崖っぷちからわが国屈指の大牧場へ、酪農家の再起のドラマ。
この記事の登場人物
小椋 幸男農業生産法人 有限会社 ドリームヒル
広大な十勝平野の北部、上士幌町の丘一面に広がる『有限会社ドリームヒル』の牧草地。年間搾乳量はおよそ2万トンで、国内の酪農系の農業法人でも屈指の生産量を誇ります。経営規模を年々拡大する同牧場ですが、ここに至るまでには苦難の時代もあったとか。そのドラマを紐解きます。
もくじ
大雪に倒壊する牛舎を目の当たりにして
同社の代表を務めるのは小椋幸男さん。ダンディな出で立ちが緑の風そよぐ草原に見事にマッチします。
小椋さんを筆頭に近隣の個人酪農家4戸が経営統合し、法人を設立したのは平成15年のこと。そのきっかけとなったのは前年の1月、地域一帯に甚大な被害をもたらした大雪でした。
「もとは自分も個人経営の酪農家。祖父から受け継いだ三代目として、粛々と仕事に勤しんでいたんです。そんな折にやってきたのが、平成14年の記録的な豪雪。このあたりの酪農家の牛舎や堆肥舎は、ほとんど倒壊してしまいました」
雪に埋もれる施設を目の当たりにし、途方に暮れる酪農家たち。牧場を再建するには一体どのくらいの費用がかかるのか。「いっそ廃業」という思いも頭をかすめましたが、自分の代で家業を途絶えさせたくはない。それぞれが大きなジレンマを抱える中で発案されたのが、酪農家の経営統合というアイデア。
「この考えに手を挙げた4戸は、古くから酪農を営んできた近隣の仲間同士。同級生もいました。個々での再建は難しくても、法人としてなら再起を図れるのではないかと。…というより、それ以外に道はなかったですからね。まさに背水の陣でした(笑)」
折しも農協などが「法人化の支援」という施策に力を注ぎはじめた時期。経営統合の準備は小椋さんらの予想を超えるスピードで進行し、大雪からちょうど一年が過ぎた平成15年1月、ドリームヒルは無事法人登記を迎えたのです。
業界の先陣を切って取り組んだ酪農イノベーション
きっかけこそ自然災害でしたが、結果的に法人化という選択はさまざまなメリットを生んだと小椋さんは分析します。
「まずは施設整備にかかるコスト。個々の牧場で投資を分散させるより一カ所に集中させた方が圧倒的に効率がいい。また施設計画にもイチから取り組めたことで、環境にやさしい施設を整備できたし、最新鋭の施設や技術を導入することもできました」
酪農業界の先陣を切って行われた酪農イノベーション。統合により経営面積や飼育頭数、さらに出荷乳量も大幅に増加しました。
「牧草地や畑が拡大することで大部分の飼料を自社内でまかなうことができるようになり、その結果、乳質もグンと良くなりました」
加えて周辺の離農跡地・遊休農地などの再利用や地元の若者を雇用するなど、故郷の上士幌への貢献も大きなメリットと言えそうです。
今や全国5本の指に入る生産法人に成長
乳牛飼育頭数300頭でスタートしたドリームヒル。初年度の年間出荷乳量は3900トンでしたが、翌年(平成16年)には7500トンを超え、わずか2年で北海道ナンバーワンの座を獲得します。平成19年には1万トンを突破。その後も技術革新などに積極的に取り組み、平成27年には年間の搾乳量2万トンを実現します。これは北海道ではNO.1、国内法人牧場でも五本の指に入る乳量だとか。
「大型ロータリーパーラー導入のほか、牛舎とパーラーを最短でつなぐ通路の整備、治療用牛舎の設置、24時間シフトの勤務体制など、酪農経営の先進化と効率化に総合的に取り組んだためでしょうね」
平成28年現在、搾乳可能頭数は1760頭で、一日の間で搾乳が行われない時間はわずか6時間ほど。この細密な酪農システムが一日あたり52トンもの搾乳を可能としているわけです。
経営面積も750haへと当初の約5倍にまで拡大。これにより全飼料の6割以上を自社牧場内で生産することが可能になりました。
「飼料作りもふん尿還元の循環型がベースなので、時代にマッチした安心安全な飼料になっています」
利益追求だけに偏らず、自然と人にやさしい近代酪農を一つひとつ具現化し、今日に至ったドリームヒル。今のお気持ちは?という質問に、小椋代表は笑ってこう答えます。
「一時は廃業まで覚悟した酪農家たちが、今こうして未来を見ながら仕事に打ち込んでる。それが一番うれしいし、もっと頑張らなきゃという意欲にもつながっていますね」
農業生産法人 有限会社 ドリームヒル
- 営業時間:要問合せ
- TEL:01564-9-2055
- 定休日:要問合せ
- アクセス:〒080-1406 北海道河東郡上士幌町字居辺東7線277番地