「家族に適正な対価を払う」。 “和牛の神様”鎌田さんの経営哲学
No.267
はたらく
九州は宮崎県に年間16億円(グループ合計120億円)、卵の年間総出荷数7億5000万個、自社で検疫所を所有し、種鶏から孵化、飼育、採卵まで完全一貫生産している 鶏卵売上の九州一の売上を誇る養鶏企業「株式会社アミューズ」さんがあります。
今回はこの大規模な養鶏企業を経営する赤木八寿夫社長に、養鶏経営に対する考え方や養鶏への取り組み、経営アドバイスなど貴重なお話をたっぷりとお聞きしました。
アミューズグループ株式会社 代表取締役社長の赤木八寿夫さん
経営をするにあたって、一番大切なのは、各養鶏農家さんが5年後10年後『どういうビジョンで・どういうところで・どういう卵を・どの値段で売っていきたいか』っていうのをきちんと作らないといけないと思います。
ビジョンはそれなりにみんな持っているのと思うのですが、それが『消費者にどう伝わっているか』までは考えていないことが多いです。
アメリカの調査の話なので参考になるかどうかわからないけれど、「卵を買うか買わないか」を、お店に行く前に決めていく人は30%前後です。
卵コーナーの前に来たときに、「あ、卵買おうかな」っていう人が60%前後。その中で、買うたまごが決まっている人が10%前後。
ということは、90%前後が「安いから卵買っておこうかな」って思っているんです。
「うちはこの卵しか買いません」っていうこだわりをもって卵を選んでいる人は1割もいないんです。結局、消費者の卵の購入行動はそういうことなんです。
たしかに卵売り場の前に立ってから、どの卵を買おうかなって迷いますよね。なんとなくいつものだったり、その場で色だったりパッケージだったり値段だったり大きさだったりで決めるのがほとんどですね。
そうなんです。なので消費者行動の根本を理解していれば、売る卵、ラインナップとして揃える卵というのは決まってくるんです。
本来ならマーケティング手法に基づいて商品はラインナップしないといけないのだけれども、自分たちが作りたい卵を作ろうとすることで、消費者とのミスマッチがおきて経営がうまくいかなくなってしまいます。
消費者行動も考えながら、バランスをとれれば一番良いですね。
なので経営がうまくいかないのは”宣伝の仕方・伝え方”など、そういうも問題ではないのです。消費者の行動を知ることが大切です。それを理解した上で生産していかないといけないですね。
※イメージです
例えば、ラーメン屋さんとスーパーが欲しがる卵は違いますよね。ラーメン屋さんは、もともと単価が高いからちょっとくらい高くてもいいから割った時に見栄えのいい卵”がほしい。スーパーは卵をその場で割るわけではないから”安い卵”を求めるんです。なので、それに合わせないといけない。
なるほど。そうなるとある程度、条件は決まってくるんですね。
経営をする上で大事なのは本当にそこです。相手が何を求めているか。期待に応えられるものを作っていく。それには規模も必要だし、こだわりがゆえにやれないことも出てきます。その上で、一生懸命やっていてダメになるパターンはほぼないです。
良いものを作っているんだけれど売り方が下手で・・・というケースでは、誰かがそれを見つけて「こんなに良いものをこんなに安く売っているのであれば俺が売ってやる!」っていう人が絶対でてきます。
なので、いいものを低コストで作っているのに儲からないというのはほとんどないです。
生まれた卵が自動的に集卵される機械です。このあと、パック詰めをする工場に運ばれます。
生産性を上げるための取り組みについて教えてください
生産性で言えば、やはり機械化・自動化は避けて通れません。
例えば機械化・自動化をすると製造コストが100万円安くなるとします。
(経営判断としては)人の労働時間が減って製造原価が100万円安くなる機械にいくら払えるかっていうところですね。利回りが目標7%くらいあるのであれば、導入すべきだと思います。
さらに自分たちの使い方次第でもっと効率化することだってできます。設備投資資金については政策金融公庫という味方がいるので、うまく使うといいと思います。
畜産というのは人気がない職業だから人を採用するのが非常に難しいです。しかも平均年齢が高齢化している。無茶ができなくなってきます。となると、機械に頼ることが一番生産効率がいいと思います。そうすることで一番負担の多い人件費も軽減することができますからね。
孵化する卵の成長過程を表す機械です。経過日数・卵の中の状況・管理温度・湿度がひとめでわかるパネルです。
孵化する卵の成長過程を表す機械です。経過日数・卵の中の状況・管理温度・湿度がひとめでわかるパネルです。
赤木社長は、すごい機械を導入されていますよね。これらはどうやって入手しているのですか?
