モニタリングによるデータ管理で効率化を生み出す。3,000頭のギガファームを目指す経営術とは
この記事の登場人物
丸山 純(有)朝霧メイプルファーム
現在450頭の雌牛を飼育する「朝霧メイプルファーム」は、メガファームとして組織立った経営をしている点で、先進的な存在。というのも、三代目の丸山純さんが労務管理を徹底してマニュアル化したことにより、仕事効率が飛躍的に上がり、牛乳生産力のアップにつなげてきたからです。
もくじ
労務管理とマニュアル化で牛乳生産力を向上
マニュアルには、餌の配合の仕方や牛の病気の指数化(血液中の成分分析による健康診断分析)など、飼育に関して細かく具体的に数値化され、誰が着手しても一定のレベルを保てるようにしています。
「もちろん表情や行動によって牛の状態を把握できる職人技を否定するわけではありません。でも、従業員全員が鋭い感性をもてるか、マンツーマンで技術を教え込む時間があるかといえば、メガファームにとっては難しい。感性に頼らずとも、数値化されたマニュアルによって誰もが同水準の仕事ができることを重視しています」と、純さん。
マニュアルには、餌の配合や牛舎の管理、搾乳、分娩、病気発症時の対応など、場面ごとに細かく解説がまとめられています。具体的には「分娩後のカルシウム補液について/3産目以上は朝のみ与える、6産目以上の全ての牛と、乾乳期間が100日以上・餌食いの悪い牛と、前期分娩・乾乳期間150日以上の全ての牛は朝と夜に与える。全て3日間行い、4日目以降は餌食いを見て決める」という具合です。
このマニュアルは随時更新を続けるため、印刷はせず、確認をする時はスマホの画面上で行うように取り決めています。年に1度は、マニュアル改善のために従業員全員で作業を加えるべき点や、無駄な作業を省くべき点などの洗い出しをし、さらなる効率化を目指しています。
徹底したデータ分析により、進化し続けるマニュアル
このマニュアルが進化し続けられる背景には、純さんの徹底したデータ研究の裏付けがあります。
例えば病気にかかった牛への実験的な薬剤投与後、血液検査を続けて血液中成分の数値の推移をグラフ化、分析して研究結果を示し、解決のための結論を導くなど、ひとつひとつの効率化を図ってきました。
時にはこんな実験も。
――より清潔な環境を目指そうと、牛舎内に散布するオガコの量を二倍に増やしたところ、かえって乳房の炎症が増えてしまいました。
これは、元々オガコにはある程度菌がいて、一定以上多くオガコを散布するとむしろ環境が悪化してしまうためです。このように、改善に向けた実験には失敗もあるとか。
「でも、実験精神を持つことは、経験値を積み上げることにつながるので、必要なことだと思います。
今は牛が餌を食べたり、水を飲んだりする時間をモニタリングし、データ化を進めているところです。飲食する時間の変化を分析することで、体調の変化がつかめるかもしれない。あらゆる角度からデータを集積することで、新たに牛の生態が見えてくる可能性があります。酪農業はまだ効率化できる伸びしろがあると感じているので、今後もトライ&エラーにチャレンジしたいですね」と純さん。
データを駆使して牛の生態を把握し、酪農業のさらなる効率化に挑む
データ分析はある意味、動物との対話だといいます。牛は話せないので「おなかが痛い」と思っていても伝えられないけれど、データ化によって数値から「おなかが痛い状態」と捉えられれば、コミュニケーションが成立するというわけです。
大規模経営ではマンツーマンの感性での管理が難しくなりますが、それを補うのが「インターネット・オブ・シングス」によるデータ分析であり、その研究結果が効率化を進めるマニュアルへと反映され、メガファームを運営する軸となっています。純さんが構築してきたIT管理による酪農業の最先端技術は、3,000頭飼育というギガファームに向けた布石となり、今後もさらなる進化を目指します。
※衣装提供/モンベル
高機能・高性能なアウトドアウエアとして、酪農家の愛用者も多い、人気のブランドです。
(有)朝霧メイプルファーム
http://www.maplefarm.jp/index.php
- 営業時間:要問合せ
- TEL:0544-52-0549(本社)
- 定休日:要問合せ
- アクセス:静岡県富士宮市根原241‐5
酪農業(牛糞堆肥製造)
飼育頭数:成牛480頭