農高アカデミー

第11回農高アカデミー:テーマ「地域に愛される酪農ってどんな形?」

この記事の登場人物

石田陽一
石田牧場
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畜産を勉強中の全国の高校生がオンラインでつながり、学べる機会を生み出す「つながる農高プロジェクト」の農高アカデミー。第11回目(2022年3月15日開催)は、神奈川県で石田牧場とジェラート屋めぐりを経営し、都市型酪農の形をアップデートする石田陽一さんをゲストにお迎えしました!

//ゲスト紹介

石田陽一 石田牧場

‘84年生まれ。神奈川県伊勢原市で乳牛約50頭を飼養する酪農家・石田牧場の3代目。神奈川県立中央農業高校、北海道の酪農学園大学を卒業後、1年間ニュージーランドの牧場で学び、’08年就農。’11年に牧場直営のジェラート屋「めぐり」をオープンさせ、地元からも広く愛されている。

▲全国の高校生たちが集まることで、地域によって異なる問題も見えてきました。

<動画をご覧いただきながら、ぜひ皆さんもご一緒にお考えください>

~以下、内容のダイジェストになります。~

Q1. まずは石田陽一さんについて教えてください!

 祖父の代から酪農を始め、3代目。物心ついた時から家に牛がいたので、自然と中学3年の頃に酪農家ってカッコいいなと思うようになり、神奈川県立中央農業高校へ。その後北海道酪農学園大学へ進学して、卒業後は1年ニュージーランドの牧場で働いた後、実家に戻りました。高校生の頃は野球ばかりしていて、恥ずかしながら家の酪農を手伝い始めたのは高校3年生で部活が終わったあたりからでした。大学を決めたのは、高校生の時に岡山県で全共があり、近所の農家さんの牛が神奈川県代表で出るので応援に行った時に、ブースで酪農学園大学のパンフレットをもらったことがきっかけでした。

Q2. 石田さんは “地域に愛される酪農” というテーマについて、どう考えておられますか?

 僕は“愛されたい”というより、自分が神奈川県伊勢原市という土地で牛を飼わせていただいていることにありがたい気持ちしかなくて、地域のことも地域の方々のことも好きなので、自分は酪農家という立場として何ができるかな、ということをいつも考えています。

人間関係の構築も同じだと思うんですが、例えば皆さんのクラスで同性に愛される方っていらっしゃいますよね。男子にモテる男子とか女子にモテる女子。そういう方々って、モテようと思って行動しているわけではなく、おそらく皆さん共通して裏表がなく明るかったり、一緒にいて楽しかったり、みんながやりたがらない役をすすんで引き受けたり、グチや悪口を言わなかったりすると思うんですよね。結果、モテるんです。でもモテようとして行動する人ってわかりますよね。

だからモテようと思ったら、まず自分から与えること。酪農をやっていると忙しいから、自分のことだけで精一杯になってしまうんですが、忙しいのはみんな一緒で、その上でお金にはならなくても地域のために何ができるかなということを考えて行動することが大切なのかなと思います。

Q3. 農高生たちは地域との関わりをどう意識している?

あおい:私も神奈川県で、学校周辺が住宅地なので、先生からはいつも「地域の方に愛される活動をしなさい」と言われて意識しています。

そうた:僕は逆に北海道の山の中に学校があるので、人との関わりがなかなか持てないんです。だから学校からは「意識的にどんどん発信していきなさい」と言われています。

Q4. 地域との関係がうまくいかない理由や改善策はどんなことが考えられる?

ゆかり:私の学校は山が近くて熊がいるので、デントコーンを育てていると注意しておかないと熊が寄って来て住民の方に迷惑がかかってしまいます。過去にそれでトラブルになったことがあると聞いたことがあります。

かなり:私の地元は那須塩原で観光地や別荘地があるので、においや騒音もそうですが、農場から車が出入りした時の道路の汚れや畑の草刈りなども気を付けています。

まお:新しく学校周りに引っ越して来られた若い世代の方は特に、農業になじみがないので、何か作業をする際には騒音が出ることなどを事前に知らせておかないと学校の中で何が行われているのかと不信感につながる気がします。

 まずは家畜のにおいや機械音などに対する苦情がありますよね。石田牧場は六次化をしてジェラート店を敷地内に併設しているので、お客さんがたくさん来られて道路が渋滞して迷惑になってしまうことも注意しないといけないと思っています。地域との関係については、僕は積極的に地域の活動に参画しています。

消防団や農協の青壮年部に所属したり、地域の草刈りやゴミ拾い、お祭り、小学校のPTA活動などに参加したり。あとは牧場の外観がきちんとしていることも大事かと思うので、敷地内はいつも誰かに見られているという気持ちで整理整頓して、花壇にはお花を植えています。においや鳴き声ってゼロにはできないからこそ、見えないところで当たり前のことをきちんとしておくことで、まわり回って必ず地域の評判になってくると思います。

~30分間の話し合いタイム~

ここで3チームに分かれて、今回のテーマについてディスカッションを行いました。
地域も立場も違うメンバー同士が情報交換をし合うことで、考えが深まります。

~各チームの発表~

Aチーム
僕たちは地域と関わる上での問題としてはにおいと騒音が大きいと考えました。においや騒音をゼロにすることはできないので“地域の人と許し合える関係性”を作るために、何か作業などが入る場合には事前に周囲の方々に知らせたり、SNSを使って日頃の活動を発信していくことを心がける。地域の人に愛されたいという受け身ではなく、自分たちから地域を積極的に愛するチームを作っていくことが大切だと思います。

 僕も本当にそう思います。愛されたいなら自分から愛すること、自分から相手に関心を持つこと、相手がされて嫌なことはしないように気に掛けることは良い方向に向かうきっかけになると思います。