最新の良い機械を手に入れるために、海外へ行って世の中にどんな機械があるのかを知らなければ、良い機械は手に入れられません。
日本にも機械の展示会はあるけれど、日本をターゲットにしているメーカーしか来てくれない。良い機械があったとしてもそのメーカーが日本に興味を持っていなければ、日本には来ないですよね?だから、自分でその機械を探しに行くしかないんです。
アメリカ・ドイツ・オランダの展示会があればだいたい参加するようにしていますね。
まずメーカーさんにどういう風に使っているのか聞いてみて、その後実際に養鶏場を2〜3件視察させてもらい、自分の目で見てみて、そこのオーナーさんに機械に対する満足度やいい点・悪い点をヒアリングして製品のよしあしを確かめます。
どんなに機械がよくても、壊れやすかったらダメですから、壊れた時の修理のしやすさも確認します。
それらを全部踏まえて「よしっ!」と思えば買っちゃいます。なので、買うまでには2、3年かかりますね。
え!そんなにかかるんですか?!
例えば、いいものであれば1社しか作らないわけないじゃないですか?
絶対にどこかの企業が似たような製品をだしているだろうから、他のメーカーでも似た様なものがないかも調査します。
そして、基本的にはナンバー2に声をかけますね。その方が企業側も頑張っているし、待遇がよかったりするんですよ。
今あるGPセンターは世界中を飛び回って、自分で10年前に設計したものです。今ではそのGPセンターに匹敵する様なGPセンターは10箇所ほどできています。
私は10年間にこれを作ったのですが、それを真似て設計したところが増えてきたということは、10年前に取り組んでやったことが正しかったのだと思っています。私は常に10年先のことを考えて判断していますよ。
これからもっと養鶏を大きくしようと思われている農家さんに何かアドバイスはありますか?
ん〜やっぱりお金の計算だね、一番は。やりがいとか想いとかを否定するわけではないですよ。それはすごく大切だと思います。
しかし、お金がないことには始まらない。いろんな人を巻き込んでいくとなれば、お金がないと巻き込めない。ちょっとキツく聞こえるかもしれないけれど、夢とかストーリーだけでは、うまくいかないんです。
日本の教育のせいかもしれないですが、「お金儲けをすること=ずるいこと」思っているふしがあるんですよね。だから、お金のことを堂々と話したりはしない。「お金のことを話すのははしたない。下品だ」ってできるだけオブラートに包んでみなさん秘密にされてますが、それはよくないと思います。
家族や従業員、いろんな人を幸せにすることを目標だとしたら、そこにお金を絡ませないことには、お金なしで幸せっていうのは、難しいと思うんです。なので、まずはそこだと思います。
あとは、俗にいう(マーケティング・ミックスの)4つの「P」っていうやつかな。
「プロダクト」「プレイス」「プライス」「プロモーション」です。先ほども言いましたが、「何をどう作って、どこで、いくらでどう売っていくか?」という、その売っていくというところまで物事考えて作らないといけないですね。」
私は、トヨタがやっていることを究極真似するべきだと思う。あっちは工業、我々は農業だからっていう話がでてきますが、僕は関係ないと思います。何かのものを作って売るって言うことで言えば一緒だからです。だからトヨタがやるようにしてモノを作り、トヨタがやるようにしてモノを売り、トヨタがやるようにして顧客満足度を上げていくのが大切だと私は思います。
だから、農業とか、工業とか、商業も含めて、線を引く必要性は一切ないと思う。考え方は全て同じだということです。ビジネスの原則はすべて一緒です。
最後にもう一つ加ええれば、「周りに流されちゃダメ」ってことです。自分が正しいと思うならそれを貫くべき。農業をやっている人たちは農業思考回路に入ってしまう。人の意見を聞いて自分の道を変えちゃいけない。
周りが反対するってことは、本当にダメなパターンももちろんありますが、おそらく「みんながやろうとして諦めた道」である可能性が高いです。だから、反対されるんだったら、むしろ進めるべきだと思います。
赤木社長は、周りの方々に相談しながら決めていった事はないのですか?
ん〜相談するけれども、ただ手応えを確かめるくらいかな。何かの判断を頼む事は絶対ない。判断は自分でします。どう思うかという意見は聞きます。あくまでも参考意見としてね。
これからの日本の養鶏のスタイルはどう変わっていくと思われますか?
