競り人の経験を活かし三重加藤牧場に新たな息吹をもたらす若き挑戦者
この記事の登場人物
加藤 勝平三重加藤牧場
親しみやすい笑顔で周囲の空気を明るくする三重加藤牧場の三男、加藤勝平さん。
東京食肉市場での経験で得た目利きの技術や人脈を活かし、家業に新たな価値を付加するべく日々奮闘しています。
// プロフィール
加藤 勝平 三重加藤牧場
三重加藤牧場の代表取締役、加藤勝也さんの三男として1995年に三重県四日市市で生まれる。地元の高校を卒業後、東京の大学に進学。その後、東京食肉市場で6年間働き、その中で競り人の経験も積む。その後、帰省して現在は三重加藤牧場で畜産業に従事している。
もくじ
野球に情熱を注いだ学生時代。「とにかく夢中だった」
三重県四日市市で祖父の代から続く三重加藤牧場で、四兄弟の末っ子として生まれた勝平さん。幼少期は歳の離れた長男の勝三さん・次男の文太さんとともに、父の勝也さんがコーチを務める野球クラブで野球に没頭しながら、牧場の仕事を手伝う生活を送っていました。勝平さんは地元の高校を卒業後、東京の大学へ。当時の思いを次のように語ります。
勝平さん「とにかく野球に夢中で、大学でも続けたいと強豪校に進みました。そのときは特に家業を継ごうというはっきりとした気持ちはなく、大好きな野球で高みを目指したいという一心でした」
上京してこれまでと違う環境で、新しい仲間と大学生活を謳歌した勝平さん。野球部を引退後は新しい進路を模索することになります。そこで選んだのが「実家に戻って農業を継ぐ」という選択です。勝平さんが勝也さんに相談すると「まずは東京で別の経験を積んできなさい」と言われ、東京食肉市場に入社して社会人生活をスタートしました。
東京食肉市場で競り人を経験。培った目利きの技術と人脈が財産に
勝平さんは東京食肉市場に入社後、競り人として勤めました。競り人の主な仕事は、東京食肉市場で屠畜された牛の枝肉の状態を一つひとつ確認し、競りを開始する台付(初期金額)を決めること。勝平さんは見習いからスタートした後、競り人の資格を取得し、現場で活躍しました。
勝平さん「1人で1日に約100頭の枝肉を査定し、競りにかける仕事でした。サシの状態やロース芯の面積、赤身の色、瑕疵の有無など、さまざまなポイントをチェックして肉質を瞬時に見極める技術と、適切な価格で台付をする判断力が必要で、目利きのスキルを磨くことができました。また、生産者の方や買参人さんとの繋がりもでき、市場で培った人脈も大きな財産となりました」
牧場に戻り兄2人の背中を追いかけながら「自分にしかできない役目がある」
勝平さんは東京食肉市場で6年間経験を積んだ後、2024年に帰省して現在は三重加藤牧場で主に繁殖牛の飼育に携わっています。
また、地域の農家と連携して循環型農業に取り組んでいる三重加藤牧場では、牧場で出た堆肥と、田畑で収穫後に残る稲わら・麦わらを交換する作業も重要な仕事。勝平さんも大型特殊自動車免許を取得し、堆肥専用運搬車両やホイールローダーといった特殊車両の運転を行っています。
勝平さん「まだ特殊車両の操作には慣れず、慎重に運転しています。父や兄たちのように自在に操れるようになったらかっこいいですね」
市場とは異なる現場の仕事に苦戦することもある勝平さんですが、その一方で勝平さんにしかできないミッションも担っているようです。
勝平さん「牛の出荷で今でも頻繁に東京食肉市場に足を運んでいます。枝肉の格付け結果と一緒に自分の見立ても牧場にフィードバックできるので、兄たちはそれを元に飼養管理の調整ができるようになったと喜んでくれているようです。
また、買参人さんも僕のことを覚えてくださっていて、牧場のことを気にかけてくれているのも嬉しいですね。また、繋がりのできた生産者さんの牧場を視察させてもらうこともあり、市場での経験は牧場に戻った今でもいろいろな意味で活かされていると感じます」
兄2人が地元の農家と深く関わりながら地域の問題と向き合う傍ら、持ち前のコミュニケーション力を武器に、市場を通して全国の買参人や生産者と繋がり、牧場に新たな風を取り入れるのが勝平さんの役割。勝平さんは兄の勝三さんと文太さんをどう見ているのでしょうか。
勝平さん「兄2人は年子で、次男の文太と僕が8歳も離れているので、子どものときは一緒に遊ぶ感じではなく、自分が中学生になる前には2人とも進学で家を出ていきました。そして、僕が大学に進むタイミングで兄2人が牧場に戻ってきたので、一緒に過ごした記憶はあまりありません。
そういう意味では、ようやく今になって牧場の仕事を通して兄弟と家族の関係を築いているような感覚です。2人とも僕のことをとても気にかけてくれて嬉しいですね。自分たちの利益だけを考えるのではなく、地域の農業全体を盛り上げようとしている視座の高さも尊敬できます」
あっという間に過ぎていく日々。畜産の仕事は“とにかく濃い”
勝平さんは今、畜産に関わることをどう捉えているのでしょうか。「仕事は楽しいですか?」と聞いてみたところ、少し間を置いてこんな答えが返ってきました。
勝平さん「楽しいというよりも、“濃い”という感覚です。きっと兄2人に同じことを聞いたら迷わずに『楽しい!やりがいがあります!』と答えるんじゃないですか?僕は牧場に戻ってきたばかりで覚えなければならないことがたくさんあり、まだ楽しむレベルには至っていません。しかし、生き物を扱う畜産の現場では毎日ドラマがあり、自分事として学ぶことや得ることがたくさんあります。だから朝から夕方まで、一日の仕事が終わるのが本当に早くて…充実した日々を送っています!」
最後に、勝平さんに今後の夢をお聞きしました。
勝平さん「三重加藤牧場の和牛をより多くの人に知ってもらい、食べた人に笑顔になってもらうことです。これまでの経験を活かして多くの方々と関わりながら、兄たちが父から受け継いだ和牛の味をたくさんの人に伝えていくことが自分の使命だと思っています」