仔牛の哺育を科学する、トータルハードカーフサービス。 | どっこいしょニッポン

仔牛の哺育を科学する、トータルハードカーフサービス。

No.270

はたらく

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北海道別海町に拠点を置く獣医師による開業動物病院「株式会社トータルハードマネジメントサービス」。診療や人工授精のみならず、獣医学に基づいた酪農経営戦略のコンサルティングなども手がけています。このユニークな会社が2014年に立ち上げたのが「農業生産法人 株式会社トータルハードカーフサービス」。一般的なキャトルセンター(仔牛受託施設:90日齢程度まで預かるケースが主流)とは異なり、約60日齢程度までの仔牛の哺育預託を専門としています。代表取締役を務める平野葉子さんに会社の特徴や強みを伺いました。

獣医師の視点から仔牛の健康な育成を考え抜いた牛舎設計

ここは北海道別海町の上春別エリア。どこまでもまっすぐに伸びる道をクルマで走っていると、「農業生産法人 株式会社トータルハードカーフサービス」の愛らしい看板が目に飛び込んできました。敷地内に足を踏み入れたところ、取材陣を迎えてくれたのは仔牛たちのつぶらな瞳。代表の平野さんがにこやかに「この子たちはまだ生後3週間も経っていないんですよ。かわいいでしょう。さあ、牛舎をご案内します」と導入舎と呼ばれる牛舎を見学させてくれました。

導入舎は、下痢が終わる生後3週齢くらいまでの仔牛を育てる場所。牛舎とは思えないほど陽光がたっぷりと降り注ぎ、明るく開放的な雰囲気に仕立てられていることに驚かされます。それもそのはず、天井を見上げると、透明に造られた屋根が太陽の光を呼び込んでいました。

当社を設立したのは、株式会社トータルハードマネジメントサービスの代表でもある佐竹獣医師。酪農は科学と言い切るほど理論的なタイプですから、牛舎の造りもすべて獣医師の視点から仔牛が健康的に発育できるように考え抜かれています。この透明な天井も仔牛が太陽の光を感じながら日々を過ごすための設計。暑い日はカーテンを引くと遮光できるんです

さらに、牛舎内には陽圧換気システムという仕組みを導入。ダクトに開けた穴から一頭一頭の仔牛の鼻先に外のフレッシュな空気を送り込み、呼吸器病の発生を防いでいます。その際、寒冷ストレスで風邪をひかないよう工夫しているというのも実に細やかな気配りです。

哺乳についても粉ミルクの濃度は十分に栄養を満たせるように調整していますし、離乳に向けた減乳の仕方も独自の方法です。仔牛の本能でもある『ミルクを吸いたい』という欲求を満たした上で、ミルクはバケツのニップルから出てくることを覚えさせるために、哺乳後は道具をしばらく片付けず、吸い続けてもらうというスタイルも獣医師ならではの発想だと思います

社内の獣医師が毎日一頭一頭の仔牛をチェック

次に案内してもらったのは離乳した仔牛が暮らすロボット牛舎。陽光を取り入れる工夫や肺炎対策の換気システムは導入舎同様に完備し、ここでは哺乳ロボットも導入しています。

哺乳ロボットはスタッフの作業がラクになる分、ニップルを介して風邪や肺炎が広がる可能性もゼロではありません。ただ、当社には獣医師が勤務していますから、毎日従業員と二人一組で一頭一頭の見回りも欠かさないようにしています。例えば肺炎が重篤化すると、成牛になった際の生産量にも影響を及ぼす可能性が高いんです。そのリスクを軽減するためにも、社内の獣医師がスピーディに診療できるのが大きな強みになっています

ここまでお話を聞いていると、仔牛の哺育期間は実にナイーブ。成長した際に生乳をたっぷり出せるよう体重を増加させなければならない一方、病気を防ぐために仔牛にとって優れた環境を整え、体調が崩れた時には迅速な処置が欠かせません。有りていにいえば、「大変」で「大事」なこの約60日間に絞り、サービスを提供する理由とは?

それこそが当社を設立した佐竹獣医師の最も大切にしている思いとつながります。酪農家さんは規模の拡大が続く傾向にあるものの、後継者不足や高齢化など労働力の不足が慢性的な課題です。成牛の搾乳をしながら仔牛を健康に育てるのは体力も奪われますし、生まれたばかりの子が病気にかかってしまうのは精神的にも辛いもの。私たちが責任を持って仔牛の哺育をすることにより、酪農家さんは搾乳や牧場経営に専念できるというメリットがあります

酪農家からの「仔牛を預けてラクをさせてもらっているよ」「帰ってきた牛が順調に育っているからまた預かってほしい」という声がスタッフを突き動かす原動力だとか。それでも、一般的な牧場と比べて神経を使わなければならないのでは…という質問をぶつける前に「何より、仔牛はかわいいですからね。寝ている姿を見ているだけでも幸せで癒やされます。私たちは仕事と向き合うチカラを仔牛からもらっているんです」と平野さん。そのやさしい眼差しの奥に、仔牛への愛が揺れていました。


株式会社トータルハードカーフサービス
北海道野付郡別海町上春別旭町22番地
080-9000-0643
http://thms.jp

この記事を書いた人有限会社シーズ

北海道札幌市で、取材編集やデザインワークに取り組むプロダクション。

インタビューやルポから、各種誌面・webサイトの企画制作などのオシゴトをアレコレと。近々、酒場にまつわる下世話なハナシをまとめた『サカバナ』という本を出版する予定。お買い求めいただいた方から「なにこれ?」と評されること、必至であります。

有限会社シーズ http://www.cs-sapporo.com/

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