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開拓者精神を受け継ぎ、 地域営農の永続性を目指した協業法人

この記事の登場人物

後藤 誠
雪割牧場(有)

この記事の登場人物

田中
雪割牧場(有)
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戦後、食料増産や復員軍人・海外引揚者・戦災者の就業確保として行われた戦後開拓。
雪割牧場のある福島県西白河郡・西郷村も、戦後開拓によって切り拓かれた地域です。

そんな西郷村で畜産がスタートしたのは、開拓とほぼ同時期。当時、多くの入植者が畜産を生業としてこの地域での生活をはじめました。雪割牧場も、そんな戦後開拓によって生まれた牧場のひとつです。

雪割牧場の特徴は、5名の酪農家が集まり共同経営という形を取っているということ。
代表の後藤誠氏を中心に経営を行っており、高齢化や震災の風評被害などの影響により縮小が進むこの地域の酪農業の中でも、拡大を続けています。

「開墾したこの土地をしっかり守っていきたい」と語る後藤社長は、どのようにして雪割牧場をここまで拡大させてきたのでしょうか?

開拓者精神を受け継ぐ後藤社長と、その参謀としてサポートする取締役専務の田中さんに、詳しく伺いました。

家族経営ではなく企業として。酪農を永続させるための基盤づくり

雪割牧場が会社として設立したのは、今から17年ほど前。
後藤さんを中心に、平成12年に生まれました。共同経営という形を取った理由として「酪農を取り巻く問題を解消するには個人では対応できない」といいます。

家族経営で20~30頭くらいの飼育で食っていけるのであれば、そのままでも問題ありません。しかし、機械の導入によって効率化が進み、以前よりも高い生産性が求められるようになっていきました。そうなると、20~30頭という小規模では、生産が間に合いません。最低でも100頭以上の飼育が必要になると、スタッフの人数も必要になってきます。そこで、家族経営をやめて、共同経営という形を取ることにしたのです

生産性を高めるさまざまな機械が導入されるにつれ、家族経営の限界を感じていたと後藤さん。

また、共同経営を行った背景には、縮小を続けるこの地域の酪農を守るためという想いも隠されています。

開拓当時は、ほとんどの世帯が牛を飼っていたんです。今でも牛舎は残っていますが、現在では報徳開拓として私たちを含めて10戸だけ。共同経営をはじめた当時も、酪農家の数がどんどんと減っていて、どこかでこの地域の基盤となる牧場がないとダメだと思いました

共同経営に切り替えることで100頭以上の飼育にも対応できるほか、資金が増えることで投資にも力を入れることができます。フリーバーン牛舎・ミルキングパーラー・バンカーサイロなど、生産性の向上と効率化を図るための設備投資を行い、規模を拡大。

▲パーラー待機場

▲ミルキングパーラー

▲ミルキングパーラーで搾乳したミルクは、この集乳車で出荷されていきます。

飼育する乳牛の数は400頭ちかくで、この地域の酪農の基盤といえるような牧場へと成長しました。

数年前からは、稲作農家から稲を購入、逆に堆肥を販売することで地域農業の活性化を行う耕畜連携を農協と行うなど、さまざまな取り組みを進めています。
飼育する牛の頭数を増やすために、牛舎を倍にする計画も進行中とのこと。地域経済にとってなくてはならない存在となっています。

※耕畜連携についてのお話は、近日公開の記事にて詳しく伺っています。

飼育管理や予防医療を重視した酪農経営を実践

共同経営・規模の拡大によって、開拓地を守る地域の基盤となった雪割牧場。
一見、順調に成長を続けているように見えるものの、その道程は決して楽なものではありませんでした。
後藤さんが特に手を焼いたというのが、牛の病気です。

当たり前ですが、牛が増えれば増えるほどに飼育の難易度は上がります。一頭一頭にかけられる時間が少ないですし、病気も牛も増えていきます。周産期病、乳房炎、フリーバーン牛舎にすることで蹄病も増えます。規模を拡大させるのと比例して飼育管理と病気予防が急務になっていました

試行錯誤を施すものの、設立からしばらくは病気にかかる牛が多く飼育・予防方法の確立に頭を悩ませたとのこと。

ここ数年で病気にかかる牛が急激に減って、以前の10分の1程度になりました。さまざまな方法を試した中で効果的だったのが、乾乳を前期・後期に分けて飼育管理する方法と餌を変えたことです。特に効果的だったのが餌で、決まったものだけに絞って餌を与えることで病気になる牛を減らせることがわかりました。

また、フリーストールの牛舎にすると蹄病が蔓延しやすいということがわかっていたので、敷料に鉄鋼スラグを混ぜて強アルカリ性にすることで予防することができました。これはかなり効果的でしたね」 

飼育管理と敷料を改善することで牛の病気、特に蹄病が減り安定させることができたと、後藤さんは語ります。

また、経営を軌道に乗せる上で後藤さんがもうひとつ大変だったというのが、「意見をまとめること」。
共同経営という性質上、それぞれの牛舎を代表していた人間がひとつに集まるため、意見の相違は日常茶飯事です。

共同経営を行った多くの牧場が、統率が取れずにつぶれていったと後藤さん。
雪割牧場が長く安定した経営を続けることができたのは、牧場経営に一般的な会社の仕組みを応用したことが要因だといいます。

共同経営ということで無理に平等にしようとすると意見がまとまりません。だからこそ、一般的な企業のように役割をしっかり定めて経営を行いました。もちろん議論はみんなでするんですが、最終的な決定権を持つ人間を定めることで、統率が取れずに前に進めないという状態を防ぎました

共同経営を行う前から、地域や農協などさまざまなところで旗振り役を行っていたという後藤さん。
一緒に雪割牧場を設立したメンバーの多くが、すでにそれを認識していたため、すぐに上下の信頼関係を築くことができたとのこと。

また「副官にはいつも恵まれていた」と後藤さん。

受け継いだ開拓精神でぐんぐん前進する後藤さんとそれをサポートする優秀な副官。
同じ意思を持つ、上下の強い信頼関係こそが雪割牧場の最大の特徴だといえるでしょう。

目指すは1,000頭。規模を更に拡大し地域営農をめざす

約10年間の準備期間を経て今から18年前に4戸の酪農家で設立した雪割牧場。

現在の雪割牧場の目標は、牛1,000頭にスタッフ20~30名の大規模牧場。
後藤さんご自身が目指す理想的な牧場経営のために、まだまだやることは残っているとのこと。

僕らのころは休みがないなんて当たり前だったけど、これからはそうもいきません。牛は生き物だから、離れることはできないけど、人数が多くなればシフト制にして上手く回すことができるはずです。組織をより大きくすることで、雇用を創出し、安心して楽しく働ける牧場をつくっていくこと。それが、この地域に定着する人を増やすことにつながると思います

酪農は全体の仕事がわかってはじめて楽しさを感じるものです。例えば、牛が病気になる原因は飼育過程の中のどこかに潜んでいます。全体の飼育から、それを発見して状態を改善できたときの楽しさは、餌やり、掃除、搾乳など分業になっていると感じることができません。酪農や畜産の楽しさや喜びを感じられるように、全体の仕事を任せるということをもっとやっていきたいと思っています

今後もさらに拡大していく雪割牧場。

代表の後藤さん、専務の田中さんが行う地域活性化の取り組みを通して、西郷村がかつての輝きを取り戻す日はそう遠くないのかもしれません。

雪割牧場(有)

  • 営業時間:ー
  • TEL:0248-36-2560
  • 定休日:ー
  • アクセス:〒961-8081 福島県西白河郡西郷村鶴生由井ケ原353-1

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