〝宮崎では無理〟と言われたチーズ作りへの挑戦で、仲間や地域と繋がった。 | どっこいしょニッポン

〝宮崎では無理〟と言われたチーズ作りへの挑戦で、仲間や地域と繋がった。

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宮崎県小林市にあるダイワファームは酪農のほか、自社で採れた牛乳を加工したアイスクリーム、チーズの製造販売を行っています。

牛乳づくりから加工販売まで一貫体制で取り組む牧場は、実はまだ多くはありません。しかも、代表の大窪さんは、六次産業化が今のように浸透していなかった平成5年にこの道を進むことを決意したそうです。当時としては、未知の世界に飛び込むような大きな方向転換。今回は手探りで突き進み、その先で見つけた喜びのお話をお聞きしてきました。

▲ダイワファーム店舗

▲ショーケースには自家製チーズがずらり

大規模経営に乗り出したタイミングで苦境に

酪農業を営む家族の元に育ち、子どもの頃から牛も牛乳も大好きだったという大窪さん。高校卒業後に静岡の牧場で一年研修してから実家を継ぎ、アメリカのように企業的な酪農をしようと大規模経営へのシフトを試みます。

ところが40頭から60頭に牛を増やした平成5年、牛乳の生産調整が入って苦境に立たされてしまいました。

「生産調整が予想以上に厳しくて、出荷できなくなっちゃいました。それでもうよそに頼らないぞ、と決意して。自分で道を切り開こうと牛乳の加工を始めることを決めました」

まずはおいしい牛乳を作る

大窪さんはアイスクリーム作りの道を模索します。昔の研修先だった静岡の牧場はすでにアイスクリーム製造を始めていたので相談してみると、最初は強く反対されたそう。

「牛乳が余るからアイスクリームを始めよう、そんな気持ちでは成功しないと言われました。どこにも負けないようなおいしい牛乳を作ってから始めろと覚悟を問われましたね」

大窪さんは牛舎を改築して環境を整え、国有林から湧き水を引き、おいしい牛乳づくりのために奮闘します。さらに、乳固形分の多い生乳が絞れるブラウンスイスも購入。決して経営が楽でない中の大きな投資でした。そうして3年の準備期間を経て、平成8年にアイスクリーム販売を開始しました。

▲ブラウンスイス

「400万以上かけたなぁ。もうこっちは必死ですよ。これをやらんとアイスクリームを始められん。当時は大変だったけど、今となってはやってよかったですよね」

▲ダイワファームのアイスクリーム。ひと口目はしっかり濃厚なのに、その後はさっぱりと食べ続けられます。

▲持ち帰りできるタイプも販売。

チーズとの出会い

アイスクリームを始めて5~6年がたった頃、大窪さんとのチーズとの出会いがありました。それは、月刊誌『現代農業』に掲載されていた「家庭でできるチーズ」という記事。

「それまでチーズのことは頭になかったです。給食で食べたことはあったけど、当時のは石鹸みたいな味だったので(笑)。でも、雑誌でチーズを見て『あら、面白そうだな』と興味を持って」

まずは家の鍋を使ってチャレンジしてみることに。しかし、ここでまた壁にぶち当たります。

「材料のレンネットをどこで買えばいいのかわからなくて。薬局で聞いてみても誰も知らない。今ならネットで検索すればすぐわかるんだろうけど……」

レンネットとは、牛の胃で作られる酵素のこと。チーズ作りにはこれが欠かせません。しかし、チーズ作りがまだ盛んではなかった当時、手に入るところはごく限られていました。大窪さんがあちこち探しまわっても見つかりません。

「そこですごい偶然があって! 飲み屋で知り合った人が農業高校の先生で、学校にレンネットがあったんですよ。しかも、ちょうどその2~3日後にチーズを作るそうで、実習に呼んでくれました。農業高校生と一緒の実習がはじめてのチーズ作りです。当時45、6歳だったかな」

道具も何もなかった当時、ペットボトルでモールドを作り、発泡スチロールに水を張ってその上にチーズを置き熟成室代わりに。湿度が足りなくて最終的にひび割れてしまったそうですが、それでもはじめて作ったチーズの味は格別だったそう。

「いまだに忘れられない味です。食べる時は私の友達何人か呼びました。そのまま食べたらちょっと堅かったけど、ホットプレートで焼いたらとろけて! ナチュラルチーズはとろけるって聞いていたけれど、実際自分の作ったのがとろけたのは感激でしたね」

