読みもの

リキッドフィーディングがもたらすこと

この記事の登場人物

小嶋 洋朗
有限会社 キープクリーン
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『リキッドフィーディング』という言葉を耳にしたことがありますか?

リキッドフィーディングとは、パンの耳や煎餅粉などロスとして廃棄される食品(いわゆる食品廃棄物)を分解発酵させて液状にしたものを発酵飼料として豚に与える仕組みのこと。エコで豚に高効率で給餌できるリサイクルシステムとして、ヨーロッパ各国の養豚経営において広まりつつあります。

しかし、日本国内では、まだまだ普及していないというのが現状。

今回は、このシステムをいち早く取り入れ成果を出している有限会社キープクリーン代表、小嶋(こじま)さんに、リキッドフィーディングの魅力やメリット、これからの養豚業におけるリキッドフィーディングの在り方について、お話していただきました。

リキッドフィーディングとは?

写真はリキッドフィーディングのミキシングタンク

まずは、一般的にいわれているリキッドフィーディングのメリットを挙げてみましょう。

・リサイクルの過程で乾燥、加熱処理などをしないため、環境に優しく低コスト

・粒子が飛散しないため、豚と働く人の呼吸器系への影響が少ない

・消化吸収を促進することで、豚の成長が早まる

・水分含有率によって原料を選ばずに済むため、食品ロスが少なくリサイクル性が高い

・人間の残飯を使っているため、安全性と衛生面に優れ、しかも高カロリーな飼料が作れる

・コンピューターによる制御で自動給餌が可能なうえに、必要な分だけ与えることで作業の省略化を実現できる

このように、リキッドフィーディングは、養豚システムの効率化・低コスト化はもちろん、社会貢献・環境への貢献も可能にしました。

「リキッドフィーディング導入以前は、飼料確保が大変でした。」

お話を伺った有限会社キープクリーン代表の小嶋さんは、7年前(2009年)からリキッドフィーディングを導入されています。

それ以前は、豚の飼料確保に苦労が絶えなかったそうです。当時、よく使っていたのはパンの耳。しかし、水分を多く含むパンの耳はカビが生えやすく、長期間保存のためには乾燥させる必要がありました。

「当時は、シルバー人材センターの人を呼んでパンの耳を乾燥させる作業をお願いしていました。その作業に1日で200リットル程の灯油を使うんですよ。手間とコストがかかるうえに、こうして作った餌は水分を飛ばしているため比重が軽いんです。比重が軽い餌だと豚が食べても効率的に太らないから、発育にも悪影響が出てしまっていました。」

と、小嶋さんは当時の苦労を語ってくれました。

そして、そんな苦労のなかで出会ったのが、リキッドフィーディングだったそうです。

「あるとき、リキッドフィーディングというヨーロッパでは主流の養豚システムがあると聞いたんです。すぐにインターネットで調べました。うちにぴったりだと思いましたね。もしこの方法を導入できるなら、これまでのような手間とコストを省けるうえに、人間の残飯や食品ロスを飼料に再利用できると思ったんですよ。」

思い立ったらすぐ行動の小嶋さん。名古屋での展示会に参加し、システム業者に直接話をつけたそうです。

リキッドフィーディングがもたらしてくれたこととは

現在は、リキッドフィーディングのシステムを利用して養豚業を営む小嶋さん。

試行錯誤の末に、水分と固形分の黄金比率を生み出したそうです。

「原料を自動的に調合してくれる点も、やっぱり圧倒的に作業効率を良くしてくれましたね。」と、小嶋さん。

また、「リキッドフィーディングは、やり方によってはコストを劇的に下げられます。規模なんて関係なく、小規模な養豚場だってやり方次第で儲けられると思いますよ。」とも。

リキッドフィーディングの導入によって、キープクリーンでは作業効率の向上、飼料コストの削減を実現。こういったことにより、以前よりもはるかにスムーズな養豚運営が可能になったそうです。

リキッドフィーディングが繋げる養豚業の未来とは

最近では、オンラインでリキッドフィーディングを管理するシステムも開発されているようです。

「養豚もオンラインで管理ができる時代までになったんだなと思いましたね。」

現在、新潟県でリキッドフィーディングを導入しているのは、有限会社キープクリーンを含めて二軒のみ。まだまだ日本国内では普及していないこのシステムですが、こういった新しい技術の発達によって、今後大きな広がりを見せていくのではないでしょうか。

「畜産はやり方によっては夢がある。だから面白い」

取材の最後に、小嶋さんが理想と考える畜産業の在り方をお伺いしました。

「まず、田んぼを7~8ヘクタールぐらい作って、温室を持って野菜を栽培し、お母さん豚を10頭~15頭ぐらい飼います。豚から肥料をとって野菜や米を育て、野菜や米の廃棄物などを豚の飼料にします。そして、野菜は自分の食べ物で、米は米として売る。豚も子豚を飼育して売る。こんなふうに、自分のところで全て循環させるやり方が、理想的だなと思いますね。」

なるほど。こんなふうにひとつのサイクルを作って回していけば、コストも抑えられてロスも出ませんね。

「やはり畜産は、やり方によって夢がありますよ。だから本当に面白いんです。」

小嶋さんは、こうもおっしゃっていました。

日本ではまだ珍しいリキッドフィーディングをいち早く取り入れ、革新的なやり方で養豚場を営む小嶋さん。そんな小嶋さんだからこその、印象的な言葉でした。