第5回農高アカデミーレポート! 「養豚業界の現状とこれからの発信」
「畜産を勉強中の全国の高校生がオンラインでつながり、学べる機会を」ということで始まった「つながる農高プロジェクト」の農高アカデミー。4月25日(日)に開催した第5回農高アカデミーでは、ゲストの平野恵さんに、養豚業界の現状や平野養豚場の打開策をお聞きしながら、農高生の活動をもっと広く知ってもらう方法についても一緒に考えていただきました!
もくじ
▲今月は参加した農高生や普通科の高校生たちがディスカッション形式でお話しました!
<第5回農高アカデミーの様子は、こちらからご覧いただけます。>
<以下、ダイジェストになります↓>
農高生の活動紹介
~オリジナル豚肉・加工品の販売
…まず、学校で豚を飼育しているメンバーは、活動内容を紹介してもらえますか?
まな 栃木県立真岡北陵高校では、地元の特産品であるイチゴをジュースにして与えた「北陵いちご豚」を育てています。保護者などに向けた学内販売は行っているんですが、今後は地域の方に向けても販売したいなと思っています。
さらら・しょうご 三重県立明野高校では、エコフィード(食品メーカーから提供される食品残さ等を使って製造された飼料)を使って豚(あかりのぽーく)を育て、販売しています。エコフィードには飼料コスト削減など良い面があるので、これがどうやったら広がるかなと考えています。
さら 神奈川県立相原高校では、日本では珍しいマンガリッツァ、バークシャー、梅山豚(メイシャントン)という系統が入った二元豚を繁殖豚として、三元豚の豚(相原ポーク)を育ててお肉や加工品販売を行っています。今は学内でどんなアニマルウェルフェア(動物福祉)を実践できるか考えています。
平野 これから畜産を続けていく上ではそれはすごく大事なことだよね。
…平野さんはお仕事をする上で、どんなところにやりがいを感じておられますか?
平野 豚さんが健康であるということは大前提で、旦那さんやお義母さん、一緒に働いてくれている海夢(かいむ/家族経営を決めていた平野養豚場が、縁あって’20年に初めて受け入れた19歳の従業員)が楽しく生き生きと働いているということが私の喜びでありやりがいです。あとは私たちにつながる関係者の方々、飲食店さん、お肉屋さん、飼料屋さん、豚を運んでくれる運転手さん…みんなが笑顔だったら嬉しいなと思っています。
しの 実は今回お話を聞かせてもらうにあたって、地元を調べてみたら家のすぐ近くに養豚場があったんです。「食」という身近なことなのに知らないことが多くて驚いています。
養豚業界の現状
~大規模養豚が台頭する実情
平野 養豚の歴史は習ったことある? 何十年も前は、畑の堆肥のために数頭だけ飼う、「庭先養豚」と呼ばれていました。そこから、子豚を産ませる農家と子豚を育てて出荷する農家に分かれた「分業養豚」になりました。その後、すべての行程を行う「一貫経営」が主流になり、現在はそうした一貫経営の中小規模農家と企業として何万頭を育てる大規模養豚の2極化しています。今、飼育軒数は減っているんだけど、飼育頭数は増えています。中小の養豚農家が減っているのはどうしてだと思う?
まな 後継者がいないからですか?
平野 もちろん、それもあるよね。一次産業は高齢化が進んでいます。でもそれは養豚に限らない話だよね。牛に比べて豚は1頭の単価が低いので、頭数の少ない小規模だと利益が出ません。私たちのような小さな農家でも1400~1500頭ほど飼っていて毎週出荷がないと経営が回らないんです。しかも、飼料費や設備費、農機具は年々値上がりしているのに、豚さんの値段は自分たちで決めることができません。これからは買う人も売る人も、目先の利益だけを見るのではなく、日本の食肉をどう守っていくかを考え直さなければいけないなと感じています。ではここでお金に関して1つ、質問!
