡中標津町字俵橋1736