科学の視点を携えた「うずら界」の異端児。
この記事の登場人物
三浦忠雄株式会社 室蘭うずら園
昭和36年に室蘭の町でうずらの飼育を始めた「株式会社室蘭うずら園」。その経営を9年ほど前に引き継いだのが代表の三浦忠雄さん。ホクレンを定年退職した後に、うずら卵の生産や加工にチャレンジした異色の経歴の持ち主です。何がきっかけで「うずらと生きる道」を歩みはじめたのでしょうか。
もくじ
北海道オンリーワンのうずら卵の生産農場
「ちょっと夢がないんですが、うずら卵の生産に挑戦したのはたまたま(笑)。前の経営者とはホクレン時代に知り合っていて、ちょうど僕が定年退職したタイミングで後継者がいないからと買い手を探していたんです。北海道ではうずら卵の生産農場はココしかなく、生の卵は味と鮮度を評価されて道内シェア100%。しかも完全無投薬飼育ときています。その独自性にひかれ、借金をこさえてうずら卵の生産を始めてみました」
とはいえ、三浦さんは生産者としての経験はゼロ。初めのうちは、もともと働いていた古株スタッフの信用を得られず、一人、また一人とうずら園から去ってしまったそうです。
科学的根拠にもとづき、鶏舎の管理システムを一新
「僕は確かにうずら飼育のノウハウを持っていませんでした。けれど、大切にしたかったのは感覚や職人的な勘ではなく科学的根拠です」
三浦さんは会社勤めのころにHACCP(ハサップ)の業務に携わり、安全で衛生的な食品製造の管理方法を徹底的に叩き込まれたとか。それをうずら卵の生産現場に当てはめたといいます。
「例えばエサや水の状況がリアルタイムで分かるシステムだったり、鶏舎の最高温度と最低温度を設定してそれを超えると知らせてくれる温度計だったり、科学的にうずらを管理できるような仕組みを取り入れました」
業務が格段にスムーズになり、うずら卵の質も以前より向上。とはいえ、経営は赤字状態で、翌年には物価の高騰が追い打ちをかけました。エサ代や鶏舎を温めるための灯油代が跳ね上がり、借金はふくらむばかりだったと三浦さんは苦笑いします。
トップクラスの生産設備と売れるレシピで6次産業を本格化
同社が転機を迎えたのは平成22年。アイテム数が少なかった加工品の強化に乗り出そうと社運をかけてプリン工場を新設したのです。
「最初に自分でプリンを試作してみたけど、全然おいしくなかったの(笑)。いくら素材が良くても、食品製造の素人が加工品をつくったっていいものができないと身にしみて分かりました。」
そこで三浦さんは、世界トップクラスの生産設備を導入。ホクレン時代のツテからヒット商品を生んだ先生にアドバイスをもらいながら、うずらプリンの開発を重ねました。
その結果、当時のプリンブームも手伝い、各地の物産展での評判は上々。しかし、それでも赤字が好転するところまではいきませんでした。
でも、三浦さんはそこであきらめませんでした。
「次は本格的な6次産業化に向けて、アイスやカステラ、ジャムなどを作るスイーツ工場を造ったんです。周りは絶対につぶれると猛反対(笑)。だけど、僕は最新設備と売れるレシピに加え、原料の良さやトレーサビリティ、菌の検査といった科学的根拠を添えることがヒットにつながると信じていました」
三浦さんの言葉通り、うずら卵を使ったスイーツはじわじわと人気に火がつき、今や関東の有名百貨店や物産展では引く手あまた。
札幌のグルメイベント「さっぽろオータムフェスト2016」の物販部門でも最も売り上げが高かったそうです。科学の視点を携え、大胆な設備投資でヒット商品を生み出す「うずら界」の異端児。これからの展開にも期待がふくらみます。
株式会社室蘭うずら園
- 営業時間:9:00~17:00(直売所営業時間:10:00~16:00)
- TEL:0143-55-6677
- 定休日:要問合せ
- アクセス:北海道室蘭市石川町282-5