広沢牧場から“グローリーデーリィファーム“へ。3Kイメージを覆す酪農を目指して
この記事の登場人物
廣澤 友和株式会社 グローリーデーリィファーム
昔ながらの家族経営の牧場を脱却し、一企業としての酪農経営へ。
「畜産業に対する3Kイメージを覆し、もっと多くの人が入ってこられる“かっこいい仕事”にしたい」
そんな思いを抱く次世代の酪農家、株式会社グローリーデーリィファーム代表・廣澤友和さんに、お話を伺いました。
もくじ
「グローリーデーリィファーム」の名に込めた想いとは?
廣澤さんは、2012年の10月にお父さんからご実家の広沢牧場を引き継ぎ、牧場を法人化、名称を株式会社グローリーデーリィファームに変更しました。そこには、廣澤さんの強い願いがありました。
「僕が広沢牧場に就職したのは高校卒業後すぐのことで、それから14年以上、父や兄と一緒に牛の管理などの仕事をしていましたが、当時の自分はいろいろな不満や葛藤を感じていました。」
▶廣澤さんが牧場を継いですぐに建設した牛舎
「まず、家族経営ということが、牧場の発展の足を引っ張っていると、僕は感じていました。もちろん家族は一番の理解者になってくれるし協力し合えますが、実は諸刃の剣。“家族だから”っていう甘えにもなりかねない。自分自身がそうでした。」
また、「家族経営っていうだけで、よそから働きに来る人は入りづらい部分、働きづらい部分があったと思います。実際、過去にはそういう理由で辞めていった方もいましたから。」とも。
このような経験を経て、廣澤さんは自身が代表となって事業改革を行っていくことを決意しました。廣澤さんにとって、家族経営の欠点を改善し、より良い酪農経営を進めるための初手は、「自分が代表になること」「牧場を法人化すること」「名称を変更すること」だったのです。
「法人化したのは、酪農業ではあるけれどもひとつの“企業”としてやっていきたかったから。また、名称を変更したのも、“家族経営の牧場”から“酪農業”にシフトしたかったからです。従業員の方には、誰かの家の手伝いをしているという感覚ではなく、組織としての働きがいを持ってほしいと思っています。」
経営を学ぶ育成塾にも参加。次世代を担う農家として思うこと
廣澤さんは、現在37歳。これからの酪農業の在り方についての考えを伺いました。
「先代に当たる僕の父は、昔ながらの“牛飼い“というタイプの人です。とにかく牛が好き、仕事が好き、だからとにかく牛をいっぱい飼いたいっていう(笑)数字にはまったくもって無関心でした。父はそういう世代だと思うし、それでも成立したんだと思いますが、今は時代が変わってきている。」
「これからは、 酪農家も、“牛飼い”ではなく、“経営者”としての思考を持って、一企業としてやっていかないといけないと思います。だから、数字をちゃんと扱えるようにならないと。農場の規模が大きくなって自分ではやれないことが増えていったときに、“どうやって状況を把握するの?”っていったら、やっぱり数字やデータを見ることなんですよね。」
2016年~2017年には、日本全薬工業㈱主催の「次世代リーダー育成塾」にも参加。経営者として必要なスキルを体系的に学び、畜産業に求められる経営力の体得を目的とするこの会に参加したことで、酪農経営に対する思いがさらに強まったそうです。
また、廣澤さんは、これからの課題として、「畜産業の3Kイメージを払拭していきたい」と語気を強めます。
「僕が思うに、優良といわれている農場って、もれなく綺麗なんですよ。余分なものがない、無駄がない。清潔だし、臭くもない。そして、その管理の良さが作業効率や成績に直結している。ですから、シンプル イズ ベストを追求するというのは、“汚そう”“くさそう”を払拭するには非常に重要な要素だと思っています。」
また、「僕らより上の世代だと、“とにかく仕事をすれば、それだけお金が入る”っていう考え方が多かったように感じます。だから、とにかく一生懸命長い時間働く。“畜産業だから休めない”というような状況が当たり前だった。」とも。
