NPO法人「明日飛子ども自立の里」の酪農部門から独立牧場へ。若き酪農家の半生
この記事の登場人物
清水 大翼ファームつばさ
清水大翼(しみず・だいすけ)さんは、福島県の鮫川村で牧場「ファームつばさ」を経営しています。ここは、もともとは、人とのコミュニケーションが苦手で引きこもりがちな若者や子どもたちを支援するNPO法人「明日飛子ども自立の里」の酪農部門として立ち上げられた牧場でした。大翼さんに、これまでのストーリーを伺いました。
もくじ
鮫川の地で、動物とふれあいながら育った少年時代
大翼さんは、福島県鮫川村の生まれ。しかし、ご実家は酪農家というわけではありませんでした。
そんな大翼さんが酪農の道へと進むきっかけともいえる出来事は、中学校卒業式の日に起こったそうです。馬喰さん(牛馬を商いする人)が馬を飼いませんかと家に連れてきたのです。最初は“見るだけ”のつもりだったそうですが、大翼さんのお父さんが「『目が合っちゃった』(笑)」という理由から、ポニーを飼うことに。
さらに馬喰さんは、お父さんが「ほんとはジャージー牛を飼いたかった」とポツリと言ったのを聞き逃がさなかったそう。そして、この2、3週間後に今度は本当にジャージー牛を連れてきたのです。
「さすがに無理だと思ったものの、やはり父と『目が合っちゃって』、飼うことになりました(笑)」
そんな経緯で大翼さんの家にやってきたジャージー牛。高校に入ってからの大翼さんは、毎朝犬の散歩でもするように、バケット一杯の搾乳をしてから学校に行くようになったといいます。
最初から酪農家を目指したわけではなかったが、運命に導かれるようにこの道へ
高校では生徒会長を努めていた大翼さんでしたが、職業としての酪農を強く意識したことはなかったといいます。しかし、大学進学を考えるにあたって、動物好きだった大翼さんには「推薦で動物関係の大学に入れたらいいな」という漠然とした思いがあったそうです。
そして、麻布大学に入学。最初は獣医を目指そうかとも考えていたそうですが、途中で編入できるということで、ひとまず動物応用科学科に進学しました。大学には酪農の実習があり、大学2年の秋には、つてを頼って北海道の牧場に一ヶ月滞在したそうです。
「2日目か3日目、猛暑の日中、働いて気持ちが悪くなっていた時、親方さんから『夕方バーベキューをやるぞ』と……。あの時の食事が本当に美味しく感じました」。
酪農実習も中盤に入ると、段々楽しくなり、やりがいも感じられるように。やがて、自分自身も鮫川村に戻って酪農を始めようと思うようになったとのこと。当時はちょうど、花畑牧場が注目を浴びていたころ。その影響もあり、自分も酪農家になって6次化商品にも力を入れようと決意したそうです。
北海道の牧場の実習経験を経て、NPO法人の一部門として酪農の世界に
大学4年生の夏休みには、オンボロのバイクを手に入れてキャンプ道具を積んで北海道を回ったという大翼さん。“家族経営の牧場で6次化を目指す”というイメージを抱いていたので、そんな牧場を大学の先生の情報からリストアップし、何ヶ所か見学させてもらったそうです。
牧場の方と会って話を聞かせてもらううちに、北海道遠軽町でソフトクリームミックスを生産している牧場に良いフィーリングを感じ、卒業後2年住み込みで実習をすることに。
その後、大翼さんが遠軽町での実習を終えて鮫川に戻ったのは、東日本大震災があって世間がまだ騒然としていたころでした。
酪農組合に相談に行くと、「この状況では個人で牧場を始めるのは厳しいのではないか」という意見が多数。そこで大翼さんは、父親が代表を務めるNPO法人「明日飛子ども自立の里」の酪農部門として立ち上げることにしたのです。お父さんは「感情表現や人とのコミュニケーションが苦手な子どもたちにとって、アニマルセラピーとして動物と触れ合うのはいいことだ。NPOの仕事とコラボしてやっていこう」と言ってくれたそうです。
こうして、大翼さんは、酪農と子どもたちへのアニマルセラピーとの両輪生活を開始したのでした。
その後、2017年7月、大翼さんは牧場をNPO法人から独立させ、「ファームつばさ」として運営を始めました。(NPO法人としても牧場は継続中)
現在では奥様と従業員の方とともに、酪農業と子どもたちや若者への支援活動に奮起されています。
ファームつばさ
- 営業時間:要問合せ
- TEL:0247-49-3344
- 定休日:要問合せ
- アクセス:〒963-8403 福島県東白川郡鮫川村葉貫13-2