第22回農高アカデミー「養豚で働くということ。」

この記事の登場人物
中島 汐里平野養豚
畜産を勉強中の全国の高校生、大学生たちがオンラインで集まり、学び合う「農高アカデミー」。第22回農高アカデミー(1月27日実施)は、千葉県木更津市にある平野養豚で従業員として働く中島汐里さんにお仕事のことや転職の話をお聞きするとともに、“自分に合った職場選び”について、みんなで考えました。
//ゲスト紹介

中島 汐里 平野養豚
1998年生まれ、神奈川県出身。東京動物専門学校を卒業後、2019年、株式会社マザー牧場入社。5年間、お客さんに向けたツアーガイドなどをしながら動物の飼育管理に携わる。2024年4月より、平野養豚(千葉県木更津市)に勤務。豚の飼育管理から販売に至るまで業務全般に携わっている。
もくじ
まずは中島汐里さんのプロフィールから
※農高アカデミー開催時の情報になります
中島 出身は神奈川県藤沢市、現在26歳。2024年4月から、千葉県木更津市にある平野養豚で働いています。高校は普通科の高校で、小学生の頃から動物が好きで将来は動物園の飼育員さんなど動物に関わる仕事がしたいと思っていて、千葉県にある東京動物専門学校に進学しました。卒業後は観光牧場に就職。そこでは5年間、お客さんに動物のことを伝えるツアーガイドをしながら動物の飼育管理をしていました。そこで飼っていた牧羊犬のフィルが引退して、今は一緒に暮らしています。私の相棒です。

観光牧場から平野養豚に転職したきっかけは?
中島 最初に勤めていた観光牧場では羊や黒毛和牛の肥育も行なっていて、もっと畜産のことを知ってお客さんに伝えられたらいいなと思ったことが転職のきっかけでした。転職先は地元の神奈川県で探していたのですが、自分のやりたいことと合う牧場がなかなか見つからなくて。それで、当時住んでいた千葉県で探して、平野養豚を見つけました。SNSを見てみると、養豚の現場のことを発信したり、地元の小学校の給食に豚肉を提供して、小学生たちに美味しいお肉が育てられた背景を伝えているのを見て、ここに飛び込んでみたいと思って応募しました。私が養豚の道を選択肢に入れたのは、専門学校からの友だちの“川島たん”の存在が大きいんです。川島たんは農業高校に通っていた頃から豚が好きで、専門学校でも、自分は将来養豚の道に進むと決めていました。私はそんな風に自分の将来を決めている川島たんがすごくカッコいいなと思っていました。
…今、養豚場で働くお友だちの川島たんも今日は参加してくださっています。川島たんが豚に惹かれたきっかけは何だったんですか?
川島 農業高校に入学して部活動を決める時に、酪農部に入る人がすごく多かったんです。これだとあまり楽しめないなと思って隣を見たら養豚部があって、見学に行くと先輩が優しくて。中でも3年生の課題研究で子豚から2頭の母豚を育てた時には、この2頭がとても懐いてくれて、本当に可愛くて。その時に、“もうこの世界から抜け出せないな”と思いました(笑)
平野養豚でのお仕事内容・1日のスケジュールは?
中島 平野養豚では、平野賢治さんと恵さん夫妻、おばあちゃん(賢治さんのお母さん)の家族と私の4人で休みを回しながら、およそ1400頭(そのうち母豚は125頭)を育てています。年間出荷頭数は約2500頭。豚舎は全部で6棟あり、3棟が肉豚舎、残りが妊娠舎・分娩舎・子豚舎となっています。平野養豚の加工品「木更津の恵みポーク」の直売を行ったり、イベントに出店したりもしているので、消費者の方の顔を見ることができるのも魅力です。
実際の私の1日のスケジュールは、通常の日は7時に出勤して、妊娠舎の餌やりと掃除。そして分娩舎、子豚舎の餌やりと掃除を全員で分担して一気に行います。その後、豚舎をすべて見回りながら、体調が悪い子はいないか、餌はちゃんと食べているかなどを確認して、種付けをします。この種付けは毎日行なっています。日によっては子豚や母豚のワクチンを打ちます。小休憩する朝の9時までには、こうした作業をすごいスピードで終わらせていきます。これがみんな本当に速いです(笑)。小休憩の時にお互いに「あの部屋のこの豚が、足が痛そうだった」などの情報共有をして、ひと息つけば、次は各自がそれぞれの作業に移っていきます。私は糞尿処理や肉豚舎の洗浄を行い、見回りで体調の悪い子がいたらその治療、そして去勢などを行い、午前中が終わります。
出荷の日は6時に出勤して妊娠舎の餌やりと掃除を終わらせ、すぐに出荷の準備に入ります。出荷が終わると販売用に堆肥を袋詰めする作業などを行います。午後は午前中の洗浄の続きや分娩舎の餌やり、掃除などを行ない、出荷の日は2時、普通の日は3時に退勤します。



