【名人会特集・後編】名人和牛を生み出す「名人会」。東京食肉市場でのせりと講評会に密着
この記事の登場人物
名人会茨城県畜産農業協同組合連合会
神戸牛や松阪牛、米沢牛など、近年全国で肉牛のブランド化が進んでいますが、それらとは全く違った発想で展開されているのが「名人和牛」です。
名人和牛は現在、全国で20を超える都道府県で生産されています。育てる場所に着目するのではなく、餌や飼育方法に着目し、「名人」と名付けられた飼料を食べて育った牛だけが、「名人和牛」というブランドを背負うことが許されるのです。
本記事では、【名人会特集・前編】名人和牛を生み出す「名人会」。東京食肉市場での枝肉講習会に密着 に引き続き、飼料「名人」を利用する生産者さんたちの組織「名人会」が開催する肉用枝肉研究会の様子をレポートします。
もくじ
せりで垣間見えた名人和牛生産者の想い
研究会の会場となったのは、東京・品川にある東京食肉市場。研究会の前に、朝8時半から始まったせりにお邪魔させてもらいました。
せりの会場に足を踏み入れると、目の前には天井から吊るされた巨大な枝肉がズラリと並び、ゆっくりと右から左に流れていきます。仲卸業者などの買い手は、時折ライトを照らしてそれぞれの枝肉の肉質をチェックしながら手元のボタンで値段を決め、買いたい品物をせり落としていきます。
生産者は自分が出荷した牛にいくらの値段がつくのか、固唾を飲んで買い付け金額が表示される電光掲示板を見つめます。
せりが始まってからしばらくすると、ざわつき始める場内。いよいよ名人和牛が登場します!
すると、全国から集まった名人和牛の生産者(名人会)が一箇所に集まり、一斉に「わっしょい!わっしょい!」のコールを開始。緊張感と高揚感の入り混じる中、名人和牛に続々と高値がついてきます。
名人和牛の枝肉には、「名人和牛」「オレイン酸~」という刻印が。牛肉の美味しさと深く関わるオレイン酸を多く含む名人和牛には、測定結果に応じ、枝肉ごとにオレイン酸含有量を示す刻印が押されるのです。
一丸となった「わっしょい!」のコールには、全員で名人和牛の価値を高めようと奮闘する生産者の想いを強く感じました。
表彰で仲間を讃え、共に飼育方法を研究する
せりが終わると、別の会場に場所を移動して褒賞式が始まりました。名人会では、せりに出荷された枝肉を東京食肉市場、日本食肉格付協会、購買者の代表者の審査により、優秀な枝肉の生産者を表彰しています。
今回最優秀賞に輝いたのは茨畜連パイロットファーム鉾田牧場さん!前回に続いて2回連続の最優秀賞で、審査員の満場一致で決まったそうです。
その後、競り人の方からの公表があり、体型や脂つき、サシの状態など、ひとつひとつの枝肉に対して丁寧な解説がされていきます。
褒賞が終わると、午後からは講習会の時間。茨城県畜連理事統括部長・中川徹によるお話しでは、飼料「名人」に含まれるビタミンCの重要性や、追加で投与するタイミングなどが具体的な事例とともに語られました。
「名人」は、高品質の原料にこだわり、高価なビタミンCも添加した飼料だからこその美味しさが生み出されます。ビタミンCの性質を理解して効果的に使うことで、肉に美しいサシが入り、同時に無駄な脂を落とすことができるのだそうです。
講義を聞くみなさんの視線は真剣そのもの。メモを取りながら、各々現状の飼育方法に想いを巡らせているようでした。
明日の名人和牛を創り出す生産者のチャレンジスピリット
研究会の後、名人会で若手として期待される2人の生産者に話を聞くことができました。栃木県、神田グランドファームの神田健一さんと、千葉県、髙梨牧場の髙梨裕市さんです。2人に名人会に入ったきっかけや、今の想いを伺いました。
神田さん「私は24歳で就農し、それから3~4年後に名人会に入りました。実家が代々続く農家だったので、子どもの頃からいつかは自分が継ぐという気持ちは漠然とありましたが、ホウキもはいたことがないくらい、手伝いは一切していませんでした。そして、大学を卒業した後もすぐに栃木には戻らず、2年ほど畜産王国の宮崎で研修をしてからようやく地元で農業を始めたという、少し変わった経歴です」
「外への関心が強く、地元では若干異端児だった私にとって、すでに確立された地域ブランドではなく、飼育方法でのブランド化を目指すという他にはない取り組みをしていた名人和牛はとても面白いと、将来性を感じました。もちろんリスクも感じましたが、リスクって言葉、大好きなんですよね。(笑)名人会の生産者はそれぞれが自立し、常に切磋琢磨できるので、仲間でもありライバルでもあるんです。」
髙梨さん「私は26歳まで大学院で法律の勉強をしていて、28歳で就農しました。神田さんと同じく、牧場の息子として生まれましたが、子どもの頃から家の手伝いは全くしなかったですね。(笑)名人会に入ったのは、単純に、以前から名人会の飼料を使っていたからという理由です」
「入ったきっかけとしてはあまり積極的なものではありませんでしたが、名人会で飼育方法を学んだ時に、“経験と勘に頼るのではなく、こんなに論理的でデータを駆使した農業があったんだ”と感銘を受け、そこから一気に興味が高まったことを今でも覚えています。牛も、車や洋服などと同じように、大切なのは“どこでつくったか”ではなく“どうやってつくったか”だと思うんです。私にとって、農業は経営であり、ものづくりでもあります。名人会は、クリエイティブな感性やチャレンジスピリットをもつ若い世代の受け皿としてもぴったりだと思うので、これから畜産の業界に飛び込もうと思っている人や今のやり方に物足りなさを感じている就農者の人に関心を持ってもらえたら嬉しいですね」
生産者たちの熱い想いが結集し、全国で規模を拡大する名人和牛は、これからさらなる広がりが期待できそうです。
もしかすると、全国の精肉店やスーパーに名人和牛のコーナーが設けられる…そんな未来もそう遠くはないかもしれません。
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