「でも、仕事って長時間やればいいってわけじゃなくて、重要なのは質。大事なのは、感覚で仕事をするのではなく、数字をしっかり理解したり管理を徹底したりすることによってきちんと結果を出すことじゃないかなと思います。実際、仕事がスムーズにサクサク進んでいるときほど、牛の健康状態もいいし乳量も多いんですよ。」
廣澤さんのおっしゃるように、仕事の生産性や効率を高めていくことで結果的に労働時間や労働環境を改善する――それが、畜産の3Kイメージを払拭するためのカギなのかもしれません。
「酪農はかっこいい」を実践するために。グローリーデーリィファームの展望
現在、株式会社グローリーデーリィファームでは、より良い酪農経営を目指してさまざまな取り組みを行っています。そのひとつが牛舎の新設。
「今、うちでは160頭の牛のミルクを絞るのに3時間くらいかかっていますが、世の中にはもっと速いスピードで搾乳を行う大規模な農場もあります。そのような高い生産性を実現するのは、最適な施設がなければ無理です。うちの場合、今が既存の施設でできる限界なので、次の一歩のための牛舎増設を予定しています。牛舎と牛の待機場所、搾乳場所を完全に離して、衛生管理を徹底できるようにしたいんです。」
▶スタッフの増員も予定。牧場の近くにスタッフ用の寮として中古住宅を購入したとのこと
また、「治療投資から予防投資へのシフトは、非常に重要だと思っています。」と、廣澤さん。
酪農家さんにとって、「牛が健康であること」は何より重要。そこで、グローリーデーリィファームでは、牛が病気にかかる前に、予防としてワクチン投与を積極的に行っています。
しかし、現状、牛へのワクチン投与をしないという酪農家さんは多いのだとか。牛のワクチンは値段が高く、また、投与してもきちんと環境が整っていなければ効果が見受けられないことが多いからです。
「ワクチンは高額ではありますが、万が一牛が病気にかかったときにかかる費用より、ワクチンを打つ費用のほうがよっぽど安いんです。ワクチンへの投資は、経営のリスクヘッジのひとつと考えています。」
大切なのは、牛への感謝と愛を持つこと
「牛の暮らす環境についてももっと改善したい」と、廣澤さんは言います。
「カウコンフォート(牛の快適度)というのはものすごく重要。牛の生活の基本ベースを極力人間のように近づけていきたいと思うんですよね。特に、牛が最もデリケートになる産前産後の環境には最善を尽くしてあげたいです。」
「昔は、もし牛が病気になったら“牛が悪い”と思っていました。でも、牛たちにとって、自分でどうにかできることなんて何ひとつないんですよね。すべては我々の責任なんです。だから、この子達が少しでも良い環境で快適に生活できるように努力し続けなければならないと思っています。」
さらに、廣澤さんは、「牛のおかげで我々は生きていけるんです。だから、常に牛には感謝と愛を持っていないといけないんです。」とも。牧場のスタッフさんには「牛は神様、人よりも上の存在」ということをよく話すそうです。
最後に、廣澤さんの考える“かっこいい酪農”について伺ったところ、廣澤さんはこう答えてくださいました。
「やっぱり、イキイキと仕事を楽しむことですかね。酪農家って、仕事であり生き方なので。」
一般の人が畜産業に対して持っている「汚そう、きつそう、くさそう」といったネガティブな3Kイメージは、廣澤さんのような考えを持つ酪農家さんが増えていくことで、今後どんどん払拭されていくのではないでしょうか。
後継者問題が懸念される畜産業の現場ですが、数年後・数十年後には畜産の現場はもっともっと働きやすく魅力的な環境になっているかもしれない――そう感じさせてくれる農場でした。
株式会社 グローリーデーリィファーム
- 営業時間:要問合せ
- TEL:0277-74-8050
- 定休日:要問合せ
- アクセス:群馬県桐生市新里町赤城山864-19
乳牛の飼育、牛乳の生産販売
牛の頭数:合計300頭程度
スタッフ数:役員2名、正社員5名、パート2名