Bチーム
酪農の現場が地域と関わりがないと、地域の人にとっても農業に対するイメージが湧かず、不信感や怖さにつながるように思います。自分たちも最初牛との関わりがない頃は牛舎のにおいが気になっていたけど、愛着が出てくるとまったく気にならなくなりました。そこで地域の方々にも小さい頃から牛と関わってもらう触れ合いの機会を作ったり、積極的に現場を公開していくことも方法のひとつだと考えました。

 愛着が湧くと好きが勝っちゃう、というのはよくわかります。僕も教育ファーム活動をしていますが、初めて牧場に入る時は鼻をつまむ子どもたちも、エサをあげたりするうちに夢中になって、最後は気にならなくなっているんですよね。そんな時僕は「牛さんのにおいは生きているから出ているにおい。体に悪くないものだから、だんだん気にならなくなるんだよ」とにおいが出る理由も一緒にお話ししています。

Cチーム
地域から愛されているなと感じるのは、自分たちの作った商品を消費者の方が手に取ってくれた時。例えば鳥取県の「白バラ牛乳」は、給食でも使われていて地元のみんなが大好き。「みるくの里」というレジャー施設もあり、県民の自慢になっています。他にも栃木県の那須塩原では酪農のお祭りが数多く行われていて、地域の人たちが地元の酪農を自分事化して、周りに自慢したくなるような展開を作っていくことが大切なのではないかと考えました。

 地域の人が、地元に牛がいるということを自慢したくなるというのはすごく大切で、僕も教育ファームで来てくれた子たちには、「牛がいるということは良い堆肥ができるということ、それはこの伊勢原では美味しいお野菜やお米ができるということなんだよ。しかも牛さんは僕たちが食べられない草を食べて、牛乳を出してくれている。これってすごいよね」と伝えています。そうして育った子たちが、いつか自分の子どもに伝えてくれるんじゃないかと思いますし、地道なことですが、地域の方が自慢できるような酪農を伝え続けていくととが大事かなと思っています。

…学校で教育ファームを行う際、子供たちに畜産のことをどこまで伝えたらいいのか悩んでいます。石田さんはどう考えておられますか?

 みんなは酪農や畜産の魅力をたくさん感じているから今勉強しているんだと思うんです。その、自分が感じているパッションをみんなそれぞれの言葉で伝えていけばいいと思います。自分がかつて興味を持ったきっかけがあったように、みんなが伝えた言葉で、牛さんや畜産に興味を持つようになる子が必ず出てくるはずだから。どう言えば伝わるかなということを考えていくと、言葉の引き出しもできていくのかなと思います。

石田さんから学生へメッセージ

 
今日僕も皆さんからたくさん学ばせていただきました。こんなに熱心に酪農のこと、畜産のことを考えてくれている高校生がいるということを全国の酪農家さんが知るだけでも、みんな勇気が出ると思います。それほど皆さんの存在って力になるんです。

どんなに気を付けていてもにおいや騒音などで地域の方にご迷惑をかけてしまうことはあると思います。まずはご迷惑をかけないように気を付けることですが、ご迷惑をかけてしまった後にどういう姿勢を取るかも大切です。

酪農って誰かに頭を下げて買ってもらうことがないお仕事なんですよね。でもひとりで仕事はできません。だから感謝と謙虚な心を持って、何かあれば「申し訳ありません」と頭を下げる姿勢を忘れないでいてもらいたいなと思います。

今回の農高アカデミーに参加して
いかがでしたか?

 かぐら(高3)
違う地域の高校生たちとの話がとても刺激になりました。みんな地域や自分たちの活動に誇りを持っている様子で、私自身も勇気づけられました!

 ゆかり(高3)
他の学校の人たちと意見交換したり、自分たちが実践している解決策などを発信でき、とても刺激的な時間でした。石田さんから聞いた話を今後学校で行う酪農教育ファーム活動に活かしていこうと思います。

 あのん(高3)
愛される酪農とはもっと難しく考えるものかと思っていましたが、石田さんのお話はとてもわかりやすく、実際は根本的な問題が多くあることを知りました。私もこれからはもっと自分から地域を愛していこうと思います!

 あやか(高2)
今回はブレイクアウトルームで話し合う時間があり、みんなでしっかり対話しながら考えを深めることができました。農高生・普通科生での意見や視点の違いが面白く、お互いに今後に活かせるんじゃないかなと思いました。

 つよし(高3)
地域との関係は、においや騒音問題を解決すれば愛されるようになると思っていましたが、石田さんのお話や他の高校生の意見を聞いてそれだけではないことを知り、とても有意義な時間になりました。

 あおい(高3)
農高に入ったのは、動物が好きで牧場に行った時に牛が可愛いと思ったことがきっかけでした。その時は畜産のことなんてまったく考えていなかったのですが、今日石田さんのお話を聞いて、この道に入って本当に良かったなぁと思いました!

 埼玉県立熊谷農業高校
梅野先生

地域との関わりから授業だけでは学ぶことのできない考えを得られることを再確認しました。地域から愛されたいと思い何かしなきゃと義務的に考えていましたが、「愛されたければまずはこちらが地域を好きになる」という言葉にハッとさせられました。農業高校として地域のために何ができるか、改めて生徒と共に考えていきたいと思います。

 三重県立明野高等学校
福永先生

畜産業の課題のひとつ、地域との関わりについてはどの農家も抱えているもので、昔よりもより多様化していることを知りました。地域との関わりは農業高校においても、課題であると同時に生徒にとってやりがいに繋がる重要なポイントです。高校生にとって大事なことを指導する側が制限してはいけないと改めて感じました。

次回農高アカデミーは5月16日(月)開催です!

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