平野養豚場には今、お母さん豚たちがいる棟・分娩舎・子豚舎・肥育舎(3棟)、合わせて6棟あり、糞尿分離といって糞を堆肥にするコンポストという機械、尿を放水できるレベルに濾過する装置があります。こうした設備を建てるのに、どのくらいの費用がかかっているでしょうか?
ひなつ 8000万円くらいですか…?
平野 実は約2億円かかっています。もちろん一気には建てられないので、少しずつ整えて、その貸し入れ返済には25~30年がかかります。その間にも老朽化するので、建て替えも必要です。普通、一生かけても稼げるような額ではないよね。相場に左右される業界でもあるので、新規参入が難しいのが養豚の現状なんです。
平野養豚場の大改革を聞く
~看護師から養豚の世界へ
平野 平野養豚場は私が結婚する前から廃業することを決めていて、頭数を減らし始めていました。生き物相手なので、すぐに廃業、というわけにはいかなくて。ただ、私たちが結婚したあたりから経営の主導がお義父さんから旦那さんに変わり、いろいろなことを変えてみることにしたんです。SNSの発信に力を入れたり、地元のマルシェに出店したり。はじめは旦那さんからも「生産で手がいっぱいなのに、マルシェに出す意味がわからない」と言われていたんだけど、続けていくうちにお客さんの「美味しい」という声を直接聞いたり、異業種の人とのつながりもでき、それがやりがいになるようになりました。
しの この世界に入られることをご両親から反対されたりはしなかったですか?
平野 私の前職は救急の看護師だったので、最初は結婚も猛反対されました。うちはおじいちゃんが農家で、“農家は稼げないから良い大学に入って良い企業に入りなさい”という教育だったんです。だから父はサラリーマンだったんだけど、その娘が「農家に嫁に行く」って言い出したものだから…(笑)
…平野さんご自身に抵抗などはなかったですか?
平野 よく「看護師から転職って大変だったんじゃない?」と言われるんですが、全然そんなことはなくて。むしろ私は「養豚をするために看護師さんをやっていたのかもしれない!」と思うほど、看護学校や職場で学んだことがとても役に立ちました。注射器も使うしね。診る対象が人から豚になっただけ。しかも人は文句言うけど豚さんは文句言わない!(笑) 子どもの場合は「痛い」と言えないからよく観察しておいてあげないといけないように、豚さんも物が言えないから見て、感じて、匂いを嗅いで…五感を使って観察してあげないといけないんです。だから医療と養豚がとても自然にリンクしました。今は毎日ハッピーですよ。
農高の取り組みを広く知ってもらうためにできること
…みんなは農高の取り組みをもっとみんなに知って欲しいと思う?
全員 思います!
平野 “こうしたいな”と思うことがあるなら、そこから“どうしたらいいんだろう?”と考えてみること。ただ思っているだけでは変わらないから。例えばみんなはどんなことをしてる?
ちなみ 私は今年、地元の北海道岩見沢のラジオ局に出演させてもらえることになって、自分たちの活動を定期的に発信できるようになりました。
しょうご 僕たちは、自分たちの商品を売る時に一緒に渡せるパンフレットを作って、少しでも自分たちの活動を知ってもらえるようにしています。5月には地域のスーパーでソーセージの販売をします。
さら 豚は豚熱などの関係でできなかったり、今はコロナでできない部分もあるんですが、例えば地域の子どもたちに搾乳体験をさせてあげたり、地域の方々に自分たちの活動を広める機会を作っています。
…普通科メンバーはどう思う?
ゆい 地元で販売するだけでなく、農業高校生の作った商品が一堂に会するようなイベントを都心部でもすればいいのかなと思いました。
平野 都心部だと情報をキャッチしてくれる人が地方より多いよね。1校だけですると目立たないことでも全国の農業高校が集まってイベントをすると注目も集まりやすくなると思う。そういう発想が大事なの。買いたいとか知りたいと思っている人はどんなことなら興味を持ってくれるんだろう、と考えていくんです。
…平野さんは広く知られるために、実際にどんなことを意識されていますか?
