読みもの

沖縄・石垣島で畜産女子会議。「やっぱり稼ぎたい!そう言わなきゃ!」

  • #畜産女子
  • #六次化

この記事の登場人物

喜納 忍
喜納農場

この記事の登場人物

川満 小夜里
川満養豚

この記事の登場人物

平野 恵
平野養豚場
" alt="">

2023年1月、千葉県の平野養豚場の平野恵さんから「石垣島行きます!」と連絡を受けた。どうやら日頃顔を合わせる機会のめったにない養豚農家が3軒も集まるらしいと聞き、そこで畜産女子たちが何を話すのか、何が始まるのか気になり、石垣島への旅に同行させていただいた。

集まったのはこちらの3組。

沖縄本島から喜納農場の3代目代表・喜納忍さん。
地元・石垣島から川満養豚の嫁・川満小夜里さん。
そして千葉県・平野養豚場の嫁・平野恵さん。

SNSをきっかけに出会った3人。共通するのは、生産や自分たちの商品に対し、強い想いと高い熱量を持っていること。

一次産業は儲けちゃいけない的な共通認識がある中で、「誇りある仕事で、稼ごう!」という気持ちを隠していなかったことも大きかったようだ。3人の話は、お金のこと、沖縄で発生した豚コレラのこと、離島の流通事情…と同業者だからこそ話せる話題が次々と続いた。

石垣島に降り立った平野さんと喜納さんを川満さん母娘が空港で旗を振って、お出迎え。

メンバー紹介

平野恵さん
(千葉県/平野養豚場/“木更津の恵みポーク”/養豚)

千葉県木更津市で3代続く養豚場。50年前より林SPF豚の生産を始め、現在は“木更津の恵みポーク”として多くの消費者に愛される。現場を管理する代表・賢治さんをサポートしながら、解体後もすべての部位を安心して消費者に届けるため、飲食店に“一頭買い”を推奨するなど、地元飲食店とともに、顔の見える生産を目指し、ブランディングに力を入れている。元看護師。

Instagram

喜納忍さん
(沖縄本島/喜納農場/“喜納農場のあぐー”/養豚/キッチンカーkinner’s運営)

喜納農場3代目代表。2020年1月、沖縄で33年振りに豚コレラ(豚熱)が発生、3012頭の殺処分を余儀なくされた。35年以上、独自配合の飼料や飼育方法を研究し続けてきた父・憲政さんの想いを汲み、2020年8月には農場HACCPを取得、沖縄の地産地消を謳いキッチンカー“kinner’s”を始めるなど、沖縄県民のアイデンティティでもある、あぐー豚での再建に挑む。

Instagram
ホームページ

川満小夜里さん
(沖縄石垣島/川満養豚“もろみ豚”・川満精肉店/養豚・生産精肉販売一貫経営)

石垣島で創業50年に渡り精肉販売まで一貫経営を行う川満養豚は、生産した三元豚に泡盛の製造過程から出るもろみ液を独自の配合飼料と共に給餌し、健康で安全なオリジナル豚肉“もろみ豚”を生産。2006年には「もろみ豚」の名称で商標取得。石垣市内および県外、都内のレストランにも提供。農場管理や組合等に忙しい3代目・俊二さんを支え、子育てをしながら精肉店のPRなどを担う。神奈川県出身、元動物看護師。

Instagram
ホームページ

向かった先は海沿いのカフェ。
ランチを食べながらの対談となりました。

畜産業界でもSNSの存在は大きい
〜仲間のつながりと消費者の「おいしい」の声

(Sunny Cafe + Stayにて)

3人の出会いのきっかけはSNS

 私ね、昨日の晩、小夜里さんとの交流の始まりは何だったっけ?

と思って、DMを最初までスクロールしてみたんです。そしたら、インスタに長文でラブレターが送られてきてた(笑)。2019年の平野養豚場の台風被害が落ち着いて、年が明けたあたりだったかな。

小夜里 そうそう。2020年からうちの旦那さんが川満養豚を継いで、二人でやっていこうということになって、でもまだ当時私は他の仕事をしていたので、私にできることは何だろうと悩んでいた時期だったんです。それでまずインスタで養豚農家さんっているのかなって「#養豚」「#養豚女子」で調べたら、やたら投稿が上がってくる人がいるぞってなって…(笑)。しかもすごい豚舎内のこととかも全部見せてるし、こんな人もいるんだって。

 全部見せてます(笑)

小夜里 毎回見ていたら、もうワクワクが止まらなくなって、思わず「初めまして!」とメッセージを送りました。ただ読んでもらえるだけで十分と思っていたんです。なのに丁寧に返信をくださって。

 忍さんとは平野養豚が2019年の台風の被害に遭うより随分前からSNSで繋がって。台風の時は「恵さん! 今何が必要ですか! すぐ送ります!」って連絡くれて、「サンタか!?」ってくらい、大きな段ボールに大量に食料とかブルーシートとかいろんなものを送ってくれて。

