おいしい牛乳は健康な牛から。健康な牛は、健康な土壌から。
この記事の登場人物
新村 浩隆有限会社 十勝しんむら牧場
ブルルンブルルン…十勝の丘に響くエンジン音。振り向くと、オフロードバイクにまたがった男性が牧場の一本道をこちらに向かって駆けてきます。何ともダンディなその男性は十勝上士幌町にある有限会社十勝しんむら牧場の代表、新村浩隆さんです。
もくじ
四季を通じた放牧酪農を、北海道は上士幌で実践。
オートバイを華麗に操る様が実にスタイリッシュ。つなぎにカウボーイハットという出で立ちも緑の牧草地によく映えます。
新村浩隆さんは十勝しんむら牧場の四代目。同牧場は牛本来の姿や生き方に忠実な放牧を基本に、自然と科学の視点を調和させた先進の酪農に取り組んでいます。
「牛の飼育は牧草地を区分けし順次計画的に牛を移動させていく集約放牧というスタイル。牛たちが放牧シーズンを通じて常に質の高い牧草を食べることができるよう、工夫しています」
搾乳の時以外は年間を通して1日中放牧するという徹底ぶり。厳寒の冬でもフリーバーン式の仕切りのない牛舎のため、牛たちは畑にも自由に行き来できるとか。
「やはり野外にいるのが自然なのでしょうね、冬でも畑に出ていることが多いですね。窮屈な牛舎につながれるストレスもなく、おいしい草を体が必要とするだけ食べて、広い大地でのびのび育った牛たちの体は引き締まり、表情もおだやか。 心身ともにすこやかな様子がひと目でわかります」
牛乳へのこだわりは牧草や土壌へのこだわりに。
おいしい牛乳は健康な牛からしか生まれない、というのが新村さんの持論です。
「放牧の際に牛のエサとなるのは、牧場に生えている草です。いい牛を育てるためには牛が食べたいと感じるような、おいしく栄養価の高い草をつくる必要があります。さらにそういったいい草を育てるためには、いい土が不可欠。突き詰めると、酪農の根幹は土づくりになるんです」
かつてからそんな考えを持っていた新村さんは、牧場代表に就任すると直ちに土の分析を実施しました。
「そのデータをもとに、ニュージーランドの専門家の設計による土壌改良にも取り組みました。そして約十年の歳月をかけ、ミネラルバランスがよく微生物が元気に活動する今の土壌をつくり上げたんです」
そういって新村さんが見渡した牧草地には、地中深く根を張ったクローバーが青々と育っています。
「自然に近い環境で育った牛たちの牛乳は、雑味脂肪が邪魔しないすっきりとした味わい。季節に応じて味わいが変化していくのも特徴です」
一口味わってみると、サラリとした口当たりとふくよかな味わい。夏の牛乳は青草に含まれるビタミンやβカロチンが増えるため、黄色がかっているのが特徴だそう。ただし冬になると脂肪分が増えクリーミーになるとか。
「こうした牛乳本来の風味を損なわないよう、十勝しんむら牧場では65.3℃、30分の低温殺菌処理をしています」
といってグラスに注いだ濃厚な一杯。これこそが、新村さんと自然がタッグを組んで育んだ究極の牛乳なのです。
「牛の行進」の牧歌的な風景にも心打たれて
「うちの牧場の名場面をご覧になりませんか」と新村さん。
牧場の名場面? 不思議に思いながら新村さんに導かれた先には、なんと、整然と一列に並んで歩く牛たちの姿が。その牧歌的な風景に、なぜか懐かしさがこみ上げます。初めて目にしたのに不思議……
「健気でかわいいでしょう。自分たちは『牛の行進』と呼んでいます。夕暮れになるとああやって、おとなしく列を作りながら牛舎に帰って行くんです」
前の牛を追い抜くことなく、一歩一歩ゆっくり歩む牛たち。時を忘れ、しばしその心温もる風景に見とれてしまったのでした。
有限会社十勝しんむら牧場
- 営業時間:要確認
- TEL:01564-2-3923
- 定休日:要確認
- アクセス:〒080-1407 北海道河東郡上士幌町字上音更西1線261番地