採卵養鶏だけに関して言えば、「アニマルウェルフェア※1」は避けて通れないと思います。
しかし、これを実践するには、設備投資が必要になり生産性も下がります。 その結果、製造コストが上がり、卵の販売価格が高くなり、結果的に消費者が卵を買いにくくなります。
そうすると、今一人当たり340個まで増やした卵の消費量※2を250個くらいに減らすことにつながる※3と思うんです。
※1 欧米を中心に広がっている動物福祉の考え方。養鶏では平飼い(放し飼い)された卵を指すことが多い。
※2 日本人一人あたり卵の年間消費量は約340個でメキシコに次いで世界2位(2018年国際鶏卵委員会まとめ)
※3 2012年にヨーロッパでアニマルウェルフェア対応の卵が販売されるようになった結果、2割ちょっと卵の消費量が減ったそうで、それをもとに計算したおおよその数字です。
それは、農業生産者として、正しい選択だとは思わない。ただ一方で、「アニマルウェルフェアという考えを否定するのも間違っている」と思います。
だから、どこかで受け入れて落とし所を見つけて「鶏の幸せ」を考えていきながら、同時に(一人当たり消費量)340個を減らさない方法を見つけ出して解決していかなければいけないと思います。
私の肌感覚だけれども、全消費者の内0.5%〜1%未満ぐらいの消費者がアニマルウェルフェアに基づいた卵を求めている。
だから、その人たちの要求は認めてあげなければならない。イメージ的にいうとヨード卵光の卵がどこのスーパーにも置いてある様に、ヨード卵光と同じくらいの量のケージフリーの卵が置いてある状態がベストだと思います。
ただ、正直な話をいうと後先考えずに、やらない方がいい。なぜかと言うと失敗したときに、取り返しがつかないからです。
一回購入した設備は20年使うでしょ?20年先、未来の先をわからないものに対して投資してはダメです。さっき言った様に、0.5%未満あればいい市場だから99.5%の市場で努力すべきだと思います。
例えば、ハイブリット車という新しい市場があったとします。まずはトヨタだけにやらせておけばいいんです。そこでトヨタが何年もやり続けて頑張った結果、ある一定のマーケットがハイブリットで取れる様になって、そのときに始めればいいんです。
入る事は悪くないが「入るタイミング」が大切です。だからその0.5%の市場が5%、10%、15%になったタイミングでやったらいいんじゃないかと思います。
何でもかんでもやってしまうのは、経営を苦しめてしまう可能性があるっていうことです。だから、経営に余裕があり、そういうチャレンジできる状況になるのであればやるべきだと思います。
無理をして、今のスタイルを崩してしまうのはもったいないですね。そして、世の中のタイミングをきちんと見極めることが大切ですね。
私が思うのは、想いと経営は別物ということです。農家さんの思いを消費者が求めているのでればそれでいい。
でもたとえば、お米を買うときに、その農家の想いのこもったお米を買っていますか?想いのこもったリンゴを買っていますか?
(多くの消費者は)多分お買い得のもの買っていますよね。なんなら外国産を買ったりしていませんか?自分ではそういう買い方をしているのに、なぜそういう「想い」で売れると思うのか?ということです。
立場を変えて考えれば、明確に答えは出ることなんです。消費者が本当に求めているものはなにか?を考えることが大切なのではないでしょうか。
結果王道をやるのが一番いいんです。長い歴史、みんながやってきたことと同じことをやるのが一番正解だと思っています。
赤木社長、貴重はお話ありがとうございました!
【 株式会社アミューズプロフィール 】
世界の養鶏産業の流れを見ながら、ニーズにあった卵の種鶏を直接輸入。最先端の情報を常にキャッチし、生産率の高さなどを踏まえたベストチョイスを考えながら、養鶏場に利益率の高い種鶏を提供している。また、自社で検疫所を所有し、種鶏から孵化、飼育、採卵まで完全一貫生産。
採卵鶏数約250万羽(アミューズグループの採卵鶏飼養数は250万羽、1棟あたり4万羽飼養しています。宮崎県全体の飼養羽数は350万羽なので、宮崎の3分の2以上のシェアを誇ります。)
ひよこ出荷数 450万羽(アミューズから出荷、販売されるメスヒナは450万羽で九州全域、西日本で販売されております。西日本でたくさんの鶏が卵を産んでいます。)
たまご出荷数 約7億5000個(アミューズグループ200万羽から出荷される卵の年間総出荷数は個数で表すと7億5,000万個にのぼります。この数は九州でも最大の卵の出荷量でもあります。)九州一大規模な採卵養鶏家。
〒883-0022 宮崎県日向市大字平岩8356
TEL:0982-56-2567 (代) FAX:0982-56-2577
http://www.amusegroup.jp/