 そうそう。でも始まりはもう覚えていないくらいですね。

 うん、きっと波長が合ったんだと思う。

 それで昨年11月に沖縄本島で行われたNIPPON FOOD SHIFT FES.で私がゲストで出ているのを石垣の眞榮城美保子さん(和牛繁殖)が聞きに来てくださって、「私、石垣から来たんですけど、恵ちゃんと知り合いですよね?」って声をかけてくださって。恵さんに報告したら、「じゃ、今度石垣行こうよ」ってトントントンと…(笑)

 そう。美保子さんとはどっこいしょニッポンのYouTube企画の畜産女子対談がきっかけで知り合って。

出荷とか繁忙期とかあるので、みんなのスケジュールを確認して1月のこの日にしようって日程だけ決めて飛行機とホテルだけ取って、あとは現地集合で考えようってことにしたんだよね。

小夜里 私、さっき空港でちょっと泣いてましたもん。ずっと会いたかったけどコロナ禍で叶わない時期が続いていたし、まさか石垣で会えると思わなかったから。

…小夜里さんは恵さんから受けた影響も大きいですか?

小夜里 恵さんは推し!(笑) 憧れですね! 恵さんのインスタに影響を受けて、私も自分にもできる発信をしていこうと思って川満養豚のSNSを始めました。

普段は3日坊主なんですが、3ヶ月毎日続けてみたら結構フォロワーさんが増えて、一気に島内でも知られるようになって。それが今に繋がっているから、始めて本当に良かったなと思っています。それぐらいしかできてないんですけど

 “それぐらい”じゃないですよ! それができることがすごいと思います。だってみんな口では言っていたとしてもやらないじゃないですか。

養豚のSNSは写真も表現も難しい

小夜里 私も始めてみて思ったんですが、SNSを続けるのって面倒ですよね。写真撮って文章作って、個人のSNSではないから言葉遣いや表現も考えないといけないし。

 外から絡まれちゃったりすることもあるしね。

 豚ってどうしてもストール飼いだったりするし、多頭飼いしないと経営も回らないから。放牧飼いとか平飼いがすべて正義だって言うけど、それによってどんな弊害があるかもわからず一方的に意見をぶつけてこられるからね。

 豚なんて放牧したら渡り鳥のフンで口蹄疫とか移されちゃって大変なことになりますからね。

小夜里 うちもこないだ初めてそういうコメントが届いて。私は真っ向から返しちゃうタイプなんですけど、旦那に共有したらうまく返事を書いてくれました。

 そういうのって男の人の方がうまく収めてくれるよね。

消費者の「おいしい」の声は大きな支え

…SNSでの広がりは、気持ちを支える面でも大きいですか?

小夜里 大きいですね。応援してもらえている感覚があって。

 これまでって生産から先が見えなかったじゃないですか。私もSNSを始めたことで「とてもおいしかった」とか「ごはんを食べられないおばあちゃんがこれは食べてくれた」といった声を聞いて、応援してくださっている方がいるんだっていうことを知ることができました。

そんな言葉が嬉しくて、お父さんの仕事ってすごいんだなと思って、養豚を継ごうと決めるきっかけにもなったんです。

 SNSって、本当は専属の人がいないといけないくらい重要なことだと思うんです。写真も文章も頭使うし。それでも皆さん自分たちでされているから、私も刺激を受けて続けています。

生産者は儲かってはいけないという
共通意識に疑問

お金への貪欲さがもっとあっていい

 私、お金の感覚って大事だなって思っていて、でも何か「生産者は儲かってはいけない」みたいな国民の共通意識があるじゃないですか。生産者も「儲けたい」とは言っちゃいけないみたいな空気。あれが信じられなくて。私は一次産業は一番儲かるべきだと思うし、そうでなくちゃいけないと思ってるの。

小夜里 みんなあまり人より良い暮らしをしたらいけないみたいな感覚を持ってますね。

 畜産をやっている人も、「もっと稼ぎたい」みたいな貪欲さってあまりない気がする。牛の場合は賞を取りたいとかってあるかもしれないし、それで名前が売れてブランド的に評価が上がるかもしれないけど、豚の場合はそういったこともほとんどないし。

もちろん従業員の立場として、お給料を上げてもらいたいとかって気持ちはあるだろうけどね。

価値を上げるのも自分たち次第

小夜里 昔川満養豚で人を雇用しようってなった時に、新聞か何かで募集をかけて、完全に養豚を馬鹿にしているような人しか来なかったらしいんです。養豚=誰でもできるみたいなイメージを持たれていて。