平野 平野養豚場のような家族含めて4人だけでやっているような小さな養豚場の豚が、なぜ知られているかと言うと、“応援したい”と思ってくれるファンを作ってきたからなんです。いくら美味しいものを作っていても、それが知られなければ意味はなくて。ファンになれば、必ず「木更津で1軒しかない養豚場でね…」と誰かに話してくれます。ファンがファンをつなげてくれる。農業高校だって、ちょっとした努力でそうなれるはずなんです。人を大事にしたり、自分たちの商品をどう見て欲しいかを考えていくことで、ただの“農業高校生が作った◯◯”というだけの付加価値から、もっと大きな付加価値へと変えることができます。
…具体的に何かアドバイスをいただけますか?
平野 例えばスーパーに販売しに行くのであれば、“ただ売る”ではだめで、その日に向けて、「何を伝えたいか」をきちんと考えた準備が必要です。買いに来てくれる大人の方に対して話す練習をしてみるとか。質問されなくても、自分たちからどんどん話す! この豚は何年かけてこうやって育てて…って。
ほなみ 私は学校の「信州黄金シャモプロジェクト」でシャモを育てて、地元のラーメン店とコラボして商品を出してもらっているんですが、お店に食べに行ってもいつもこっそり行くだけでお客さんに声をかけたことはなかったです。ファンを作るためにも、これからは「食べてくれて嬉しいです!」と言ってみようかなと思います。
平野 私はよく声かけるよ! 私たちの豚を使ってくれている飲食店に食べに行って、「美味しい」って声を聞くと、嬉しくなって「私たちが育ててるんです!」って。それだけで覚えてもらえるよね。心に残す、ってことは大事です。
…SNSの使い方で何かアドバイスはありますか?
平野 今って携帯で何でもできる時代です。携帯ひとつあれば、何でもできる気になっちゃうし、誰かがSNSで「助けて」と発信した声をシェアすれば、助けた気にもなっちゃう。でも、やっぱりリアルがあっての携帯なんです。例えば平野養豚場で今働いてくれている海夢と私たちのつながりは、私たちが台風で被災した時に、私のSNSの呼びかけに対して、実際にボランティアで現場に助けに来てくれたからなんです。それは携帯だけではなし得なかったこと。リアルに行動することも忘れないで欲しいです。
しの 今日みんなと話していて、SNSを見ていただけではわからなかった熱量があったので、やっぱり直接話を聞くって大事だなと思いました。
平野 そうだよね。SNSもただ投稿をすればいいというわけではなく、熱量があれば、それは必ず文章に表れます。私はひとつの投稿に対してすごく熱量をかけています。
…最後に高校生へメッセージをいただけますか?
平野 これから社会に出ると、何かを提案しても「それはできません」と言われることが多くあると思います。それが当たり前になってしまう人が多いんだけど、みんなにはそこで終わらず、“どうしたらできるようになるんだろう?”と考えられる大人になって欲しいなと思います。私も応援しています。
■農高アカデミーに参加していかがでしたか?
まお(高2)
夢中で話を聞いていたので、時間が一瞬でした。自分たちも学校で動物を扱うだけでなく、どう伝えたいかをちゃんと考えながら行動したいなと思います。まだまだできることはありそう!
ちなみ(高3)
今日は普通科高校のメンバーとも一緒に話すことができて、こうした私たちの活動をみんながどう感じるのかを知ることができ、新しい発見につながりました。とても楽しかったです。
ひなつ(高3)
私も応援してもらえるような商品開発や地域活動、SNS発信をしていきたいなと思いました。平野さんのパワーに追いつけるくらい、学校でも呼びかけをしていきたいです。
若林先生(埼玉県杉戸農業高校)
日頃農業高校生が日頃取り組んでいることはもっと世間にPRできることだと思っていたので、こうして外部にも知って欲しいと思って発信しているみんなの姿は素晴らしいなと思いました。進路決定する中学生たちの心にも刺さるんじゃないかなと思います。
塚田先生(長野県下伊那農業高校)
全国の農高生と普通科の高校生同士がこうして話せるのはとても良い機会だなと思いました。自分たちの取り組みに自信を持って、みんなで切磋琢磨していければいいなと思います。