読みもの

島根県の離島、知夫里島の繁殖農家として働く18歳・徳若未来さんの牛にかける思いとは?

  • #畜産女子

この記事の登場人物

徳若 未来
下廣畜産
" alt="">

600人ほどの人口に対し、およそ500頭の牛がいるという知夫里島(ちぶりじま)。
これらの牛たちは、島のふた山が公共牧場として7つの牧(まき)に分けられ、20軒ほどの農家がめいめいに放牧をして育てている。牛たちが自由に山々を駆け回る姿は、“のどか”という言葉に尽きる。
現在18歳の徳若未来(みく)さんの実家、下廣畜産では、約70頭の牛を飼い、そのうち12頭を未来さんが自身の名義として育てているという。
自身のインスタグラムは溢れんばかりの牛愛に満ちている。

高校を2年でやめ、家族の反対を押し切ってこの道へ…。
そんな未来さんの牛舎とオンラインで繋ぎ、
牛にかける今の思いを聞きました。

放牧できる絶好の環境に魅せられ
島外からの就農者も増加中

…未来さん、はじめまして。最初に、知夫里島について教えていただけますか?

徳若 まず、信号がないです(笑)

…そうなんだ!

徳若 車がほとんど通らないけん、信号の必要がないんです。だから幼稚園と小学校の時に、信号を渡る練習があります(笑)

…他に特徴はありますか?

徳若 高校は島にはなくて、隣の島に行くか、松江に行くかなんです。私は松江に行ったので、寮に入りました。島では1学年が10人以下なので、小学校中学校は同じ建物になっていて、私の1つ上の学年は一人だけでした。

▲徳若さん:牛舎からリモート取材いただきました

…島で牛が放牧されている景色は、本当にのどかですよね。最近では、知夫里島で新規就農する方も増えてきているのだとか?

徳若 そうですね。島が補助金を出したり、牛飼いを援助する体制があるので、島外からの就農者も増えてきています。私が高校で松江に行っている間に島外から新しい牛飼いの人が来ていて、「誰だろう?」っていうこともありました(笑)。島が小さいので観光客の方が来てもすぐにわかるんです。

牛との出会いは小学5年
牛飼いになりたいという思いは誰にも言えずにいた

…未来さんが高校を辞めて実家の繁殖農家の仕事に就こうと思った経緯について聞かせていただけますか?

徳若 最初は管理栄養士になろうと思って、松江の高校で理数科に入ったんです。本当は牛の勉強がしたかったんですが、当時は周りの誰にも言えなくて。恥ずかしいし、絶対反対されるのがわかっていたから。

…そうだったんですか!? てっきり、ずっと自分の「夢」として公言されてきたのかと思っていました。

徳若 全然言えなかったですね。高校に入ってからも、牛好きというのは高校の友だちにもほとんど言えずにいました。島の中でも女の牛飼いはほとんどいないですし、家でも「女なのにそんなことするな」と言われていたし。力仕事でもあるし、自営業だから不安定というのもあると思うんですが。

…そこで、高校をやめる決意に至ったのは、かなり勇気が要ったのでは?

徳若 そうですね。ただ高校は進学校で、周りはお医者さんとか目指していたので、実際全然合わなくて。それに私は島がめっちゃ好きだったけん、松江の生活にもなじめずにいました。

…島と生活面では全然違ったの?

徳若 松江で買い物とか行ったりするのはたしかに楽しいんですけど、私にとっては島で泳いだりする方が楽しいなとずっと思っていました(笑)。それに松江には知り合いがいなかったこともあって、島の人の温かさが恋しくなったり…。島を出て改めて、私には島がいいんだなとわかりました。それで去年、高2の夏に高校をやめました。

…お家の方をどうやって説得されたんですか?

徳若 高校をやめる時は、自分で決めて、お母さんにも言わず、勝手にやめて島に帰りました。めちゃくちゃおばあちゃんに怒られましたけど(笑)。ただ以前にも一度島に帰って来たことがあったので、母はもう言っても仕方ないと思ったみたいで。その後、一度は料理の道に行こうと思って、調理の専門学校に行って、それでもまだ牛がやりたかったら牛を飼おうと思ったんですが、ある時自分の中でスイッチが入って、「やっぱり牛飼いになるわ!」って…(笑)

…(笑)。すごい決断力!

徳若 高校をやめた時は一番仲の良かった友だちに相談したんですが、牛飼いになるって決めた時は、誰にも言わずひとりで決めました。やっぱり私の頭の中にはずっと牛のことしかなくて…。この仕事はずっと続けられるなと思ったし、牛飼いになったら成功する自信しかなかったので(笑)

…それから1年。今はご家族は未来さんの将来について、どうおっしゃっていますか?

徳若 今はみんなめちゃくちゃ応援してくれています。

…心の中では、牛飼いになりたいという夢は小さい頃から持ってたの?

徳若 実は小さい頃に私の実父は亡くなっていて、私が小5の時にお母さんが再婚したんです。今のお父さんが牛飼いだったので、一緒に餌やりに行くようになって、「めっちゃいい!」と思って(笑)。放課後に手伝いに行ったり、市場が近くなったら朝手伝いをしてから学校に行ったり。もともと動物とか虫はめっちゃ好きだったんですけど。

…それが牛との運命的な出会いだったんですね。

徳若 本当に(笑)。自分でも天職だなと思います。私、好きな芸能人とかも全然いなくて、完全に趣味、牛なんです。スマホのカメラロールも、牛しかいないし、牛以外、な~んもないです。

…この仕事に出会ってなかったらどうなってたんだろうね。

徳若 本当、どうなっていたんでしょうね。料理の方に進んでたのかなぁ。

大好きな牛と一緒に生きていける喜び
この仕事の嫌なところが見つからない(笑)

…未来さんが、この仕事にそこまで惹かれる魅力って何だと思いますか?