忍・恵 悔しいですよね。

小夜里 でも一方で、時給を安くしたりとか、自分たちで価値を下げている部分もあったと思うんです。私はとりあえず暮らせればいいみたいな感覚じゃダメだと思うんですよね。

そんな中、恵さんがインスタでも出されているマセラティは希望の星ですよ。やっぱりそういうのがないと! って思います。島の場合目立ちすぎても出る杭は打たれるし、難しいですけどね。

2020年沖縄本島を襲った
豚コレラの影響

喜納農場、豚コレラからの再建

…忍さんは2020年1月の豚コレラ(豚熱)発生から3年、ゼロからの再建をしてこられました。

 ずっと再建を目指してきて、ようやく衛生基準を高くした上で、以前と同じ飼育頭数まで戻すことができました。やっとスタート地点です。

でも、豚熱を出したことで、罪悪感はあるんです。みんなに移動制限とか、本当に迷惑かけてしまったから。

 なんで!? そんなのもらったんだからしょうがない! 明日は我が身だもん。

小夜里 起きてしまったのは仕方ないこと!

 周りの養豚農家さんにも「申し訳ない」って謝り続けていたんだけど、私がキッチンカーを始めた時、「あいつがやったから自分たちまで移動制限かかって大変だったのに」って言われて。

でも私もあの時は1週間自衛隊が入って3020頭が目の前で殺されたから…。

SNSで嘆いていたら「文句ばっかり言ってる」って悪く書く人がいて、恵さん怒ってくれたんですよね。

 だって豚熱が発生したところは、誰も罹りたくて罹ったわけじゃなくて、みんな頑張ってたけどなっちゃったんだから。行政とのやり取りも無駄なことが多いしね。SNSでもちょっとした言葉尻を拾って言う人がいるから傷つくよ。経験した当事者にしかわからないことってあるわけだから。

エコフィードが引き起こした被害

 でもエコフィード(食品残さん等を利用して製造された飼料)って一時期行政もSDGsで推し進めていたけど、正直豚熱の原因のほとんどがエコフィードだよね。

 うちもエコフィードが原因。中に入っていた猪の肉が感染していて。熱処理の細かい規定はあるけど、私たちにそれらが規定通り処理されているかは確認のしようがないですね。

地元を愛してもらうための
食を通じた取り組み

豚は沖縄人のアイデンティティ

…忍さん、キッチンカーは再建のための一つの手段だったんですか?

 豚熱になって、絶対に喜納農場を忘れられたくないという気持ちと豚肉やお野菜など沖縄県の人たちに県産のものを食べて欲しくて地産地消を広めたいという気持ち、ブランディングとしてメディアに取り上げてもらうためなどいろんな思いがありました。

今はほとんど従業員に任せていますが、キッチンカーは今後も趣味みたいな感じで月2回ほど続けていきたいなと思っています。

沖縄にとって豚食の文化って、戦後食べるものがなかった沖縄を救うためにハワイに移民した人たちが少しずつお金を出し合って、船に乗せて贈ってくれたという歴史もあって。

豚は沖縄の私たちにとってのアイデンティティなんです。戦後、30頭しか残っておらず絶滅寸前だった沖縄の在来種、アグー豚を復活させることもできました。

学校給食や調理実習で食育活動

 私たち千葉県の木更津市も今オーガニックシティとして地産地消に力を入れていて、私たちもレストラン「舵輪」のシェフ・野口夫妻と地元の小学校の学校給食の取り組みを続けてます。

ここにも地域過疎化の問題があって、若い世代に地元に誇りを持ってくれるような仕組みを作りたくて。

学校給食って、コンプライアンスが厳しくて、流通や調理の制限が細かく決まっているんですが、地元の中郷小学校は昔ながらの学校の給食室で作っているから、少し柔軟にすることができて。

給食の時間には校内放送で献立の話やどんな風に育てているかを写真を見せながら説明して、各教室の生徒の子たちに聞いてもらっています。

 めっちゃいいですね。

 5、6年生だったら調理実習があるので、そこで私たちが平野養豚のベーコンを持って行って、みんなでジャーマンポテトを作ったり。

ただ作る、ただ食べるじゃなくて、そこにプラスアルファが乗っかることで木更津って楽しいなとか、僕の地域にはこんなものがあるよ、と言えるようになってもらえると嬉しいなと思ってます。

 私も地元の高校の調理実習には必ず食材を持って行ってお話をします。小学校は調理実習はまだないのでお話だけするんだけど、喜納農場のあるエリアは沖縄の中でも所得が低い地域で離婚率も高くて、インスタント麺の摂取が一番多い地域と言われているんです。

子どもたちも最初は「豚肉なんてお母さん買ってくれないよ」とか「わ、豚汚い〜」とか言ってるんですが、最後は「俺、地元のもの食べるようにお母さんに言うよ」とか「みんな豚肉残さないよな!」とか言ってくれて。

// こちらもオススメ