元フリーターが貯蓄ゼロから裸一貫で酪農経営者に!?[後編]
この記事の登場人物
矢野 琢也矢野牧場
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矢野 愛矢野牧場
北海道中標津町で約60頭の乳牛を飼養する「矢野牧場」。代表の矢野琢也さんは、奥様の愛さんとともに新規就農し、2019年で営農3年目を迎えました。後編はお二人の出会いから、今に至るまでの物語をご紹介します。
矢野琢也さんは25歳のころに奥様の愛さんとご結婚。当時はお互いに中標津町の「有限会社ファム・エイ」に在籍し、酪農ヘルパーとして働いていました。
「実は酪農ヘルパーの管轄牧場で従業員として働いていたのが家内です。後にファム・エイに入社してきたので、お客さんから後輩に関係がシフトしました。家内は機械作業もお手の物ですし、酪農の経験も豊富。当時は新規就農の条件として夫婦が前提だったものですから、これ以上ないくらいの相手ですね」
もくじ
奥様とともに地盤を固め、新規就農に向けた研修へ。
矢野さんは2年9カ月ほど酪農ヘルパーとして働き、約90軒の牧場で仕事を経験しました。理想とする牛舎の形や作業の動線、使いやすさがしっくりくる農機も見えてきたことから、ご夫婦は新規就農に向けてファム・エイを円満退職。地元のJA計根別が指定する牧場で1年半ほどの研修を受けました。
「ファム・エイの社長がJA計根別の方と引き合わせてくれ、新規就農するまでのプロセスを教えてもらえました」
第三者経営継承と、公社営農場リース事業を活用!
酪農で新規就農するには、施設の整備や新設に大きな資金が必要な印象。北海道で働き始めてから、コツコツと貯蓄を続けていたのでしょうか?
「酪農ヘルパー時代は浪費家でして…。研修中に新規就農の土地選びや施設の改修費をJA計根別の方と話し合ったんですが、何しろ貯蓄はゼロでした(苦笑)。家内にもこっぴどく叱られちゃって」
こう聞くと大きなリスクを背負ったように思いますが、JA計根別では地域主導による「第三者経営継承」の取り組みを推進。離農者の土地や建物、機械、さらには住居も新規就農者に継承させるというバックアップを行っているのです。
「今は新規就農を後押しする制度も充実しています。北海道農業公社の公社営農場リース事業は、離農農家の施設などを整備する資金を無担保で貸し付けてくれる上、返済は牧場経営が軌道に乗った6年目からでOK。コレなら安心できると思えました」
矢野さんが新規就農の場所に選んだのは、数年前に離農した「有原牧場」。実は酪農ヘルパー時代にこの牧場で働いたことがあり、オーナーと気が合ったことから、休日にも仕事を手伝うほど絆を深めていたのです。
「ここは丘の上にあり、風がよく抜ける立地。さらに、牛舎の一部は元体育館を改装しているので、天井が高く湿気がこもりにくいんです。初期投資が抑えられ、肺炎の予防にもなることから有原さんにお願いしてこの場所を譲ってもらいました」
写真手前が元体育館だった部分。仔牛を育てるスペースが十分にあるところも気に入ったといいます。
酪農ヘルパーの活用と作業の簡素化で、年に2回は必ず長期旅行に。
矢野さんご夫婦が「矢野牧場」の営農をスタートさせたのは平成28年9月。牛にストレスをかけず、一頭一頭の摂食量や糞便量、体調を崩さずに観察するという理想を実践しています。
「一方、酪農ヘルパーへの依頼を前提とした休める酪農もモットーです。自分自身の経験から作業性がシンプルだと牧場で初めて働く人にも負担が少なく、牛も病気になりにくいと思います。なので、搾乳器を付けるという作業一つとっても、工程をできる限り端折って簡素化しているんです。こうしたアレンジをさまざまな作業に施し、効率化も図っています」
さらに、JA計根別のTMRセンターからエサを供給してもらい、繁忙期の労働力も大幅に削減しているのだとか。矢野さんご夫婦は、年に2回は必ず長めの休みを取り、二人で旅行に出かけています。3年目の今はいつ休んでも牧場を回せる環境づくりに磨きがかかり、春先には1週間近くも休んだというから驚きです。
「初年度は借金の額が不安になることもありましたが、最終的には620トンほど搾れ、収益もまずまずの結果。むしろ、反省点ばかりにも関わらず、手元に残るお金が多いことに驚かされました。酪農は天候に左右されやすい畑作に比べると年間プランを立てやすいこともあり、真面目に突き詰めれば早めに返済できるとメドがつきました」
フリーターだった矢野さんが酪農の世界に踏み出して約10年。最初に直感した通り、長く続けられる天職になったようです。
「酪農といえばかつては辛い仕事の代名詞でしたが、今はやりがいの大きな現代ビジネスとしての可能性が広がっています。しかも努力次第で規模も利益もまだまだ拡大できる余地もある。自然が好きで自分の力を試したいと考える人には最高だと思いますよ」
矢野牧場
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- アクセス:〒088-2685 北海道標津郡中標津町西竹584-2