三重加藤牧場
三重県四日市の住宅街に牛舎を構える三重加藤牧場。
一貫経営により飽くなき探究心で美味しくて安全な牛肉を追求するとともに、地域循環型農業の実現や、住環境への配慮により、地域と農業が共存共栄できる畜産経営を実現しています。
もくじ
松阪牛と近江牛、2大ブランドを一貫経営牧場
三重加藤牧場は、和牛の繁殖から肥育までの一貫経営を行い、人工授精所(通称ラボ)まで構える全国的にも珍しい牧場です。三重県の四日市市と多気郡明和町の牧場では松阪牛を、滋賀県東近江市の牧場では近江牛を、合計で常時1,500頭飼育しています。
三重加藤牧場は昭和39年に先代が養豚を始め、二代目の加藤勝也さんが引き継いだ後に和牛の繁殖肥育一貫経営へと移行しました。元々パン職人だった勝也さんは、畜産業界の常識に捉われない独自のアイデアとチャレンジ精神で現在の三重加藤牧場を作り上げました。
これまであまり利用されてこなかった「おから」を発酵させたオリジナル飼料の開発や独自の農耕器具の開発など、経営者目線でさまざまな改革を実行。先代から続く「自分たちでできることは何でもする」という精神が今も現場に根付いています。
そして、今や三重加藤牧場で生産される和牛は、共進会や共励会など、数々のコンテストで受賞の常連となっています。
循環型農業で、地域とともに持続可能な経営を実現
四日市市の住宅から程近い場所にある三重加藤牧場は、以前から臭気や仔牛の鳴き声による騒音といった問題の解決にも取り組んできました。牛床にはもみ殻の下に完熟堆肥を敷くことで、尿がもみ殻を通って堆肥に吸収され、堆肥に含まれる菌の働きで臭気が抑えられる仕組みです。
また、通常は仔牛が生まれてから親牛と一緒に飼育する期間が長ければ長い程、親子を離したときの鳴き声は激しくなってしまうものですが、三重加藤牧場は仔牛を生後3日で親から分離させるため、牛舎のなかはとても静か。(母子)分離後、仔牛には約 1ヶ月間、哺乳瓶で手やり給餌し、その後、自動哺乳機に移行しています。
さらに、地域の農家と契約し、稲わらや麦わらを畑から回収して粗飼料として使用しているのも三重加藤牧場独自の取り組みです。飼料を食べた牛から出る糞は、作物を育てる重要な資源。そこに窒素・リン酸が豊富に含まれている豚糞を地元養豚農家から受け入れてブレンドし、農地に散布還元しています。
循環型農業の仕組みにより、三重加藤牧場の肥育牛は粗飼料自給率100%を実現。一方、契約農家は化学肥料を減らすことができ、良質な肥料で安心安全な作物作りが可能になるとともに、双方がコスト削減と環境負荷の低減を両立。地道に続けることで口コミによりパートナー農家は増え、地域を巻き込んだ取り組みへと発展していきました。
また、濃厚飼料として使用している「おから」も、豆腐製造業者と契約して産業廃棄物として処分されるはずの未利用資源を活用したものです。
こうした取り組みについて、勝也さんの息子である3代目次男の文太さんは「父の頃から当たり前にやってきたことなので、特別なことをしている意識はありません。誰か1人がいい思いをするのではなく、共に地域の食を支える仲間という感覚です」と語ります。
牛郡管理システムや人工授精所、最新技術を取り入れて業務効率化を実現
現在牧場の現場で先頭に立つのは、一代で牧場を急拡大した勝也さんのフロンティアスピリットを受け継ぐ三人の息子たちです。
10年以上前に畜産向けのIoTソリューションが登場し始めた頃からいち早く牛郡管理システムを導入し、個体管理の省力化を実現。他にも、以前の牛舎では餌箱が設置されていましたが、牛が餌を食べる際の食べこぼしによるロスをなくし、業務効率を良くするため、DIYで餌箱を撤去してその下をコンクリートで舗装し、給餌と掃除の手間も最小限にするなど、常に現状を疑いながら自分たちの手で改革を進めてきました。
さらに、数年前からは「家畜人工授精師」の国家資格を取得したうえで、牧場内にラボ(家畜人工受精所)を開設。受精卵を購入するコストを抑え、優良な受精卵の自家生産を可能にしました。また、ラボの機能を活かして家畜改良事業団と共同で種雄牛の開発にも着手。ゲノミック評価に優れた「福増秀」が種雄牛として認定され、全国の繁殖農家で使用されています。
「農業は国防」畜産への危機感と市場開拓という新たな挑戦
革新的な取り組みを次々に進め、安定経営を実現している三重加藤牧場ですが、畜産についてさまざまな危機感を抱いていると話します。
「人手不足が深刻化するこれからの時代、農業におけるIT導入は必要不可欠です。また、日本の食を守る一次産業を守っていくためには、農家同士が協力し合い、地域の土地を最大限に活かすことも大切だと思います。危機感をもっている農家とそうでない農家で意識にかなり差があるので、地域で連携して情報共有していく必要がありますね」
また、松阪牛と近江牛を生産している三重加藤牧場は、国内市場でブランド牛の消費が低迷し、値崩れが起きていることにも危機感をもち、海外にも販路を拡大。シンガポールの商社との直接取引により、三重加藤牧場で生産された和牛は現地のホテルや高級レストランなどで提供されています。
そんな三重加藤牧場が今最も力を入れているのが、従業員のより良い労働環境の整備です。一人ひとりが三重加藤牧場のスタッフとして誇りをもって働きながら地域に還元できる畜産経営を目指し、次のように理念を一新しました。
文太さんは「今こそ時代の変わり目」と、三重加藤牧場が目指すべきこれからを次のように語ります。
「祖父も父も、昔から『農業は国防』と口癖のように言ってきました。それもそのはず、祖父は終戦後の農地開拓で就農し、最初は野菜や果物を作り始めましたが、日本全体でタンパク源が不足していたため、豚を飼い始めたことが三重加藤牧場の原点。
根底に『日本の食を守らなあかん』という強い思いがあり、私たちもそれを受け継いできました。二代目の父が必死で牧場を大きくしてくれたので、これからは改めて地盤を固め、現代に合わせてアップデートさせる時期にきていると思います。
真面目に農業だけやっていても生き残れる世の中ではなくなってきているので。さまざまな人の協力を得ながら、ITの導入や販路の拡大、地域農家との連携、従業員の働き方改革などを引き続き進めいきたいです」
// 農場情報
- 所在地
〒512-1201 三重県四日市市上海老町1972