全国から畜産を学ぶ高校生が集結!「全国和牛ハイスクールサミットinこばやし」レポート。
これからの畜産業を担う農業高校生たちが絆を深め、共に学ぶことを目的とした「全国和牛ハイスクールサミット in こばやし」が10月2日~10月4日までの3日間に渡って開催されました。
全国の農業高校生たちが集まるのは今回が初の試みとのこと。全国学科別生徒数割合を見ると、農業高校で学ぶ生徒は全体のわずか2.5%。同じ志を持った仲間との貴重な交流の場となりました。
もくじ
3日間のプログラムでは…
名刺やSNSを交換して繋がったり、
3年に一度開催される宮崎県畜産共進会の見学で現場の熱気を感じたり、
シンポジウムや講演を通して、学びを深めたり、
座学に現場学習、そして交流と濃厚なプログラムが行われました。今回の記事ではその様子をレポートしていきます!
■サミットの立役者! 実行委員会は地元宮崎の高校生。
サミット初日の10月2日。オープニングは宮崎県小林市の文化会館で行われました
▲当日受付を担当しているのは、地元・小林秀峰高校の生徒たち。
今回のサミット、実行委員会が設けられたのは宮崎県立小林秀峰高等学校です。生徒たちが中心となって、ポスターやWeb、ロゴの製作、バスの手配、当日進行など、運営全体をホスト校として取り仕切りました。
▲このロゴも、地元のデザイナーさんと高校生で打ち合わせをして制作したもの。
実行委員会委員長の森岡さんに話を聞いてみると、「このようなサミットは前例がなかったので一から準備をするのが大変でしたが、先生や市の職員の方々を始めとしてとても多くの人が助けてくださいました。自分たちだけではできなかったです」とのこと。
全国16府31校から約340名の参加者が訪れたサミット。名簿作成や部屋割り、バスの手配などだけでもかなり根気のいる作業だったそうです。
今回のサミット開催のきっかけは、2017年に宮城県で開催された全国和牛能力共進会(全共)にさかのぼります。ここで宮崎県の小林秀峰高校の生徒たちが育てた「れな」が出品され優秀な成績を残しました。しかし、全共は5年ごとの開催のため、高校在籍年によっては出品する機会が持てない生徒も出てきます。
▲ロビーには「れな」の模型が。
そこで、全共以外に若い世代が活躍し交流できる場を作るために県や小林市、JAなどで実行委員会を組織して今回のサミットを企画し、小林秀峰高校はホスト校として参加。2022年に鹿児島で開催される全共までの3年間は毎年開催する予定です。
牛の育て方や肉種改良の方法は、地域によって大きな違いがあります。だからこそ、交流し、共に学ぶことは、これからの畜産業を考える上で大切な機会です。
▲用意された“ウェルカムミート”を食べる参加者たち。お肉はもちろん宮崎牛。
▲方言で地域をPRする「西諸弁ポスター」に興味深々の高校生も。
■口蹄疫から前に進んできた宮崎
オープニングイベントでは、宮崎県農林水産部畜産振興課⻑の⾕之⽊精悟氏が「宮崎県の取り組み紹介」と題し、口蹄疫からの再生・復興や和牛能力共進会への歩みなどについて講演。
これからの肉牛経営における「オリジナリティを発揮すること・情報を選ぶこと・夢を語ること」の大切さを訴えました。
夕方からの交流会は、実行委員会の森岡さんをはじめ小林秀峰高校の生徒たちが中心となって運営。
「初対面の人同士が話せるように」「多くの人と交流できるように」という配慮を随所に感じる交流会。だんだん初対面の緊張もほぐれてきて、あちこちで笑い声が響いていました。
■祭りのような熱気に包まれた共進会を見学
サミット2日目は、小林地域家畜市場で開催された宮崎県畜産共進会の見学からスタートです。宮崎県畜産共進会は2年に一度行われますが、2017年には全国和牛能力共進会があったため肉用種は実に4年ぶりの開催です。
▲肉用種71頭、乳用種60頭の計131頭が出場。
控えの牛舎では、出品ぎりぎり前まで牛の手入れに余念がありません。ブラッシングしたり、毛をカットしたり、足のツメを磨いたり。
まるで祭りの中に飛び込んだような臨場感です。高校生たちも熱心に写真を撮ったり、牛舎を見て回ったり。
出品された牛を見て、「牛の体格が違います。農業高校も頑張らないと、と思いました。たくさんの牛や人と触れ合い視野を広げていきたいです」とやる気を刺激されて意気込む生徒たちも!
サミットの参加者は必ずしも畜産科ばかりではなく、普段牛をそれほど見ていない食品科などの生徒も多くいましたが、「見ているだけで楽しい」と会場の熱気を肌で感じているようです。
▲青いベストが小林秀峰高校の生徒。全国から集まった高校生を案内します。
■畜産の夢と使命とはシンポジウム
午後は会場を移してシンポジウムを開催。
まずは、NHKの番組『プロフェッショナル仕事の流儀』で“和牛の神様”として紹介された肉牛農家鎌田秀利さんの基調講演。
「一生懸命向き合うと牛は答えを返してくれる」と話す鎌田さん。牛を育てることだけでなく、独立への試行錯誤や経営的な考え、地域の関わりなどについて広い視野で話してくださいました。
鎌田さん自身が悩み、葛藤し、頑張ってきた実体験に根差した話に、聞いている高校生たちも引き込まれているようでした。
続いてパネルディスカッションへ。
コーディネーターは一般財団法人畜産環境整備機構副理事長の原田英雄さん。パネリストは基調講演からそのまま鎌田秀利さん、田中畜産の田中一馬さん、JA宮崎経済連の押川雄三さん、こばやし農業協同組合の米倉桃子さん、小林秀峰高校の蕨内勇人さん5人です。
畜産農家、農家をサポートするJAや農協、畜産を学ぶ高校生と、5名それぞれ立場は違えども「牛」を中心に繋がっているため、一つのテーマについてもさまざまな考えに気づくことのできるパネルディスカッションでした。
さらに、高校生から寄せられた様々な質問にパネリストが回答。パネルディスションの様子は後日レポートします。
最前列で熱心に話を聞いていた熊本県立農業高校畜産科1年生の原田さんに話を聞いてみました。
「実家が肉牛の繁殖・肥育農家で、子どものころから牛に親しんで育ちました。将来は家業を継ぐ予定です。直営の精肉店をやりたいので、農大で勉強して、卒業後は精肉店で修行してから実家に帰る予定です」
自分の進路を明確に話す原田さん。視野を広げるためにも、いろんな地域から人が集まる東京へ進学したいと考えているそうです。
最後に「共同宣言」を行い、2日目のシンポジウムを終了しました。
現在、少子高齢化や後継者問題など全国的に畜産業の担い手不足が懸念されています。しかし、共進会で熱心に牛の様子を観察し、講演に聞き入り、楽しそうに交流する高校生たちの様子は活気にあふれたものでした。サミット終了後にはSNSでグループを作るなど、今の時代らしい新たな繋がりが生まれていました。
そして、講演やパネルディスカッションでどの方も共通して強調されていたのが「人の縁の大切さ」なのが印象的でした。日々一生懸命に取り組んでいるからこそ人の縁がさらなる可能性を広げてくれるのでしょう。
2022年に鹿児島で開催される全共までの期間、あと2回のサミットを予定しています。こうして定期開催されることで、さらなる人の縁と可能性が広がっていくのかもしれません。来年の開催が楽しみです!
最後に、記事に入りきらなかった写真を紹介して終わりにしたいと思います。
一部画像提供:小林市役所