福島の復興シンボル「フェリスラテ」。幸福の牛乳を届ける牧場の軌跡
この記事の登場人物
田中 一正株式会社フェリスラテ
福島県福島市の中心部から車で15分ほど走ると、巨大な牛舎が立ち並ぶ様子が見えてきます。
こちらが、東北震災後、福島県酪農業協同組合のもとで避難休業酪農家5名が法人化した「フェリスラテ」。
敷地面積は約3.6ヘクタール、飼養頭数は500頭以上、運転資金などを含め20億円近い事業費をかけて設立されたこの農場は、名実ともに福島の畜産の復興シンボルです。
フェリスラテのスタートから現在までの軌跡を、代表取締役社長の田中一正さんに伺いました。
もくじ
福島初のメガファームとして、福島酪農組合の命運をかけたスタート
「フェリスラテ」とは、スペイン語の「幸福」とイタリア語の「牛乳」を組み合わせた造語です。
トレードマークとなっているCIマークは、上から見たミルククラウンをモチーフに、5名の酪農家を象徴する五角形を重ねて“繋がりが発展していく”というイメージが込められています。
フェリスラテ代表取締役社長 田中一正さん
「震災後、福島県酪農業協同組合が音頭をとって復興事業を始めるということで、その一環としてフェリスラテは設立されました。その際に運営を行う酪農家として我々5人の避難休業酪農家が集まり、株式会社を立ち上げました。簡単にいうと、酪農組合が立ち上げたハードな部分を我々が運営しているというわけです。」
実は、酪農組合から話があった当時は福島市松川町の復興牧場・ミネロファームを預かっていた田中さん。
そんな田中さんが、酪農組合からの提案を了承し、ミネロファームを人に任せてまでフェリスラテの経営に乗り出したのはなぜだったのでしょうか。
「フェリスラテは、建屋だけでも13億円、牛やさまざまな設備など含めたら20億円近い予算のかかった非常に大きな事業です。この事業の話を最初に聞いたとき、酪農組合の一組合員として“絶対に失敗させるわけにはいかない”と思いました。しかし、福島には大規模農家というのがほとんどなく、メガファーム経営のノウハウを持っている人が非常に少なかったんです。一方私は、20代の頃に栃木で当時日本で最大規模の牧場で働いていた経験があります。ですから、こういった大きな農場を運営する適任者は自分以外にいないのではと思いました。」
「幸せの牛乳」を届ける酪農牧場として
創業から2年経った現在、フェリスラテは酪農専業農場として牛乳の生産を行っています。
牛舎はすべてフリーバーンで、牛へのストレスを軽減。
また、放射能の影響に対して不安な声もあるなかで、飼料には徹底した安全管理対策を施しています。
子牛の育成も視野に。酪農だけにとどまらない事業展開を
立ち上げから2年あまり経った現在。田中さんにフェリスラテの手応えを伺ったところ、「勝負はここからだと思っています。まだまだ予断できません。」との答えが返ってきました。
さらに、「今後は酪農にとどまらずさらなる事業展開をしていきたい」と、田中さん。
「第一弾の追加事業として計画しているのは、私が震災前までいた牧場が空き地になっているのでそこを使って育成牧場をつくることです。」
牛の価格が高騰傾向にある近年では、自分の農場の雌牛に子牛を産ませる農家さんが増えています。しかし、いざ子牛が産まれても育てるノウハウや設備がないため、北海道の育成牧場に連れて行って大人になるまで預けることが多いとのこと。
この一連の流れはフェリスラテでも同様で、ホルスタインの雌牛に子どもを産ませて北海道に預けて育ててもらっています。
しかし、現在すでに北海道の育成農場はキャパオーバー寸前の状態。そこで、“自分たちで子牛の育成もできるようにしよう”というのが田中さんの計画です。
「自分たちで繁殖から育成まで一貫で行えば、他の牧場に子牛を預ける経費を削減できますし、健康上のリスクも回避できます。」
“復興牧場さん”ではなく“フェリスラテ”に。地に足をつけた経営で企業価値の創出を
最後に、フェリスラテの今後の目標について伺いました。
「常日頃言っているのは、“復興牧場さん”と呼ばれないようにしようということですね。固有名詞のフェリスラテという名前があるわけですから、フェリスラテとして認知させたい。きちんと地に足をつけた経営をして、いち牧場として認められるように努力している最中です。」
また、企業価値の創出という部分に関しても、今後ますます注力していきたいとのこと。
「現在フェリスラテは、福島県内では頭数・牛乳の生産量ともに1番、東北では4番目くらいの大規模な農場です。しかし、規模が大きいということが企業としてのステータスかというと、決してそんなことはありません。継続して良い牛乳を提供し続ける・従業員の労働環境や教育環境を整備するなど、企業価値を高めて人に誇れる農場にしていきたいと思っています。」
株式会社フェリスラテ
http://www.milk.fukushima.jp/csr/reconstruction/#felizte
- 営業時間:要問合せ
- TEL:024-573-5101
- 定休日:要問合せ
- アクセス:福島県福島市土船字新林25-17
・事業内容
飼養頭数 573頭(平成29年3月末日現在)
生乳生産量 出荷乳量約14,971kg/日(平成29年3月末日現在)
3月の総出荷乳量464,107kg