畜産を学ぶ

和牛の未来を作る“高校牛児”たちの熱き甲子園

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「第3回和牛甲子園」が1月16日(木)・17日(金)東京・品川で開催され、和牛を肥育する全国の農業高校30校が参加した。日頃の取り組みと自らの手で育てた和牛の肉質を競った熱き2日間をレポートします。

JA全農が主催する本イベントは、
和牛肥育に携わる高校生たちを、
“高校牛児”と呼ぶ。

開催は今年で3年目。「和牛甲子園」への参加校は年々増えている。

参加する高校生たちは、この「和牛甲子園」のために2年以上前から肥育を始め、朝夕丁寧に管理し、育ててきた。そして甲子園開催の数日前、仕上げられた牛たちは一足先にトラックで出荷され、品川駅側にある東京都中央卸売市場へと送られてきていた。

イベント開催は2日間。
1日目は参加各校が1年間の取り組みについて発表し、2日目は中央卸売市場で「枝肉共励会」が行われ、取組評価と枝肉評価の両観点から審査される。

和牛甲子園【1日目】
1年間の取り組みを発表

主催者・各来賓、審査員からの挨拶に続き、
出場校を代表して鹿児島県立鹿屋(かのや)農業高等学校が宣誓を行った。

“この3年間、大切に育てた牛から、喜びや優しさ、たくましさ、たくさんのことを学びました。生きるということは、命をいただくことで生かされているということをしっかりと受け止め、仲間を信じて最後まで諦めずに和牛に取り組んできた成果として、日本中に「この牛肉、美味しい!」という笑顔の花を咲かせたいと思います。そして、本大会を通して、全国の高校牛児が心をつなぎ、和牛の未来を作っていくことを、ここに誓います”

力強い宣誓に続きトップバッターで活動発表を行う鹿屋高校は、校内で76頭の和牛を飼育し、1年次には寮生活を経験しながら3年間牛と共に生活を送る。

「高校生活100%が牛と共にありました」

その言葉どおりだ。

これまでの和牛甲子園では、第1回和牛甲子園で肉質部門の最優秀賞、第2回では枝肉評価部門・取組評価部門で優良賞を受賞するほどの実力を持ち、畜共進会や枝肉共励会にも参加しながら、すばらしい外貌と優れた肉質を併せ持つ牛の生産を目指している。

地元の鹿児島大学に依頼して定期的に採血を行い、ビタミンAコントロール、肉質診断(超音波診断)、独自の飼料による徹底した飼養管理、また、第1回和牛甲子園で最優秀賞を受賞した大地号から採取した受精卵で繁殖も行っている。

活動はそれだけではない。本年度は輸出も視野に入れ、南九州黒牛枝肉共励会に県内の農業高校として初出品された牛は、タイへの輸出が決定した。当校初の海外輸出の実現だ。今年行われるドバイ万博へ出品される和牛リストに鹿屋育ちの牛が入ることを夢見て海外輸出についての勉強会にも参加している。

この後も30校の発表は、圧倒的な熱量で続いていく。

▲今年3度目の参加、寸劇も交えた楽しい発表を見せた鹿児島県立鶴翔高等学校

▲和牛4品種の飼養管理に挑んだ神奈川県立中央農業高等学校は、今年初参加

▲すべて暗唱して発表に挑む、島根県立出雲農林高等学校。こちらも3年目。

▲岐阜県立飛騨高山高等学校の発表用原稿。マーカーが引かれ、時間をかけて練習してきた様子が伺える。

▲発表後は、審査員から突っ込んだ質問が飛ぶ。

群馬県立刀根実業高等学校の発表では、上州牛の産地でありながらも牛肉の消費は全国でも最下位に近く、“ご馳走”の1位には「マグロの刺身」が上がるという群馬の県民性から、自分たちの行うべき使命を考察している部分が興味を引いた。

広島県西条高等学校も、広島牛では儲からないため扱う農家が減り、ブランド力も低下するという悪循環から広島牛を守るため、地域に肉質の良さのアピールし、知名度を上げる方法などを考え、

福島県立会津農林高等学校は、震災以来続いている風評被害から守るため、今やどこよりも安心安全な福島牛をアピールし、福島の復興・発展に向けて動くなど、

 
様々な知識や技術を駆使した品質管理はもちろん、地元牛のブランド確立により地元を盛り上げる方法を考えた学生だからこそできる新しい取り組みにチャレンジしている活動が印象的だった。

和牛甲子園【2日目】
枝肉審査が行われ、いよいよ結果発表の瞬間

2日目は東京卸売市場で枝肉共励会が行われ、各校から出品された和牛の枝肉(えだにく)が審査された。

枝肉評価部門で最優秀賞を獲得したのは、岩手県立水沢農業高等学校。酒粕を与えた豚はオレイン酸の含有量が増して肉が美味しくなることから、地元の酒蔵から譲りうけた酒粕を牛に試した。また、昨年度、出荷時に外脂がつきすぎた経験と「牛の脂質は3ヶ月で変わる」という先生の指導のもと、和牛甲子園までのラスト4ヶ月間は餌の量を減らしつつ、酒粕を与えたという。

この酒粕給与が見事に功を奏して、

A5ランク、BMS12
ロース芯100㎠ バラ厚9.6cm
キロ単価4,001円(税抜)

の値がついた。

そして、見事 総合評価部門最優秀賞を飾ったのは、鹿児島県立市来(いちき)農芸高等学校だ。枝肉の評価はもちろん、心のこもった発表は会場中の心を動かした。発表の中心となった2年生の畜産部副部長・上田平夏美さんは、初日の夜の交流会で「入学した頃は畜産には“3K”(キツイ・汚い・危険)っていうマイナスのイメージしかなかったんですよ~」と明るく笑い、同級生で肥育農家に育った宮下未来さんは「そばで見ていてもみるみる変わっていくのがわかりました」と見守るような笑顔を見せた。今や皆が心を一つにして、牛一色の毎日だ。それほど人生を変えてしまうほどに、色濃い1年半だったのだろう。

枝肉評価部門の成績は以下の通り。


 枝肉評価部門_成績表

帰り、皆がそれぞれに別れを惜しみつつ岐路につく中、キャリーケースにもたれるように突っ伏している男の子がいた。選手宣誓をした鹿屋高校の3年生、田中拓実くんだった。「どうした? 疲れた?」そう話しかけたら、「やっぱり悔しいっすね」と笑った。

2年連続好成績を残してきたが、今年は受賞に至らなかった。

「でも仕方ない、後輩に託すしかないですね! ありがとうございました!」

高校牛児、泣きそうなくらい、爽やかだ。
また来年。みんなの意思を引き継いだ後輩たちが、きっとまた夢を見せてくれるはずだ。

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