平野養豚に入って驚いたことはある?
中島 入って最初に驚いたのは、この人数でこの頭数を管理しているということでした。そして移動が常に早歩き。早歩きしながら皆さんちゃんと豚のことを見ていて、気温も肌で感じていて、その飼育技術の高さ、意識の高さに驚きました。他にも豚舎の設備が壊れていないかなども移動しながら確認し、みんなで作業をしている時も、「今咳が聞こえたね。あっちの豚舎だね、後で確認してみよう」といった会話が3人から出ていて、家族全員が同じ意識で仕事をしていることにも驚きましたし、私もそうなれるようになりたいと思いました。本当に尊敬しています。

養豚のお仕事にどんな気持ちで向き合っている?
中島 私はどの作業をするのも楽しくて、お部屋の洗浄をするのも、いかにきれいにできるかを楽しみながらやっています。固まってきた糞をドドドドッと剥がしていく作業があるんですが、それも楽しくて。昨日も川島たんと「ペロッと大きく剥がれると気持ちいいよね」という話で盛り上がりました(笑)。前職の時から、自分が楽しんでいないとその楽しさはお客さんには伝わらないなと思っていたので、仕事は自分が楽しむことが第一だと思っています。
平野養豚では昨年11月に、6年にわたって平野養豚を撮影されている写真家・深津春平さんの個展のアフターパーティーをしたんです。「豚を食べる」というテーマで、豚を育てて豚肉となって食卓に並ぶまでを映し出した写真展だったので、木更津の舵輪さんというレストランで、居酒屋さんやパン屋さん、ラーメン屋さんなど、平野養豚のお肉を使ってくださっているお店の方々が、さまざまな部位を使った美味しいお料理を作ってくださり、平野養豚と関係のある方々が100人近く集まりました。改めて写真を見ながら美味しい豚肉を堪能して、私たちから皆さんにお話ししたり、飲食店の方々がどんな思いで使っているのかをお話ししてくださる、本当に素敵な会でした。
平野養豚は4人しかいないのに、こんなに多くの方と関われるんだと思うと、私は嬉しくて余韻も大きく、翌朝初めて仕事に遅刻してしまったくらいです(笑)。今はすごく良い環境で働けているなと日々感じています。


参加メンバーで考えよう!「どんな職場環境で働きたい?」
最後に参加メンバーがそれぞれ、自分が職場に求める環境について考えてみました。
てっぺい もちろんお金のことも大切ですが、毎日大変な思いをして働く中で、消費者の方に「美味しかった!」と言っていただけることがたまらない瞬間だと思うので、僕にとってはそうしたやりがいを感じられることかなと思います。
みなと 一番は成長できる職場がいいです。あと地域との関わりがある牧場で働きたいなと思います。
ゆずな 家畜である以上いずれはお肉になるけれど、生きている間、愛を持って家畜を育てられる環境がいいなと思います。
かぐら 私は農業高校で養豚に携わり、豚にも個性があることや飼料を変えるだけで味や肉質が変わることを体感して、畜産に人生をかけてもいいなと思いました。でもまだまだ課題も多い業界なので、畜産に携わる人たちがもっと誇れるような産業にしていけるところで働きたいです。
あのん 私は成長を妨げてくる環境は嫌だなと思います。例えば「これをやってみたい」と言った時に、上司から止められるような環境ではなく、自分が突き進める場所で成長していきたいです。大学生になり選択肢も増えて、将来のことに余計迷うようになりました。
はな 私は“カッコいいな”とか“この人の背中を追いかけたい”と思える人が働いている場所に行きたいなと思います。私は畜産に携わる人たちからすごく熱意を感じてきたので、その熱意を自分も誰かに伝えられる人間になりたいと思っています。
もこ 私も何かを提案した時に否定されない環境で、自分が成長できると嬉しいです。職場に尊敬できる人がいるといいなと思います。
たくみ 僕は農場をより良くしていくために、一緒に働いている人たちと話し合いができる職場がいいなと思います。あと20代や30代の若い世代がいると、一緒に頑張れると思いました。
まお 自分がただの労働力として見られるのではなく、共に成長していける環境で、明るく楽しい畜産を作っていける職場がいいです。高校卒業後は北海道で人工授精師の資格を取って、関東の牧場で就職したいと考えています。