徳若 牛が好きなので、好きなことをして生きていけるというのもあるし、愛情をかけて手をかけた分だけ大きく育ったり、返ってくるというのもあります。出産の時も嬉しいし、出荷の時も、ここまで元気に育ってくれて良かったなと感じるし。逆に嫌なことがないです、牛飼いで(笑)

…でも大切に育てた牛を出荷する寂しさはありますよね?

徳若 それはありますね。先日も市場の時にめちゃくちゃ落ち込んだんですが、時間が解決してくれます。あと、寂しくなったら“あの子は頑張ってるかな”とか想像しています。でも事故で死んでしまったり、どうしようもない理由で死んでしまったりした時は、助けられなかったことに本当に悲しくなりますね。

…出荷で言うと、7月の市場の時は、黄色い繋ぎをオリジナルで作られていましたよね?

徳若 そうなんです! これ、作ったのは2回目なんですが、これまで市場がある日は平日で、学校があって行けなかったんです。去年初めて行った時に、私が行っても「誰?」ってなるなと思って、みんなに覚えてもらえるように背中に大きくイラストをデザインして、「下廣畜産」って書いて、島のお店で印刷してもらいました。

この投稿をInstagramで見る

ぴょんぺーと過ごす日もあと少しになりました…😢 ということで、ぴょんぺーつなぎとぴょんぺーTシャツ作りました😍 つなぎは牛市の時に着ていく! うちの島に、シルクスクリーンのお店があるんです!(するだわいって名前のお店) オリジナルTシャツとか色々作れる🙆‍♀️🙆‍♀️🙆‍♀️ そこで作ってもらった~! 可愛くできてほんとお気に入り🥺💕 . この前、夢にぴょんぺーが登場しました。売られていきました… 市場に向けて気合いは十分だけど、寂しさもいっぱい😂 . ついでにセリの時ボタンを持つ自分を想像して、今から緊張してます… ま、ぴょんぺー頑張ろ~💪💪💪 . . . #牛飼い #牛さん #畜産業 #畜産農家 #牛市 #和牛 #知夫里島 #知夫村 #放牧 #牛飼いの日常 #牛飼い女子 #畜産女子 #シルクスクリーン #するだわい #surudawai

徳若未来(@chibu.usigram05)がシェアした投稿 – 2020年 7月月6日午前3時27分PDT

…これ着ると、気合い入りそうだよね。

徳若 入ります(笑)。めちゃくちゃ目立つので、いろんな人に声かけてもらえるし、覚えてもらえますね。

インスタは消費者の方にとっても牛の可愛さや
生産者の顔が見えるツールになれば嬉しい

…それをうまくインスタグラムにアップしたり、インスタの使い方もうまいなぁと思っていつも見ています。こだわっている点などはありますか?

徳若 インスタは、あまり専門的なことは載せずに、知夫の放牧風景や牛の可愛いところを載せて、牛飼いではない人が見ても楽しいアカウントにしたいなと思っています。知夫の放牧場は本当に広いので、それを動画で見せたり。私も小学生の時に触れ合うまでは牛のことも全然知らなくて、なんとなくお肉も食べていたんですが、農家さんのことを知れば、食のありがたみもわかると思うんです。だけん、いろんな職業を知ってもらって興味を持ってもらえるきっかけになると嬉しいなと思っています。

…インスタをやっていて良かったなということはありますか?

徳若 知り合いがすごく増えました! 先日鳥取に牛を買いに行ったんですが、インスタで知り合った農家さんの牛を買ったんです。日頃の投稿からどんな飼い方をしているかもわかるし、聞きたいこともすぐに聞けるので。インスタはやっていて本当に良かったなと思っています。

…この先、将来どうなりたいという夢はありますか?

徳若 今、牛の数は15頭が目標で、「隠岐で一番の牛飼いになりたい」というのが私の夢です。値段とかではなく、肥育農家の方が好む牛、育てやすい牛を作りたいなと思っています。特に自分の牛を持つようになってから、牛がより一層可愛く見えて、やる気も上がりました。責任も強まったし、もうやめられないなと思ってます(笑)

…より一層、牛好きが止まらなくなったんですね。

徳若 はい(笑)。たまに島を離れて松江に遊びに行っても「牛はどうしてるかな」とめちゃくちゃ気になってしまうので、ダメですね。頭が牛のことでいっぱいです。

…最後に、同世代で就農を目指す高校生へメッセージをお願いします。

徳若 私は農業高校に行っていないけん、知識的なことは本で勉強したり、知り合いの肥育農家さんにどんな牛がいいかを聞いたり、他の農家さんがインスタで載せておられる薬や育て方などを参考にしたりしながら勉強しています。牛は経済動物ではありますが、私はやっぱり愛情を込めて育てたいなと思っていて。だからずっと続けられる覚悟を持っている人や、愛情を持っている人にこの世界に入って欲しいなと思います。

// こちらもオススメ