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1週間分を4時間で売り上げる?無名の豚が宣伝なしで“幻の豚”になった理由

この記事の登場人物

浅野 久美
有限会社 あさの
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パッケージに神々しく輝く「栃木県さくら市産 あさの豚」の名前。

あさの豚は、有名シェフがその味に惚れ込み、一流レストランで使用されるブランド豚です。毎週土曜日の13時から17時まで、週に一度4時間だけオープンする直売所には、毎回遠くからもたくさんの人が足を運びます。

自ら付加価値をつくることで、大規模農場にも負けないブランディングを

 
あさの牧場が自社で加工も行うようになったのは、今から20年前のこと。ここで捌かれた豚だけが「あさの豚」になるということで、加工部門はブランドの要になっています。加工を始めたときのことを、代表取締役の久美さんはこう語ります。

「父親の頃は養豚しかやっていなかったんですけど、当時抱えていた最大の問題は、販路の開拓でした。うちはそこまで出荷頭数が多いわけではないので、大手のスーパーなどと取引することも難しく、どうしても大規模な養豚場には敵いません。
しかし、東京の大学に進学してマーケティングを学んだことによって、付加価値をつけることで出荷頭数を増やさなくても勝負できると確信でき、地元に帰って畜産の仕事を継ごうと決意しました。あさの豚は問屋に卸すのではなく、直売所でお客さんに直接販売することで、利益を出し、なおかつ価格も抑えることができています。」
 

あさの牧場の直売所

また、直売所の短い営業時間にも秘密があるといいます。

「よくお客さんに『なんで週に1日、4時間しか営業しないの?』と聞かれるんですけど。場所も市内から離れているし、きっと毎日営業しても人は来ないと思うんですよ。さらに、そんなところに販売スタッフをつければ、その分人件費もかかります。だったら週に4時間の営業で、通常の肉屋さんが一週間で販売するのと同じだけ売ってしまえばいいんじゃないかと。実際始めてみたら『週に1日4時間だけ、田んぼの真ん中でオープンする肉屋』というのが逆に噂になり、毎週遠くから来てまとめ買いしてくれる人や、近くの別荘地を訪れる人がバーベキュー用に買ってくれたりと、おかげさまで客単価は良いと思います。」

宣伝にはお金を使わない!判断基準は「無理しない」こと

ブランド化に成功し、さまざまなメディアからも注目されるあさの牧場。一体どんなプロモーションをしているんですか?と聞くと、久美さんはビックリした様子で答えました。

「いやいや、うちは宣伝には一切お金を使わないですよ。(笑)メディアからは自然と声が掛かって取り上げてもらったことはありますが、こちらからお願いしたことはないですね。たまたま東京の有名なシェフがうちの豚を気に入ってレストランで使ってくれるようになり、そのお店で豚を食べたお客さんがあさの豚を調べたら『週に4時間だけ栃木でオープンする直売所に行かないと買えない』と知って噂が噂を呼び、気づけば“幻の豚”なんて呼ばれるようになっていました。」

ご本人も意図しない展開で有名になっていったあさの豚。さらなる事業拡大を期待してしまい、つい質問が熱くなる取材陣でしたが、久美さんはとても冷静にこれからのビジョンを語ります。
 

あさの牧場に掲げられた社訓

「ブランドが確立されて付加価値がつくのは嬉しいですが、お客さんにとっては、やはり価格も大切です。例えば餌などの品質をさらに上げて、肉を今よりも美味しくすることはいくらでもできますが、いいものがその分高く売れるとは限りません。毎日食べても飽きのこない適度な品質のものを“飽きのこない価格”…つまり、良心的な価格で販売していきたいです。私たちにとっても、お客さんにとっても無理がないことが一番。例えば弟から加工のことで相談を受ける時も『無理がないか』という基準で判断しています。これからもできる範囲で、地に足をつけて、自分たちの身の丈にあった展開をしていきたいです。」

素材の味を最大限に生かした加工食品事業も

あさの牧場さんは、栃木県のステーキハウスの名店「クローバーステーキハウス」とともに開発した、ハンバーグとステーキソースのセットなども販売しています。これも、大胆に事業規模を拡大したり、採算度外視で品質を上げたりするのではなく、あさの豚の“素材”とステーキハウスの“技術”という強みを活かすことで付加価値を生み出した、まさにオープンイノベーションの形。

限られた資源の中で、価値そのものを高める。

そのためには、無理をするのではなく、自分たちの事業に自信を持ちながらも、他社と協力し、常にお客さんの気持ちを思いやることが大切なのだと教えてもらうことができました。

あさの牧場

http://asanobuta.com/ 

  • 営業時間:要問い合わせ
  • TEL:028-685-1012
  • 定休日:要問い合わせ
  • アクセス:〒329-1406 栃木県さくら市南和田465