学生へのメッセージ

中島 職場にいざ入って、思っていたのと違ったというギャップをなくすためにも、自分が気になるところはちゃんと調べて、経営者がどんな方針でやっているかを知り、場合によっては職場の近くまで行って、建物の雰囲気とか人の出入りからどういう人が働いているかを見るのもいいと思います。自分の人生ですからね! 今日は“楽しむことが大事”ということを学生のみんなにも再確認してもらえたらいいなと思っています。そして一緒に語れる友だちがいることで、より楽しさは増します! 繋がりも大事です!
…汐里さんに養豚の魅力を伝えてきた川島たんからも、職場選びのアドバイスをお願いします!
川島 私は東京で行われていた農業系の会社が集まる説明会に行きました。養豚の会社が2社出ていて、両社の話を聞いたのですが、私はその時に福利厚生を推している会社より、豚の部門の方が豚を熱く語ってくれた会社の方がいいなと思いました。それが今の会社なのですが、その後見学に行った時も、みんなが和気あいあいとコミュニケーションを取って、豚にも声をかけながら働いている姿が楽しそうで、ここで働きたいと思いました。自分が実際に見たり話して感じた感覚は信じていいと思います。
平野養豚・平野恵さんからメッセージ

平野 皆さんの将来は、さまざまな選択肢がある中で、この先の人生、きっとつまずく時があると思うんです。その時に、選択肢はひとつではないということを覚えていてほしいなと思います。私は選んだ道を正解にするように自分を信じて進むことが大事だと思っているので、私も自分の選択を正解にするために努力をしてきました。みんなにはその力があると思うから、自分と向き合い続けて、何をしたいのか、どこで働きたいかをよく考えて、一つひとつ選択していけばいいのかなと思います。
農高アカデミーに参加した感想
中島さんのお話を聞いて、向上心と、行動力が大切だなと感じました。今の仕事環境に満足せずに、何にでも楽しく取り組むしおりさんの姿がとても印象的な回でした!(みなと・高校3年)
“畜産をやりたい!”って思っていることを肯定してくれる人たちと関われて幸せでした! 自分の言葉の表現力や思考力をもっと上げたいと感じました!(まお・高校3年)
養豚農家のスタッフとして働く汐里さんの思いをたくさん聞けて、自分の将来を考える良いきっかけ、良い時間になりました! 自分の悩みを打ち明けることもできたし、その悩みに対して自分がどうして行くべきか道が見えたし、平野恵さんからの熱いお言葉もいただけて幸せです!(はな・大学2年)
家畜や周りの人たちを尊敬しながら働いている汐里さんがとてもカッコよく見えました。そして退勤時間の早さにも驚きました。最後に平野恵さんがおっしゃっていた【自分で選んだ道を正解にする】という言葉。先の見えない将来には不安がいっぱいですが、自分が作ったチーズを「美味しい」と言っていただけることはとても嬉しいので、それがいつか仕事になっているといいなと思いつつ、今を一生懸命に楽しもうと思いました。(たくみ)
今回も皆さんの貴重な言葉がとてもためになりました! 養豚女子が話す“あるある話”が楽しかったです。働きたい職業は今までも考えていましたが、“職場環境”についてはあまり考えてこなかったので、自分らしくいられる職場を考えていきたいと思いました!(あのん・大学2年)
実際に現場で働く人から話を聞き、自分が将来進路や就職先を選ぶ時に何を大切にしたいのか、自分を客観的に見て考えることができた良い機会でした。酪農でも養豚でもそれぞれ熱い想いを持っている人たちに出会えてとても嬉しかったです!(ゆずな・高校1年)
毎回参加するたびに思いますが、素直に“楽しかった!”です。いつも農高アカデミーの夜は眠れません!(てっぺい・大学1年)
飼養方法、味、直売、学校給食を通じた食育、人柄…そのすべてが平野養豚というブランドになっていて、すごいなと思いました。遠いと思っていた就職も、半年後ぐらいには決まっているかもしれないので、今回汐里さんをはじめ、いろいろな方々の考えを聞けて良かったです。(もこ・農業大学校)