畜産を学ぶ

那須の畜産農家に生まれ、未来に向けて今何ができるのかを模索する次世代たち

高校 関東
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高校1年生から3年間、農高アカデミーに参加してくれた栃木県立那須拓陽高等学校の木村日音(かなり)さんと後藤徹平さん。二人は栃木県の那須エリアの農家に生まれ育ちこの春、高校を卒業して大学へ進学します。農家の子どもとして生まれた彼らは何を思うのか。そんなお二人が今見据えている未来をご紹介します。

まず1人目は、木村日音さん。

那須エリアで120頭ほどの乳牛を飼養する酪農一家の3姉妹の末っ子として育ちました。小さい頃から牛舎で遊び、一番身近な友だちは牛。日々の搾乳作業や出産を手伝いながら早朝から夜遅くまで働く父と母の背中を見てきました。

「那須拓陽は後継者も多く通う高校ですが、牛が好きな気持ちは学校の誰にも負けない自信がありました」という日音さん、高校時代は進路についてたくさん悩んできました。

大好きな酪農家のお父さんと

高校入学当初、実家の酪農を「継ぐか継がないか」という二択だった選択肢は、心の中で揺れ動いていました。「父にはずっと“継がなくていい”と言われてきたんです。今の酪農業界は本当に大変だし、私は体が強いわけではなかったので。ただ、当時は姉も『継がない』と言っていたので、そうなればうちのこの可愛い牛たちはどうなっちゃうんだろう、と思って…」

『継ぐ』という決断はできない。では大好きな牛とはかけ離れた仕事に就くことになるのか? 二択しかなかった選択肢は、高校3年間で少しずつ変化を生みます。農高アカデミーもそのきっかけの一つ。ゲストの話や参加する学生メンバーと話すうちに、大好きな牛に携わっていく仕事の可能性は他にもあるのかもしれない、と考えるようになりました。

木村家の牧場にはジャージー牛もたくさん

「高校1年生で参加した農高アカデミーは、最初は緊張してドキドキしていましたが、先輩たちが自分の意見を自由に話し、リラックスしてどんなことも話せる空気を作ってくれていたのが嬉しくて。全国から集まる農高アカデミーのメンバーと話していると、みんな牛や豚、それぞれの動物や畜産に熱い思いを持っていて、いつも刺激をもらってきました。学校の友だちとはまた違う感覚で、きっとこれからずっと一生つながっていく仲間なんだと感じています。仲間だし戦友。“牛のオタク”という域を超えて、もう牛なんじゃないかってレベルでみんな牛が好きですもんね(笑)。自分の将来を考える上でも、本当に心強い存在です」

「私は生まれた時から周りの酪農家のみんながお父さん、お母さん、という感じで、みんなに育ててもらいました。父も人とのつながりをとても大切にしていて、那須という地域には、農業って一人ではできないから“みんなで生きよう”という目に見えない団結力があって。そんな、忙しいけど互いに助け合う酪農家の皆さんを本当にカッコいいと思って憧れてきました」

だからこそ、悩み続けた将来の選択。

春からは東京農業大学のデザイン農学科へ進学します。

「高校の先生からもこの大学の話を聞き、どっこいしょニッポンの記事でも読んで、面白い大学だなって。農業を新しい視点から考えていくというのは、もしかしたら私が見つけたい仕事にもつながるかもしれないと思いました。農高アカデミーの先輩も通っていたので話を聞いたり、自分でオープンキャンパスにも参加してみて、進学を決めました」

後継者であるお姉さんと

「今はまだ職業として具体的にはわからないけど、大好きで尊敬する生産者さんと消費者、人と人をつなげる仕事がしたいと思っています。今は、後継者である姉と一緒にいつか地域の子供たちに食農教育ができたらいいなとも思っています」

2人目は、後藤徹平さん。

同じく那須エリアで、約750頭の「後藤牛」を生産・販売する肥育農家に育ち、物心がついた頃には、畜産に携わっていくことを決めていたと言います。高校では生徒会長を務め、仲間と共に畜産を学びながら、さまざまな学内外の活動にも積極的に参加してきました。

「でも実を言うと、中学まではろくに勉強もせず、何もしないまま口だけで夢を語っているような人間でした。高校生になって生徒会に入ってみたものの、余裕だろうと思っていたことがことごとく何もできず、自分の実力のなさを痛感しました。一人よがりで周りとの関係も悪くなるし、ショックでどん底に落ちました。

実家の後藤ファーム

そんな頃、家で父に夢を語って、『世の中そんなに甘くない。お前みたいなやつに農業なんてできない』とガツンと言われました。味方であるはずの親に夢をぶち壊されて、部屋に帰って泣きながら、高校生なんだから夢ぐらい語ったっていいじゃないかと思う一方で、これまでいかに自分が周りに支えられてきて、一人では何もできない人間なのかを思い知りました」

「4月からは明治大学の農学部へ進みますが、大学へ行くことも、なぜこの大学に行きたいのか、ここで何を学びたいのか、いまだ父納得してもらえたわけではありません」

お父さんは後藤ファームの社長

「僕にとって一番の壁は父です。高校の3年間も父の仕事の合間を見て自分の夢を話しては跳ね返され、また話しては跳ね返されを何度も繰り返しました。最初は何を言われているのかわからなかったのですが、今は、世の中は自分の力で強く生き抜いていく必要があるんだということを身をもって教えられているのかなと思っています」

「農業のイメージを変えてやる!」と必死にもがいていた高校2年生の頃。地元の下野新聞にも取り上げられた

「それでも夢を語らせてもらえるなら、僕は将来的に、食糧危機など世界で困っている人たちに日本の農産物で笑顔を届けられるような事業がしたいと思っています。日本の農業で世界を明るくしたい。農業って、本来そんな夢がある仕事だと思っているから。

世界をリアルに感じてみたくて、高校生の間にシンガポールやフランス、ドイツなど海外にも行きました。周りからは「後藤ファームの3代目になるのであれば、なぜ海外に行く必要がある? 英会話を勉強する意味はあるのか?」と言われてきました」

2023年3月に4人のゲストを迎え、リアル開催を実現した農高アカデミー

「自分でも明確な理由はわからなかったのですが、農高アカデミーのリアル開催のイベントで、ゲストの方々の「この先畜産を続けていくためには、畜産業以外のことをどれだけできるかが大切」という話を聞いた時に、衝撃を受けました。その言葉は、それ以来とても大切な軸にしています。

これから僕たちの世代は、一つのことだけを見ていたのではいけない。農業は農業だけで勝負してはいけないんだと思いました。多方面から見ることで、生き延びる道が見えてくるのではないかと思っています。

学校の先生からの案内で参加した農高アカデミーは、参加してみると想像していたイメージとはまったく違って、本当に楽しくていつの間にか毎回参加していました。ネットだけを見ていると畜産の世界に味方っていないんだなと感じてきたけど、ここには農業に誰にも負けない愛と情熱をもった人たちが集まっていました。非農家で育って畜産に携わりたいという思いを持つ同世代の存在も刺激になり、日本には一緒に戦う仲間がいるんだ、俺もいくぞ! というモチベーションになっています」

「きれいごとかもしれないけど、このきれいごとを僕は信じ抜いて実現させたい。那須という恵まれた環境で育ち、周りに助けられて生きてきました。与えられたものは自分も返したい、それは家族に、世界に返したいと思っています。まずは父の言う『世の中の厳しさ』を身をもって感じたいです」

朝霧メイプルファームの丸山さんと永井 真生さんと

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