それからその先生にレンネットの入手方法を教えてもらい、家でも試作するようになりました。

▲現在は加工室があります。

▲少しでも費用を節約しようと、自分で設計図を描いて作った機械も。

〝宮崎では無理〟の言葉に闘志を燃やす

そうしてチーズ作りにすっかり魅了された大窪さん。あちこち視察へ行き、本格的なチーズ作りに向けて邁進していきます。

しかし当時、九州でチーズ作りをしているところは3~4軒ほど。「九州はチーズ作りに向かない」とも考えている人も多くいました。

「実は私も宮崎では無理と言われたんですよ。でもそれを聞いて、逆に何が何でも作ろうと思いました」

確かにチーズ作りといえば北国のイメージが強いかもしれません。しかし、実際はそんなことないと大窪さん。

「むしろ、モッツァレラなんかはこっちで作った方がおいしいのができるのかもしれないと考えています。だって、チーズの本場・イタリアは南北に長くて、モッツァレラの原産はナポリよりももっと南の暖かいところ。だから日本だって絶対そうだ。もうそういうことにしている(笑)」

▲ダイワファームのモッツァレラは2014年のJAPAN CHEESE AWARDで金賞を受賞。

4年くらい試行錯誤した後に、チーズ作りで有名な湯布院の“うらけん”こと、浦田健次郎さんと知り合います。惜しみなくいろいろ教えてくれた浦田さんの助力もあり、チーズ作りが一気に軌道に乗りました。

その後の販路は、営業して開拓したというよりは、おいしいチーズを作ることに熱中していたらじわじわ口コミで広がっていったそう。Japan Cheese Awardやオールジャパンナチュラルチーズコンテストで数々の賞を受賞したり、シェフやオーナーが視察に来てくれたり、「ダイワファーム」の名前は着実に広まっていきました。

▲ちなみに「ダイワファーム」は、大窪和利さんの名前に由来しています。苗字と名前の頭一つを取っているのです。

チーズ仲間との出会い

大窪さんは、訪ねてきた人にはチーズ工房や製作工程をすべて公開しているそうです。

「やる気のある人には全部見せますよ! チーズ作りは、同業者との情報交換も楽しみです。アイスクリームだけをやっていた頃は横の繋がりはほとんどなかったけど、チーズを始めたら日本全国いろんな方との交流が生まれました。これが財産です。幸せですよね。もちろん作り方を公開しない人もいますが、それはその人の考え方ですから」

▲トーマは2~3日に一回、丁寧に拭きながら様子を見て熟成させています。

▲ロビーダイワは熟成するにつれて淡いピンクに。

しかし、一緒に作り方を学んでも、それぞれ作るチーズはまったく違うのだとか。

「チーズっていうのは作る人の感性だと思うんですよ。だから条件が同じでも、作る人によって出来上がりは変わってくる。知識だけでなく、身体で覚えないとしょうがない。自分で何回も作って、失敗しないとだめですよ」

さらに、チーズ作りの過程で出るホエーを地元の養豚場へ卸したり、逆にワイン作りの工程で生まれる搾りかすを貰ってチーズを漬け込んだり、チーズを通して地域や他業種との交流も広がっていきました。

▲ワインの絞りかすに漬けたチーズは、フルーティーな味わいになるそう。すぐ売り切れてしまう大人気商品です。

これから六次化をやろうと思っている人に。

平成5年に加工の道へ進んでから24年。今では宮崎県のダイワファームといえば、六次化の先駆者として知る人ぞ知る存在です。おいしいチーズやアイスクリームを求めて各地から人が訪れます。

「最初は全部一人でやっていましたが、今は従業員が増えて楽になりましたね。チーズは、北海道で修行して帰ってきた息子がほとんど作っていて、私はあれこれ口出しするだけ(笑)。娘も手伝ってくれています。まだまだこれからです。海外のチーズに負けないくらいのものを作りたいですね!」

最後に、これから六次化を進めようとしている人へのメッセージを聞いてみました。

「良く見えるかもしれませんが、大変ですよ(笑)。本当。よっぽど奥歯を食いしばってやらないと、簡単には回るようにならないです。だけどすごく面白い。辞めたいと思ったことは一切ないですね!自分で作って、自分で売るというのがいいです。あと、私は日々楽しむことが大事だと思う。こんなおいしいのができたって晩酌しながらね」

チーズの話を始終楽しそうにする大窪さん。忙しさをものともせず、楽しそうに日本各地、そして海外までフットワーク軽くおいしいチーズを求めて訪問や勉強を続けています。「もっとおいしいものを」と向上心を持ち続けて進んでいく様子が印象的でした。

有限会社ダイワファーム

http://www.daiwafarm.net/

  • 営業時間:10:00〜18:00
  • TEL:0984-23-5357
  • 定休日:水曜定休
  • アクセス:〒886-0001 宮崎県小林市東方4073

この記事を書いた人横田ちえ

鹿児島在住フリーライター。WEBと紙の両方で企画から撮影、執筆まで行っています。(取材範囲は九州が中心)鹿児島は灰が降るので車のワイパーが傷みやすいのが悩み。温泉が大好きです。 Twitter(@kirishimaonsen)  

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