牛を尊敬する気持ちが原動力。酪農家さんのことをもっと知ってもらいたい
この記事の登場人物
橋本 夕奈ゼノアック[日本全薬工業]
畜産にまつわる仕事は生産者だけではありません。今回は動物の医薬品メーカーの立場から畜産に生きる人をご紹介します。
日本全薬工業株式会社(以下ゼノアック)の北海道十勝オホーツク事業所で営業を務める、入社2年目の橋本夕奈さん。
// プロフィール
橋本 夕奈 ゼノアック[日本全薬工業]
ゼノアック LA事業部 十勝オホーツク事業所 LA営業部 営業 入社2年目。 高知県出身。北海道酪農学園大学卒業。
もくじ
医薬品メーカーとして畜産に携わる営業職
動物の医薬品メーカー・ゼノアックで営業として働き、入社2年目の橋本さん。日頃は十勝エリアを中心として140軒ほどの農家さんを担当し、毎日7〜10軒ほどの農家さんを回り、農家さんの状況をヒアリングしたり情報交換を行ったり、減っている薬などがあれば補填する営業職を行っています。
社内でもかなりの「牛好き」という噂を聞き、橋本さんのお仕事現場に同行させていただきました。本日の訪問先は、中川郡幕別町の妹尾(せお)牧場さん。家族経営で搾乳牛約90〜100頭を飼養し、女性酪農家として家業を引き継ぐ妹尾優希さんは、入社当初から橋本さんに気軽に声をかけ、色々なことを教えてもらったといいます。
修学旅行で訪れた牛乳の工場見学で牛に目覚める
高知県に生まれ育った橋本さんは、高校生までは薬剤師を目指して塾に通い、部活もしていなかったといいます。畜産の道に足を踏み入れることになったきっかけは、高校2年の修学旅行で訪れた関東の雪印メグミルクの牛乳工場。
牛乳は小さい頃から大好き。だけど、工場の職員から「牛ってどうやって牛乳を作るか知ってますか?」と問われ、即答できませんでした。「なんとなく」出るのかと思っていたら、「赤ちゃんができないと出ないんですよ」と言われ、“出産って命懸けなんじゃないの!?”ととても驚いたそうです。
「調べるとだいたい1年に1産と人間とほとんど変わらないこともわかって。当たり前のように牛乳を飲んできたけど、牛はそんなに命を懸けて牛乳を生み出してくれていたのかと思うと、ただ好きだった牛乳への想いが大きく変わりました。私の場合は、牛が可愛いという次元を遥かに超えて、一気に「牛=リスペクト」に変わりました」と橋本さん。
薬剤師志望から転向。酪農家を目指し始めた
それからは「酪農家になりたい」と思うようになり、大学の志望校を変え、北海道酪農学園大学へ進学。大学では乳牛研究会と放牧ネットワークというサークルで活動しながら、酪農を学びました。この進路変更には家族はもちろん、学校の友だちや先生方全員が驚きを隠せなかったそうです。
しかも北海道は酪農学園大学のオープンキャンパスで一度だけ訪れただけ。友だちも誰もいない、知り合いゼロ状態で飛び込んだ大学生活でしたが、その内容は想像以上に充実し、4年間の大学生活の中で牛仲間とも言えるたくさんのつながりもできました。「酪農学園大学での生活は自由な雰囲気で個性的な子が集まっていて、本当に楽しかったです」
その後就職は飼料メーカー、機械メーカーなどさまざまなメーカーの面接を受ける中で、「一番面白そう」だと感じたゼノアックを選びました。「当時面接はコロナ禍だったためすべてオンラインだったのですが、面接官の方や役員さんの人柄がとても良かったのが印象的でした」
「実は当時私は酪農家になりたかったので、「会社にはずっと長くはいません」と面接でお話したんです。嘘をつくのが嫌な性格なので、面接は自分自身で勝負したいと思って正直に伝えたら、役員の方の中にも酪農家ご出身の方がいらっしゃって、「実は僕も酪農家なんだ」とご自身のお話もしてくださいました」
医薬品メーカーの立場だからこそ見えること、自分の役目を果たしたい
「今入社して2年目になりますが、仕事を通して酪農家さんたちと関わる中で、新しく見えてきたこともありました。大学で酪農のことは勉強しましたが、酪農家さんのことはわかっていなかったんだなと思うこともたくさんあります。会社員とは違って仕事に時間は関係ないし、なかなか遊びに行くこともできない。本当に大変な思いの中で仕事をされていて、正直私にはできないかもしれないと思いました」
「もし何も知らないまま酪農家の道に進んでいたら、私の場合はその大変さにぶつかって、やめて完全にこの世界から離れてしまっていたかもしれません。だけど医薬品メーカーという少し離れた視点から携わることができて、病気や牛の行動について、自分の知識が役に立って喜んでもらえると、「もっと勉強しよう」とも思います。
畜産に携わる道はたくさんあります。さまざまな仕事から牛や動物に携わるお仕事があるということも皆さんに知ってもらえたら嬉しいです」
「好き」は宝物。大切にしていれば、きっと自分を支えてくれる
農家さん1軒1軒、ルールが違い、覚えたことが通用しないことも多々あります。心が折れることもしばしば。「だからこそ、“好き”という気持ちを大切にしてほしい」と橋本さん。
「知識や経験も大切ですが、“好き”という気持ちは、結局最後に残る部分だと思うんです。私ももしこれが酪農業界でなければきっと諦めていたと思います。「好き」は宝物。それくらい「牛が好き」という気持ちが自分を頑張らせてくれるし、支えになってくれています」
「今は現場で一人前に仕事ができるように成長したいですし、酪農家さんのことをもっと広く知ってもらいたいと思うようになりました。まだ今の夢ははっきりとしていませんが、「牛が好き」という気持ちには誇りを持って進んでいきたいと思っています」
※ゼノアック(日本全薬工業株式会社)